第22話 威圧

 イベントが好きで、人と話す事が好きで、どんな事があっても笑顔を絶やさないとても明るい女の子であった水音みずね、人間というものは周りの自分を取り巻く環境が変われば何十年性格が変わらなかったとしても、ものの数日で別人になり得る……。

 今、天城あまぎの前に立つ女の子は資料の写真とは別人のようであった、綺麗に整えられていた空色の髪は白く変色し髪質は雨と風で劣化しておりうねっている、顔に染み付いていた程の笑顔は消え憎しみと憎悪を塗り固めた様であった。


「警戒しなくて良いよ、まだ僕は君に危害を加える事は無いよ」


『まだ』その言葉で水音みずねは身震いした。


「さぁ……話というか水音みずねちゃんに聞きたい事があるんだけどいい?」


「ふぅ……ふぅ、何が聞きたい」


「じゃあまず1つめ、その白銀の角の力はいつから?」

「1年前位だ……」


「君には回復能力は……あるみたいだね、切れていた腕もう生えてきてるみたいだね〜流石の回復力だ、うんうん。

 じゃあ質問に戻るね……死んだ事はあるかい?」


「……お前はなんなんだ! 何故そこまで私の事を知っている」


「まぁ色々と白銀の角の事は知ってるつもりだけど、水音みずねちゃんの事はそこまで分かって無いよ……、だから質問しているんだろ?」


 ゾクッとする様なこの威圧、水音みずねは今忘れかけいた感情に襲われていた……その正体は【恐怖】なのであろうと理解するのに時間はかからなかった。


「この力に目覚めてからは無い……」


「ほぅ死んだ事で覚醒したって事か……、えっとじゃあ次ね水音みずねちゃんの今の目的は何?」


「鬼の殲滅……」


「にしては、今は人間を殺しているみたいだけどね」


 天城あまぎが見つめる先、神社の奥に複数の人間の死体が無雑作に積み重なっている。

 その中には陰陽道の隊員もいるようであった。


「あれはなんなのかな?」


「間引いた人間だ、鬼を殲滅する前に先ずは穢れた人間を根絶やししないといけない……特に優先的に今殺さないといけない人間は陰陽道の奴らかな」


「へぇ何故陰陽道なのかな? 鬼を殲滅したいなら陰陽道は利害が一致する味方じゃ無いかな?」


「そんな事は無い……あいつらは表では市民の味方ぶってはいるが、裏では鬼を造っているこの世の悪そのものなんだ!」


「鬼を造る! なんだそれは適当な事を……」


「適当なんかじゃ無い! 私はこの眼でしっかり見たんだ、鬼の細胞を人間に移植し人間が鬼になる所をこの眼で!」


「どうゆう事だ……、ごめん水音みずねちゃん、君を陰陽道関東本部で拘束させてもらう」


「お前陰陽道だったのか! なら今ここで殺す!」


水音みずねちゃん、生き返るんだよね……だから悪いけど一度死んでもらおうかな」


 空気が変わる、先ほどより強く押し潰されそうなくらい重い威圧が水音みずねを襲う……


 呼吸すらままならない、息苦しい……。


「うーん水音みずねちゃんの今の実力だったら3本位で大丈夫かなぁ〜」


 天城あまぎは大人の姿から子供の姿に変わる。

「なっ……縮んだ、どうなっているの! お前もしかして人間では無いのか……」


「人間では無いけど、鬼でも無い僕はあやかしさ」


あやかし……そんな者が存在していたなんて」


「うんそうだよ、あやかしはそこら中にいるよ……おっと余り時間も無いのでこれは後で話してあげるよ」


 天城あまぎはパンッ! っと柏手を打つと、3本の天城あまぎ自身よりも3倍位大きな狐の尻尾が生えてくる。


 水音みずねは戦闘態勢に入る……前に弾丸より速く、槍より鋭く1本の尻尾が既に水音みずね左上腿ひだりじょうたいを貫ぬき、そのまま左足をもぎ取っていた。


「——ッあぁぁぁ」


 もぎ取られるまで痛みなど無かった様な錯覚に陥っていたのだが、今になって痛みを思い出す……。


「苦しませてごめんね次は一撃で殺してあげるから」


「はぁはぁ……」


 息を整える暇も与えられず、3本の尻尾が同時に水音みずねを襲う。


「はぁはぁ……魔力解放……開眼!」


 水音みずねの両眼が銀色に光り輝く。


(僕の尻尾の動きが全部読まれている……)


 水音みずねは今尻尾を避けているのでは無く、尻尾が当たらない場所に立っているだけなのだ。


(あの眼……さとりの様なものか、だからあんなに核心をついた話し方だったわけだ、この眼でしっかり見たんだ……か)


 パンッ! 天城あまぎはもう1度柏手を打つ。


「攻撃が読まれるなら、回避出来ない位の数で攻撃すればいいだけさ! 追加4本……ふぅ7本なんて何百年ぶりだろうなー久しぶりに出したよ」


「はぁはぁ……」

 目の前を覆う7本の尻尾、それが全て自分に向けられている恐怖……今その眼には【死】の未来しか映ってはいなかった。


「じゃあまた数日後にまた会おうね……」


 その言葉の後7本の尻尾は水音みずねの体を貫く……初めてこの体になってからの死であった。


「ごめんね……」

 それから天城あまぎはスマホを取り出し電話をかける


 プルルルル……プルルルル……プルルルル……プルルルル……プルルルル……『はい』


「電話出るの遅いよー」(´ε` )


『その声、天城あまぎか? 何の用だ』


「その前に秘匿回線に切り替えてくれる?」


『あーそんな感じか……切り替えたぞなんだ?』


「これは僕と君、【刑部ぎょうぶ カイリ】だけの秘密にしてくれ、誰にも……陰陽道全ての隊員にも内緒で……」





 ——陰陽道関東本部21時17分


「よっと、田生たなま君ただいま!」


「遅かったですね……それで鬼食おにぐいはどうなりました……」


「殺した……回復出来ない位粉々にしたよ」


「そうですか……」

 空気が重い……天城あまぎに未だ残っている気迫は田生たなまをも、威圧するには容易いほどであった。

 やはり天城あまぎは、なるべくしてなった関東最高責任者なのであると今になって再確認する事となったのであった……。



 同時刻、関東本部の某施設


 そこには天城あまぎの子供の姿と似た、白衣を着ている男の子? が大きなカプセルに入った水音みずねを見つめため息を吐いていた。


天城あまぎめ……かなりの厄介ごとを持ってきやがって、あの女狐め本当に狸使いが荒いよな〜本当」( ´△`)




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