第23話 才能

 6月12日合宿2日目の朝


 なんて気持ちのいい朝なのだろう、久しぶりに心地の良い睡眠が出来た事に喜びを感じていた。


 今……朝の6時か、確か訓練は10時からだから……少し早すぎたかな、だがまた寝るという考えにはならなかった。

 目覚ましで起きたのでは無く、十分な睡眠をとり今は体が睡眠を必要としていない覚醒状態だからだ。


 取り敢えずそうだなぁ……遊馬あすまは起きそうに無いし朝風呂にでも行こうかな。


 それから短い時間なのだがとても長い様に感じた時間は過ぎ——。


 朝10時00分


「みんなーお早うさん」


 朝風呂なんて行くんじゃなかったかな……あるあるな事だけどさっきまで目が覚めていたのに、当初の予定の時間になった瞬間に睡魔が襲ってくる……今僕はその状態である。


「さて今日からみっちり訓練していこうと思ってるんで、よろしくな。

 じゃあまずいきなりやけど一対一やろっか、そして試合終わりにおっちゃんがアドバイスしてあげる」


 1回戦目……【近畿京都高校1年1組】対【四国徳島高校1年7組】


「出ない皆んなはこの城に複数設置されているカメラの映像を観ながら勉強するようにな」


 本日の対戦は西日本同士の訓練となり、正直今日の僕は観ているだけなのだ。


「それにしても、初っ端から宇多姫うたひめの兄貴か……うわぁー何あの眼ちょーこえーな」


「……」


 宇多うたの観る眼が少し僕には哀しんでいるように思えた……。



「じゃ準備はええかー、行くでー試合開始!」



 城内格闘戦キャッスルコンバット

 4階建ての城内フィールドは入り組んだ迷路のようになっており、狭い通路や拓けた場所が入り組んでいる。

 1組は4階からもう1組は1階からのスタートとなる。

 京都校は1階からのスタートのようであった。


 この種目でキーとなるものそれは、城内フィールドの把握から始まる。

 それを分かっているのか両チームまずスタート位置での地形図創生呪術フィールドマップを発動させる。


「おー? なぁあきらどっちのチームも地形図創生呪術フィールドマップを4人で描いてるぞなんでだろうな」


「うん、僕の予想になるけどいい?

 多分だけどその方が効率がいいし、その分早く動けるんだと思うよ」


「……っへ?」


「ふぅ、鈍感ですね宗方むなかた 遊馬あすま仕方ありませんから私が詳しく教えてあげますよ」


 城内格闘戦キャッスルコンバットは簡単にいうとスピードが試される。

 符の制限の3枚で相手よりも速く行動し、作戦を練り自分達が戦い易い場所へと誘導して行くのがこの種目の根底である。


 スタート直後4人が各階層ごとに1人づつに分担する事で地図完成のスピードを4分の1に短縮、残った1人がそれまでに探索呪術フィールドワークで相手の場所、動きを確認する。


「……って事です、相手よりも先にが前提条件の種目なんですよ」


「まじかー俺どっちも付けてねーよ」


「はぁ……でもまぁ想定内です、先生に許可頂いて皆さん用の符を借り出ししておきました」


「少し思ったんだけど、これだったら事前に地形図創生呪術フィールドマップであらかた描いて出場するやつとかも出そうだよな……」


「それは授業で……そういえばあきらいませんでしたね……、えっとですねまず地形図創生呪術フィールドマップは万能では無いんです」


 宇多うたの説明によると地形図創生呪術フィールドマップは全世界の地形図を作成する事が出来るのだが、範囲が決まっているとの事であった。


 自分が立っている数キロ先位しか地形図を作成する事しか出来ないらしく、建造物の中にいたっては建造物の中に入らない限り見取り図は作成する事が出来ないらしい……。


「この世に完璧な物なんてありませんから、これは仕方がないと思ってそれでどう立ち回るか考えるしかないんですよ」


 この世はどんなに技術が発展しても、自分自身がどんな時でも考える事をしていなければ強くなれない、これはこの世の絶対的システムと言ってもいい程である。


「おっ京都校が先に動き始めたみたいやなー。

 それにしてもはやっぱりすごいなぁ地形図創生スピード、相手の探索後の指示の速さ流石エリートって所やな」


 地形図を完成させてからの動き出しの速さ、宇海うみの迅速な指示、そして何よりも宇海リーダーを信用して迷いなく行動するチームメイト。

 これは中々手強い相手になるだろう……宇海うみの事は正直、いとう存在ではあるのだが不覚にもこの戦いから……いや、宇海うみから目が離せなかった……。




天音あまねはここから西側にある階段から、地行ちぎょうは東側、飛雲ひうんかしわは北側の階段でそのままかしわは南側に移動……じゃあ皆んな地図にマークしたポイントに忘れずに頼んだぞ。

 準備が整ったら無線でまた指示を出すから、それまで俺が敵を引き付ける」



「ほぅ別々に行動するんやな、何か作戦があるみたいやが……余り見た事ない陣形やな」


 京都校チームは探索呪術フィールドワークを発動させながら宇海リーダー以外は敵を避けるように行動するのであった。


「はぁなんだ京都校の奴らばらばらに動いてるぞ」


「どうする? 海東かいとう


「まぁ折角別行動してもらってるんだ、個別撃破していこうか、取り敢えず目の前の階段からやっていこうか」


 四国校は大人数での各個撃破の戦略を立て行動するのであったが……。


「はい、ストップストップおめーらをこの階層から出すわけには行かねーんだよな

 少しの間俺の相手してもらうから」


「……はぁ? お前まだ始まってまだ7分だぞ……何で俺らの前にいるんだよ」


 何故こんなに早く城の4階まで上がる事が出来たのか相手にしている四国校には分からないだろうが、モニターを観ていた僕達には分かる……、そして再度確信してしまう事となる宇海うみの才能に。


「俺達ね珍しい符持ってるわけで、今ここに短時間で来れたのもこの走力強化呪術レッグエンジンのお陰ってわけ」


「その事じゃねぇ……7分あったら1階から4階までならどんな奴らでも走れば行ける範囲内だ……けどなそれはこの城みたいに入り組んで迷宮化していなければの話だ!」


「はぁ? こんなの1回地図見れば憶えられるだろ……」


 四国校チームが何を言っているのか宇海うみにはどうしても理解する事は出来なかった宇海うみにとってそれは例えば、お腹が空いたから食事をする事と同じ位に当たり前の事と定義付けていたからなのであった。


 生まれ持った才能、【瞬間記憶能力】産まれながらにエリートへの道が敷かれていた。


「あら、話してたら準備終わっちゃったみたいだわ、ざーんねん……はいじゃあ皆んな爆破ー」


 宇海うみの合図の瞬間四方八方から『ボォン』と爆発音が鳴り立っているのもままならない位に城自体が大きく揺れる。


「四国校の皆様にお知らせがありまーす、貴方達が今立っている場所……崩れ落ちますよ」


「何を……言っ……」


 四国校が1歩脚を動かした、瞬間であった床が崩れ落ちる……それだけではなく崩れた床は四国校チームが立っていた周りピンポイントのみ崩れていたのだ。



「何んや、 どうやって城を崩したんや……こんな威力を出す符何て見た事ないぞ

 それにもし出来たとしても爆破位置の計算早すぎるやろ……宇海うみ君、あんた本当化け物じみた才能やわ……」


 四国校は崩壊に巻き込まれ全員気絶、何が起こったか誰も分からなかった。

 1回戦目はものの数分で終了し、驚く事に誰1人として戦闘行為をしていなかった……。



「……」


 誰もがこの戦いから目を離す事は出来なかった、僕も睡魔が吹っ飛ぶほど興奮状態だったのかもしれない。


 すると僕の元に宇多うたが歩み寄り

あきら……今日の夜、貴方の部屋に行っても良いですか」


「えっ……きゅ急にどうしたの!」

 何故今そんな事恥ずかしそうに頬を染めて言うのだろう、兄と戦うのが怖くなったのだろうか、……それで僕の所に! どうしよう……えーとまず遊馬あすまは出て入ってもらって……。


「皆んなで……ミーティングをしたいと思っているんですが、どうでしょうか……」


 あーまぁそうだよな……はぁ、それにしても何が恥ずかしかったのだろうか……。



 現時点で僕が一番恥ずかしいよ……遊馬あすま事色々言ったが以外と僕の考えも不埒者であったわけだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る