botちゃん

「ようやく完成したぞ」


 亜亞留博士は歓喜の声をあげた。


「自動的にツイートしリプライにも反応するシステム。フォロワー数爆上げプログラムを!」


 ずいぶん前からそんなシステムはあるような気がするのだが、なにしろ亜亞留博士は研究一筋の世間知らずなので彼にとっては斬新な未来の発明なのだった。


「これでフォロワーを集めて、アルファアカウントを作るぞ!」


 アルファアカウントになった暁には、自動ツイートシステムから博士自らにバトンタッチしてフォロワーに科学の啓蒙ツイートをするのが亜亞留博士の野望であった。


「普段、ワシが科学理論を語っても見向きもしない世間をみかえしてやるぞ! 人類の科学的リテラシーを上げてやるのだ!」


 窓の外では雷鳴が轟き、亜亞留博士の爆発したような白髪と、眼鏡の分厚いレンズが異様な耀きを放った。


 マッドサイエンティストなりに人類の未来のための発明だと思っているらしい。






 ユーザーネームはボットちゃん、アイコンにはネットで適当に拾った可愛い女性の写真を使うことにした。


 適当な日常ツイートをランダムに発する機能と話しかけられたときの反応パターンを用意する。


 たとえば、「名前は?」とメンションがくると「ボットちゃんよ」「秘密よ」「あなたの名前は?」などと応える。


 ボットちゃんのアカウントは少しずつフォロワー数を増していった。


「ねえ本当の名前は?」


「ボットちゃんよ」


「リアルで会おうよ」


「リアルで会うの?」


「じゃあ、明日大丈夫?」


「明日、大丈夫なのかな?」


「どっちだよ」


「どっちなのかな?」


 ほとんどのナンパアカウントは、この程度の内容のない会話で対応できた。ダイレクトメールにも律儀に反応するし、はっきりとフラれることもないのでリムられることも少ない。


 いつしかボットちゃんはフォロワー数二十万超えのちょっとしたアルファアカウントになっていた。


 フォロワー数が増えると、中には厄介なフォロワーも出てくる。


「ねえ、リアルで会おうよ」


「リアルで会うの?」


「明日大丈夫?」


「明日大丈夫かな?」


「どっちだよ」


「どっちなのかな?」


「ボットちゃん、どうしてそんなに曖昧な態度なんだよ」


「どうして曖昧なのかな?」


「今日こそ約束してよ」


「今日こそ約束するのかな?」


「会おうよ」


「会うのかな?」


「いいかげんにしないと、君のアカウントを壊すよ!」


「アカウントを壊すのかな?」


 絶望した若者は静かにウイルス付のダイレクトメールを送った。


 


 ウイルスに感染したボットちゃんは二十万のフォロワーにウイルスURL付きのダイレクトメールを送り始めた。


「こんにちは。あたしボットちゃんよ。今度デートしましょ。連絡先はhttps://…………」

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