おーい 何か出てきたよー?

 嵐が過ぎ去った後、倒壊した小さな神社の跡地に直径一メートルほどの穴があることを村人たちが発見した。

「狐の穴かな?」

「さあ?」

 一人が穴に向かって叫ぶ。

「おーい、出てこーい」

 しかし、反応はない。

「石投げてみようか」

 石を掴んだ若者を老人が制する。

「よせ、バチが当たったらどうする」

 若者は止めようとする老人を無視して石を投げる。

 すぅーと石が闇の中に消えていったと思うと、しばらくして穴の中から美しい女性が現れた。きらびやかな衣装を纏い、どこか神々しい雰囲気を発していた。

「め、女神様?」

 女神風の何者かは厳かに両手を差し出した。左右の手のひらにそれぞれ石ころを載せている。

「あなたの落としたのはこの石ですか? それともこの石ですか?」

「え? どっちも普通の石だし。こういうときって銀とか金が出てくるんじゃないのか」

 若者の無神経な発言に老人が慌てる。

「よせ、怒らせてバチが当たったらどうする!」

「正直な反応をする若者よ。気に入った。あなたにはこの石を二つとも授けよう」

「いらねえし、そんなもの」

「よせ、怒らせるんじゃない!」

 若者に強引に石を握らせたあと、女神は穴の彼方に消えていった。

「なんだアイツ。こんな薄気味悪い穴、埋めちまおうぜ」

「よせ、バチが当たったらどうする!」

 老人と若者はしばらく口論していたが、ふと何かを思いついた若者がニヤリとした。

「石投げたら倍の石くれたんだから、現金投げたら倍の現金くれるんじゃねえの?」

「よせ、バチが当たったら……。いや、やってみる価値があるな」

 珍しく老人と青年の意見が一致した。

 衝動的な若者は財布ごと投げようとしたが、老人が制してリスクマネジメントの観点からまずは百円玉で実験することにした。

 闇に消えていく硬貨。しばらくして女神らしき女性が現れ、両手を差し出して厳かに尋ねる。

「あなたの落としたのはこの百円玉ですか? それともこの百円玉ですか?」

「やっぱり、予想通りのシステムだぜ。でもどういう反応したら両方貰えるんだ?」

 村人たちは相談する。

「昔話だと、どっちも違いますって言ったら両方貰えたはず」

「いや、女神様は正直さに対して報酬を与えるんだよ。だから正直にどっちも欲しいって言えばいい」

「それは欲張り爺さんのパターンだ。却下」

 話し合った結果、こう答えることにした。

「どちらかわかりません」

「正直者よ、気に入った。あなたに両方授けよう」

「よっしゃー!」

「これで村の財政難は解決だよな」

「お金おろしてくるわ!」




 女神のおかげで村は発展し、整備された道路に高級車が行き交う小綺麗な街へと変貌した。

 無尽蔵に手に入るお金を手にした例の若者は遊興に明け暮れる自堕落な日々の末に気がつくと、治る見込みのない重度の生活習慣病を罹患していた。

 歩くのもままならない身体で、ようやく穴のある場所に辿り着いた若者は、周りの制止を振り切って穴に身を投げた。

 パニック状態になった人々の喧騒を打ち破るかのように、穴から女神が現れ厳かに尋ねた。

「あなたの落としたのは、この死体ですか? それとも……」



《終わり》

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