まずは第一話「別れ話タイトルマッチ」を読んでほしい。
ボクシングファンの作者によって放たれる、身体性の高い言葉。
それでいて三人称の客観性。実況型描写でも“冷め”させない。
オチの素晴らしさは言うまでもない。
芸術的なまでの完成度。
それを成立させているのは、文章の強度である。木下古栗を彷彿とさせる構造美とユーモアの両立。
これは身体に直結するユーモアで、クスリどころではなく、本当に声を出し体を揺らして笑ってしまう。抗えない。
(「これがイクラちゃん道だっ!」「内田裕也とイクラちゃんの対談」の連作は是非読んでほしい)
「エア」、「悪」、「偽善」、「贋作」、そして「神」……
作者は概念の臨界点を目指して突っ走っている。
文字通りの全力疾走。ガチじゃなきゃユーモアは成立しない。
どの話も「そう来たか」「やられた」と膝を打つこと請け合い。
そういう意味で、爽快感は間違いなくある。
それを味わいたくて我々はショート・ショートを読む。
しかし「あ~面白かった!」では終わらない。
読み終わった後、目を上げた世界にわずかな「ズレ」が生じているはず。
美味しいものには毒がありますから。
レッドブル?モンスターエナジー?その程度で済めばいいが……
全話通して感じられるのは、現実に穿たれた穴である。
ある人はそれを空虚と呼び、ある人は深淵と呼ぶ。
「ここに穴があるぞ!」と作者は叫んでいる。
その叫びは誰にでも聞こえるものではない。
聞こえてしまった私は狂人だろうか?
その向こうには「宇宙」が見える。