——《追想の地》編——

第15話 闇雲

 6月5日早朝7時毎朝行われている職員会議が始まっていた。



 ——「皆さんおはようございます、それでは今日の職員会議を始めさせて頂きます。

 今日の議題は天城校長よりお願い致します」


「うん、今日は最近関東で行動が活発になってきた【リライブ教団】と人鬼じんきについて話そうと思います」


「はい」


「何? 東和田とうわだ先生」


人鬼じんきとは何なんでしょうか?」


「えーとね、リライブ教団が鬼から鬼特有な細胞を取り出し人間に埋め込む事で人が鬼なれる、その様な個体を総称して人鬼じんきとしました」


「すみません、有難う御座いました」


「いえいえ〜それで今、小野目おのめ隊を調査隊として関東中を回って情報を掴んでもらう為動いてもらっています。

 それで分かった事が二つあります」


 一、関東中に人鬼を確認、人種はそれぞれで大きな問題となるものの中で【国会】政治家にもリライブ教団の信者がいる事が判明した。


「そんな……それじゃあ」


「そうだね、学園に留まらず国全体がリライブ教団の手の中になってしまう……いやもうなっているかも知れないね

 全国に目撃例が出ているいも関わらず公にならないのは裏に大きな力がある証拠、もしかしたら国峰くにみね総理も人鬼じんきかも知れないねぇ」


 信じられない話だがその話が本当だったらと、ここにいる教師はゴクリと唾を呑む


 二、現在東京で鬼、人鬼じんきの不信死体が多く発見されている。


「不信死体とは、どの様な……」


「うん、これは田生たなま教頭からお願い」


「はい、今東京に限定して鬼によって鬼、人鬼じんきが殺されているという事です、こんな事は今まで全くないとは言い切れない程の事ですが、不思議な事に人鬼じんきの死体は全て人間の状態で殺されていました」


「すみません発言よろしいでしょうか、鬼がたまたま殺した人間が人鬼じんきだったという事にはならないでしょうか?

 それから陰陽道はその人間がなぜ人鬼じんきだと分かったのでしょうか?」


「その答えだが今東京に至っては、一般人への鬼の被害はほぼ0に近いものだ、そして殺されていた人間は捕食するでもなく一撃で殺されて放置されていた

 だからだな、殺された人間を関東本部で調べた所全ての人間に鬼の細胞が移植されていた事が分かった……これで理解してくれたかな?」


「はい、有難う御座いました」


「それだったらいい事では? 鬼のみを殺してくれるなら私達からしたら有難い事じゃないですか」


「うん、今はだけどね……鬼を一撃で殺す様な鬼はそういない、もしその鬼がいつ人間に牙をむくか分からない現状だからね用事する事に越したことはないよ」


 2029年になり半年、学校内で起こった修習生しゅうしゅうせい人鬼じんき化事件、リライブ教団の脅威、鬼のみを殺す奇行種と、ここまで問題が重なる事は異様であった。

 何か絶望的な事が起こる前触れ様な……


「それでだけどね、来週一週間学園生を体育祭練習と称して東京から避難してもらおうと思ってるんだ。

 今連絡して許可をもらっている所が15ヶ所種目ごとに分かれて向かってもらう事に決定しました」


「それでは早めに種目の出場者を決めないといけませんね」


「そうだね、よろしく頼むよ」


「それでは本日の会議はここまでにしましょう」


 朝のホームルームまで後30分、教師陣は立ち上がり授業の準備をする為に会議室から出ようとしていた時……


「そうだ皆んな…来週本部は一週間忙しくなるから居残り組は覚悟しておいて下さい」


 この言葉で皆んな理解した、ついに関東本部は総力をかけてこの問題にとりかかるのだと。




 同日8時、朝のホームルームが始まり今日もまた僕の学園生活が始まる。




 ——時間は少し遡り6月5日深夜1時


 東京のとある場所、緑が多く夜になると人通りがなくなるほどの郊外に『絶望』は古びた神社を寝床に暮らしていた。


『絶望』は苦しんでいた。


 鬼の脅威が一向に衰えを見せない事に、今の自分の現状に……

 体は怪我や病気もどんな傷だろうと一瞬のうちに消えてしまうのに、自分の手を眺めては何故だか体がズキズキと痛む感覚であった…この返り血で真っ赤に染まった自分の手を。


『絶望』はこの地獄の様な日々を抜け出したかった、早く昔みたいに友人と笑いながら平和を噛み締めたかった。


『絶望』は考えた、考えて考えて苦悶する……そしてひとつの事を思い出す、それは鬼の産まれかた……。


『絶望』は思う、順番を間違えたと……先に消さないといけないのは人間の方だと、だが全ての人間を殺してはいけない善良なる人間と悪に満ちた人間を間引まび

 鬼はその後だ……。



『絶望』の意思は固いものであった。


 この時『絶望』は人類の味方から最悪の敵と成り替わる。




 人類の決断は遅すぎたのである……。


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