第24話 策略

 6月12日18時30分訓練が終わり生徒達はホテルに戻る為バスに乗り込む。


 ブゥン……ブゥン……と信条しんじょうのスマホが鳴る。

 信条しんじょうは予感はしていた、正直連絡が来るだろうなと覚悟していた。


「はい……お疲れ様です、刑部ぎょうぶさん」


 電話越しでも少しイライラしているのが分かる、だが信条しんじょうは理由は知っている。


『ねぇーそっちの佐賀第1支部に僕が建てた、城内格闘戦キャッスルコンバット用の城……何度も壊した?』


 予想は的中していた、……のだが額から冷や汗が止まらない。


 刑部ぎょうぶ カイリ

 天城あまぎ テンコ並の魔力の持ち主ではあるのだが、戦闘……いや、人類の生存何てものに興味を持たず、1人自分の造った建物の中で科学実験を繰り返すマッドサイエンシストなどと言われている。

 確証は無いのだが、生きた鬼の体を使った人体実験ならぬ鬼体きたい実験をしていると噂になっていることから、隊員達はあまり近づきたく無い存在なのだ。


『でぇ、どうなの?』


「はい……あの……盛大に何度も壊れました」


『あーあやっぱりか! そのせいで今日も動いてないのに疲労が半端無いよ、最近こういうのばっかりで……もぅ大変。

 それでえーとこれ後何日続く予定?』


「今週の土曜日なので後4日です……」


『まじかーこんな辛い思いを後4日……これは京都総本部から特別手当出るよね?』


 何故ここまで強気にこれるのか、これは仕方の無い事であった。

 刑部ぎょうぶ天城あまぎ テンコ以外には内緒にしているが【狗神刑部狸いぬがみぎょうぶだぬき】という最も秀でた狸の妖怪である。

 強い魔力を持っており、能力名【建造物創造】はどんな場所にでも、自分が思い描く建物を数秒で造る事が可能である。


 それも建物が破損した場合建物自体が自己修復をする為1度と建った建造物は半永久的に残るこの事は全隊員、生徒には認知されている事なのだが、一部の隊員しか知らない欠点が1つ……修復するには術者の刑部ぎょうぶの気力、魔力を消費する。

 なので中間管理職の隊員は本部の指示と刑部ぎょうぶの威圧に板挟みになる場面がよくみられる。

 陰陽道の本部、支部、学園は全て刑部ぎょうぶによって造れている為、何もしていなくても1年間ダラダラとしていても本部長以上の支給がされる。


 まとめると刑部ぎょうぶはかなりの権力を持っているのだ。


「はい……総本部の方には、私から連絡しておきます……大変申し訳ありません」


『ほんとー、じゃあよろしくね!』(´∀`)


 ブチッ……プーップーッ

「先に連絡しておくんやったな……」




 19時05分バスはホテルに到着する。

 あの信条しんじょうさんがバスで移動中一言も喋らず、肩を下ろしている所を見て少し近寄り難い雰囲気であった。


「夕飯は19時40やから遅れずになーじゃあ解散してええよー」


 溜息混じりか、その言葉に今までよりも覇気が減っているように思えた。




 ——20時58分、大広間での食事が終わり各々の部屋へと入る。


「いやー今とても幸せな気分だわ、流石近江牛! 柔らか過ぎるだろ〜」


 確かにあんな肉今まで食べたことのないほどだった……。

 恥ずかしながら、この僕が牛肉を口に入れた瞬間「うぅわ」と声をあげてしまうほどに……。


 2人で夕食の余韻に浸って幸福を噛み締めている時だった、コンコンッと誰かが部屋の扉をノックする。


「んー誰か来たけど」


「うん、僕出てくるよ」


 小走りで向かい、扉を開ける。


「はい、どちらさ……」


あきら、今『あっ』って感じの顔になってましたよ……もしかして忘れていましたか?」


 扉を開けると浴衣を着た宇多うた上条かみじょうさん、黒子くろこさんが扉の前に立ちこちらに疑念の目を向けていた。


「……いやいや、えーと待ってたよ遅かったね」


「いや、見苦しいぞ伏見ふしみ君」


黒子くろこも、そー思うぞ嘘が下手だな伏見ふしみ



「……すみませんでした」



 僕の誠心誠意心がこもった土下座を披露し、3人は全く男って奴はと言わんばかりの顔のまま部屋の中へ入って行く。




 ——僕達は円卓状のテーブルを囲い、宇多うたが口を開く。

「まず京都校……兄さんのチームと戦うに至っての役割と準備を私の案ですが説明します」


「役割と準備って言われても、あれやられたら何も出来なく終わりそうだけどなー、あの……あれ最初に見せた建物破壊する奴」


 確かにあれは頑張って止めようとしても、宇海うみの才能の前では策なんてあっても無くても同じ事なのだろう……


「大丈夫です、その事の対策も考えていますよ。

 その為に明日の訓練での布石を打つます。

 まず兄さん達はなぜ、あんな確実に勝てる方法がありながら今日の試合中2回しかしなかったか分かりますか?」


 宇多うたが僕の方を見つめ問いをかける。


 余り戦闘経験がない僕なのだが、ご指名のような顔でこちらを見ている為知識が無い僕なりに振り絞って問いに答える。


「確実性が無いとか、相手によってパターンを変えてるとかかな?」


 宇多うたは僕の問いに目を瞑って聴いている、僕の回答後「そうですね……」と小さく声を漏らす。


「多分それは違うと思っています」


「どうしてかな?」と次は僕から即座に問いを出す。

 宇多うたは一呼吸も置かず回答を語り出す。


「まず、確実性が無いって事については……建物破壊を使った2戦私は全員を観察していましたが全く無駄の無い動きでした、あんな数分で高度な技術を使っているにも関わらずですよ。

 それに、もし相手によってパターンを変えているとしたら行動が速すぎるんですよ、それに1回戦は誰も戦闘行為は行っていない筈ですから相手がどんな戦い方をするか調べる素材はなかった筈です」


 ぐぅの音も出ないとはこの事なんだろう、初めて経験する事だった。


「私は錯乱の為だと思っています、1回戦目に建物破壊をしたのは意味があったんです。

 あんなの見せられたら誰でもその事が頭に浮かび警戒する、その為数分でも相手を警戒させ錯乱させる。

 途中で使ったのは錯乱だと思わせない為ですね、隙があったらやるよ! スタンスだと思っています」


 皆んな宇多うたの説に共感した。


「けど、宇多うたさん、それが分かった所でどうすればいいの?」


黒子くろこもそお思う」


 右頬の口角を上げニヤリと「それはですね」と策を提案する。


「と言う事で、明日の試合初戦でこれを実行しますので跳躍強化呪術オーバージャンプ反射神経促進呪術オートブリッツを装備しておいて下さいね」


宇多うたさんらしくない大胆な作戦ね」


宇多うたは意外とSなんだな! でも黒子くろこは良いと思うぞ」


「私らしさって何ですか……私は勝つ為ならなんでもやりますよ」


 戦いに緊張や不安も無く、柔らかい笑顔で皆んなと何でも言い合いる今の瞬間この現状チームとしての結束が生まれた事だろう。


 そして、この現状を壊す様に遊馬あすまが一言。


「そろそろ眠くなってきたから、解散しね?」


 デジャブか、3人の顔が男って奴はと言わんばかりの蔑んだ目を遊馬あすまに向けていた。


 だが、遊馬あすまは痛い視線をもろともせず、「ふぅわぁ」と倦怠感を思わせるあくびを1発。

 遊馬あすまの心の強さはここまで来ると才能であると理解してしまうのであった……。





 ——同日22時17分東京のとある場所


 8階建てのビル5階電気は消してあり、月の光だけが照らす真っ暗な部屋にスーツを着た大柄の男が2人と少女1人【玉響たまゆら 桔梗ききょう】が会合していた。


 玉響たまゆらは大柄の男の1人に噛み付いていた。

「ねぇー何で白銀の女の子陰陽道にあっさり奪われちゃうの〜。

 御殿場ごてんばさんの担当だったじゃーん! 少しは抵抗しなさいよー」


 ドスがきいた低い声で男も反論する。


「相手はあの天城あまぎだぞ、無理言うな相手が悪すぎる身を引くのも作戦だ、今はな」


「そうだけどさ……ブゥー」

 両頬を膨らませ、分かりやすく不機嫌だからねっと強調していた。


「そうだーそういえば、楠那くすなさん薬は出来たの?」


「はいはい、これですよ玉響たまゆら殿」


 玉響たまゆら楠那くすなと呼ばれている男はスーツの左胸ポケットから小さい注射器の様な物を取り出す。

 中には赤い血液の様な液体が入っていた。


「それだけー?」


 楠那くすなは「はぁ」と溜息をつき、この1本が出来るまでどれだけ大変だったか語り出す。


「褒めたくはないですが、昔の陰陽道は凄いですね〜青鬼せいきの王、牛鬼ぎゅうきの封印を2日かけて右手の人差し指の先っぽ1ミリしか解けなかったんですから、それから1本出来ただけでも奇跡みたいなものなんですからね」


「分かったよぅ……」

 熱が入った言葉に少し引き気味であった。


「それであの子は使えた?」


「えぇとてもとても、本当に健気で真面目で本っ当にバカみたいに私の言葉信じていましたよ」

「ヒッヒッヒッ」と相手を嘲笑う悪魔の様に笑う。


「そっ、なら良かーった」


 そして表情豊かだった玉響たまゆらが真剣な顔立ちになり声のトーンも変わり本題を切り出す。


「えっとね、こっちにも進展がありまして不死身ふしみ君の居場所を確認しました」


「おぉそれも千里眼符クリヤボヤンスの力って訳か」


「違うよ御殿場ごてんばさん、友達がね貸してくれなかったんだよ、ケチなんだからー歳下なんだから先輩を立てなさいよ本当に……ブゥー。

 まぁでもねその友達何と今ね不死身ふしみ君と同じ滋賀の南部フェリスタホテルにいるみたい、昨日ラインきたんだー」


玉響たまゆらどのじゃあ明日にも決行しましょうか?」


「えっとね……」


 送られてきた内容を忘れたのか、ラインを上にスクロールする。


「実験体は今ゲームで決めようと思ってます♪ だって、それが3日後らしいよ」


 御殿場ごてんばが頭を抱えうなだれる。

「ゲームって……はぁ呑気な」


「まぁいいじゃないですか、御殿場ごてんば殿それまでこちらの体制を万全な物にしましょう、ちょうど伊豆いず殿もその頃には移植した細胞が定着すると思いますし」


「じゃあ決まりだねー作戦は3日後、メンバーは楠那くすなさんと御殿場ごてんばさんと私の代わりに伊豆いずちゃんの3人でお願いしまーす! じゃ解散だねバイバーイ」


「あぁ楽しみですねぇ……ヒッヒッヒッ」



月に雲がかかり、3人は闇夜に消えていった……。

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