都市伝説コーディネーター
都市伝説コーディネーターって聞いたことある? 職業別電話帳を探しても見つけることはできないと思う。その職業自体が都市伝説って感じだから。
あたしが都市伝説コーディネーターへの連絡先をゲットできるようになるまでの苦労ったらなかった。連絡先を知ってるなんて噂の不細工な男に接近し、ベッドを共にし、おぞましく汚らしい愛撫とキスと抱擁に耐え、ようやく心を許したブサ男から聞き出すことに成功したのだ。
「ねえ、都市伝説コーディネーターと会ったことあるんでしょ? あたしも一度会ってみたいなーなんてね。いや違うの、何かを頼むとかじゃなくてね、どんな顔してるのか見てみたいだけよ。連絡先とか知りたかったりするんだけど……」
ブサ男は喜々として連絡先を教えてくれた。
待ち合わせ場所に現れた都市伝説コーディネーターは、一瞬で都会の雑踏に溶け込みそうな平凡なサラリーマン風の中年だった。
「例えばこんな都市伝説があります。あるファストフードのハンバーガーはミミズの肉を使っていると。一度は聞いたことがある噂ですよね。他にも、こんな都市伝説があります。ある有名テーマパークに恋人どうしで遊びに行くと必ず破局すると。またはこんな都市伝説もありましたね。ある人気ロックバンドのベーシストの死亡説」
都市伝説コーディネーターはあたしの目をじっと見つめ、深みのある男性的な声で、話を続けた。
「いずれもマイナスの情報ですね。しかしですよ、そのファストフード店は日本中に広がりファストフードの代名詞的存在にさえなっています。そのテーマパークは熱狂的なリピーターに愛され大成功をおさめています。そのロックバンドは世界中にフォロワーを生みだし、ロック以外の音楽家にも影響を与え続けています。私が何を言いたいかわかりますか。マイナスの都市伝説には現実世界にプラスの影響を及ぼす力が秘められているということなのです」
「つまり、あたしが貴樹君のハートをゲットするためには、あたしのマイナスの情報を社内に広めたらいいってことなの? マジで?」
逆に嫌われるだけじゃないかとしか思えない。
「原理的にはその通りです。しかし、もちろん熟練の技術がないと危険であり、逆に嫌われる結果になってしまいます。そのために私のような言霊の仕組を知り尽くした専門職が存在しているわけです」
なるほど……。深みのある落ち着いた声で言われると一応は筋が通ってるような気もしてきた。
「で、どんなマイナス情報を広める気なの?」
いくら貴樹君をゲットするためでも、水虫だとか口が臭いとか、そんな噂が広がるのは女のプライド的に嫌だ。
「こんな噂はどうでしょう。あなたは都市伝説コーディネーターの助けを借りて義男君のハートを射止めた」
義男ってのは、例の不細工な男のことだ。あんなのがタイプだと思われるのも屈辱だけど、貴樹君ゲットのために我慢するか。
取引は成立した。
次の日からの社内でのあたしのモテ度アップは予想以上だった。言い寄る男の中に貴樹君もいた。都市伝説コーディネーター恐るべし。
当然、あたしは貴樹君の誘いをOKし、深い仲になった。
ある日、ベッドの上で、貴樹君があたしの情熱的な愛撫とキスと抱擁を受けながら言った。
「ねえ、都市伝説コーディネーターと会ったことあるんだろ? 俺も一度会ってみたいなーなんてね。いや違うよ、何かを頼むとかじゃなくてさ、どんな顔してるのか見てみたいだけだよ。連絡先とか知りかったりするんだけど……」
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