留年確定
鈴木の消えた部屋は、いつも通りシンと静まり返っていた。鈴木の声がうるさかったせいか、いつもより寂しさを感じる。
ほんの数十分の会話で、俺は鈴木に心を掴まれてしまったのかもしれない。そう思いながら、鈴木の名刺を眺めていた。
翌日、俺は朝から大学にいた。教務部から顔を出すように連絡を受けていたのだ。おそらく、成績の話だろう。
「経済学部4年の並木修一郎です」
教務部の受付でそう告げると、奥から少し偉そうな感じの女性がやって来た。ショートヘアに縁なしメガネといった風貌は、仕事に厳しいキャリアウーマンの印象を醸し出している。
「経済学部の並木修一郎さんですね。奥へどうぞ」
女性に促されて、俺は教務部の奥にある応接スペースに通された。茶色の革張りのソファーが向かい合わせに設置されている。
俺がソファーに腰を下ろすと、向かいに座った女性がおもむろに口を開いた。
「並木修一郎さんは、橋口教授のゼミを受講されていますね?」
「はい……」
「橋口教授から、並木さんの論文について、不可との評価が下されました」
俺が提出した卒論が不可だという。一瞬、女性が何を話しているのか理解できなかった。
「なぜですか?あの卒論は、橋口教授と相談しながら、進めて来たんです。不可になる理由がわかりません」
「理由については、お答えできません。今後、教授会で成績についての評価が行われて、最終決定となります。不服がある場合は、指定期間内に不服審査を申請してください。お話は以上です」
女性は、有無を言わせずにまくし立てると、一方的に席を立って行ってしまった。どうやら、俺は正式に留年確定ということらしい。
「はぁぁ……」
俺は、ソファーにもたれながら、深いため息をついた。
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