電車の中で
「さて、これからどうする?映画は何時からだっけ?」
ニコニコと笑顔を浮かべていたみゆきの目が、泳いだ。確実に、忘れてたな。
これほどウソがつけない女性ははじめてだ。みゆきの性格の良さが伝わってくる。
俺はスマホを取り出して、調べることにした。
「渋谷の映画館なら、13時半に空きが少しあるなぁ。新宿は全滅」
「何かすみせん……」
しゅんとしている彼女を元気づけようと、俺は必死に話題を探した。
「まぁ、公開したばかりだし、しょうがないよ」
「でも……」
「気にしない、気にしない。久しぶりに渋谷まで出るのも悪くないよ」
ここから渋谷までは、電車で30分くらいかかる。普段、滅多なことでもない限り、わざわざ出かけることはない。
「私も渋谷は久々です。109とか、行ったことないんですよね」
「そうなの?じゃあ、時間があったら寄ってみようか?」
「エェッ!良いんですか?」
「もちろん」
109のおかげで、すっかり彼女は元気になった。109様様だ。
偉そうに言っていたが、俺だって109ははじめてだ。みゆきの前で粋がってみたが、失敗しないか心配でしょうがない。
渋谷に出るのは決定したので、2人で電車に乗った。幸いなことに、電車はそんなに混んでいなかった。
ちょうど2人分、座席が空いていたので、並んで座った。
これまで、少し離れた場所から彼女を見ていたので、すぐ横にいるだけで緊張する。何を話すべきか考えもまとまらない。
「修くん、聞いてもいいですか?」
「エェッ、あぁ……うん」
まだ呼ばれ慣れていないので、挙動不審になってしまった。
「修くんは、兄弟はいるんですか?」
「兄弟?いないよ。ひとりっ子なんだ」
「そうなんですね」
みゆきは、俺の回答に満足したのか、ニコニコと微笑んでいる。
「みゆきは、妹さんとは仲良いの?」
「んー、仲は良いですよ。でも、最近は勉強のことを聞かれても、さっぱりわからないんですよね」
みゆきの妹さんは、成績優秀で、中学では生徒会長をしているらしい。姉としても自慢の妹なんだと、誇らしげに話していた。
「だから、妹にはお店の手伝いをさせたくないんです」
それで、マメにお店に出ていたのか。みゆきの優しさを知って、胸が熱くなった。
みゆきに沢山会えて嬉しいと思っていた自分が恥ずかしくなる。
「そうだ。渋谷に行った記念に、何かお土産を買って帰ろう。修くん、一緒に選んでください」
「あ、あぁ、いいよ。良いのがあるといいね」
2人の話が盛り上がってきた頃、電車は渋谷の駅に滑り込んだ。
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