美少女戦士 キューティームーン
あたしは美少女戦隊キューティ7に属している美少女戦士キューティムーンだ。誰がなんと言おうと美少女戦士キューティムーンだ。その証拠に見てわかると思うけど超絶美少女だし、悪の組織デビルズファイアーとも戦っている。あなたの近所にデビルズファイアーの魔の手が伸びてきたときは、あたしたちに連絡してね。すぐにかけつけるわ。ただし、お肌のために夜の十時から朝の七時までは睡眠をとらなければいけないので、そのへんは空気を読んでね。だって美少女じゃなくなったらスポンサー収入が激減しちゃうんだから。
美少女戦隊のなかでのあたしのポジションは、クールビューティって感じかな? 実際、ファンレターのほとんどは同性からのものだし、男の子にとってはあたしみたいなタイプは近寄りがたいんだろうなって思う。男の子に一番人気があるのは、美少女というにはちょっと無理があるブスカワなキューティマーキュリー。クールビューティなあたしより、彼女みたいなタイプのほうが身近な感じで男性ファンの妄想が膨らみやすいんだと思う。
などと、自己紹介してる場合じゃないんだから。あたしは今、デビルズファイアーの要塞に一人潜入して、そしてもうちょっとで秘密のデータをゲットというときに捕らわれの身になっちゃったの。いつもならキューティフラッシュビームをお見舞いしてあげるんだけど、その日はUV対策クリームを塗るのを忘れていたので断念した。あたしの美しい肌を紫外線に晒すわけにはいかないでしょ。
暗く湿った地下牢に閉じ込められたあたしが、ここからどう脱出するか必死に考えていると、……いやあまり根をつめて考えすぎると美容によくないので適当に考えていると、靴音の反響が近づいてきた。鉄格子の前に現れたのは体の右半分が狼、左半分が人間という、どんなコンセプトでデザインされたのか理解に苦しむけど、とりあえずいかにも悪役キャラという感じの人物だった。
「はっはっはっは。キューティムーンよ、おろかな女め。わが秘密要塞にようこそ。わたしはデビルズファイアーの経営者、サディスティックウルフだ」
「経営者って、デビルズファイアーは会社組織なの? 株主総会とかもあったりするの? 窓際族とかもいたり、過労死で訴えられたりするの? なんか夢が壊れるわ」
っていうか、この人が噂のサディスティックウルフなのね。その強烈なサディズムによって幾多の美少女戦士が、そのプライドを踏みにじられ再起不能になったという伝説の男サディスティックウルフ!
どんなサドプレイであたしを弄ぶつもりなんだろうか。あんなプレイとかこんなプレイされたら美少女としてのプライドがずたずたになってしまうわ。どうしよう。あたしは恐怖でおののいた。
サディスティックウルフは地下牢の鍵を開け、あたしのもとに近づいてきた。
「……お願い。顔だけは傷つけないで」
「はっはっはっは。最高のジョークだ」
何言ってるのこのオヤジ。あたし別に面白いこと言ってないじゃん。
「君はもう少し聡明な子だと思っていたが、どうやらわたしの勘違いだったよう
だな」
「何が言いたいの。美少女戦士は顔が命なのよ。女の子たちは、あたしを見ると、必ずカワイイって叫ぶのよ。男の子はあたしが綺麗すぎてちょっと引いてしまうみたい」
「君はグループ内での自分のポジションがわかってないようだね。君のポジションはね、水戸黄門で喩えるならうっかり◯○、V6で喩えるなら△△君、AKBで喩えるなら□□ちゃんなんだよ。ユニットにはそういう存在が必要なんだ。全員が可愛かったり、カッコよかったり有能だったりすると単調なグループになってしまう。君みたいな存在がいるから他のメンバーが引き立つわけだよ。わかるかね。同性受けがいいのはカッコよすぎるからではなく、同性に微妙に優越感を感じさせるルックスだからなんだよ」
サディスティックウルフはそのサディズムを、淡淡と真実を話すということで最大に発揮させた。その言葉攻めは、あたしにはどんな恥辱プレイよりも屈辱的だった。
一時間ほど、言葉攻めをうけて、あたしは開放された。夜の十時を過ぎていたけど、睡眠なんてどうでもよくなった。ジャンクフードを頬張り赤く目を充血させた腫れ上がった瞼のあたしを見つけた女の子たちは、口々に言った。
「あっ、キューティムーンだ! カワイイ!」
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