第7話 カノ
「ミノル……あなたはいい人ですか?」
「え?い、いい人か……?いきなりな質問だね。うーん、自分でそう思ったことはあまりないかな……」
「ん……」
彼女はそう呟くと、手を口に添えて少し考えるような素振りをする。
「……たぶんいい人です」
「そ、そう?だといいけど……」
先程のハサミを持ってはぁはぁ言いながら服を切る姿を想像して、心の中で「違う、あれは不可抗力だ仕方なかったんだ」と首を横にふる。
そのとき
ぐぅ
と、どこからか間抜けな音が聞こえた。
どうやら彼女のお腹からのようだった。
「お腹……減ってるの?」
「う、うん……それにノドもカラカラです……」
恥ずかしいのか、少し頬が赤いような気がした。
「そ、そうだよね。ちょっと待ってて、今用意するから」
用意をすると言ってもまともな食材はない。
カップラーメンは……ダメだ、多分ガスは使えない。
となるとこれしかないな。
「……?これは…なんですか?」
「え?なんですかって、鯖の味噌煮の缶詰って書いてない?あと、こっちはミネラルウォーターのペットボトル」
「……さば?……かんづめ?……ぺっとぼとる?」
「ミノル、ちょっといいにくいけど……ちゃんと食べられる物をください」
「た、食べられる物だよっ!全部っ!ってもしかして……見たことないの?」
「うん、はじめてみました」
「そ、そっか……」
この子の容姿も、着ていた服もちょっと変わってるとは思ったけど、缶詰もペットボトルも知らないってどういうことだ?
少なくともここは、自分が知ってる日本ではないのかもしれない。
カパッと缶詰を開けてやると、中から脂のノッた美味しそうな鯖が姿を現した。
「わぁーおにくだー!ミノル、食べてもいいですか?」
「ど、どうぞ召し上がれ」
「やったーいただきます!」
彼女は嬉しそうに言うと、フォークでガツガツと一気にかきこみ、ものの数十秒で平らげてしまった。
おいしそうに食べるのは素晴らしいことだが、女の子にしてはちょっとガサツというか、はしたないように思えた。
「おいしかったー!ミノル、このおにくは何のおにくですか!?」
大きく開いたその目はキラキラと光っている。
「それおにくじゃなくて、鯖っていう魚なんだ。」
「サカナ?…これがあのサカナなんですね!サカナってこんなにおいしかったんだ!」
「…えーっと、普段はなに食べてるの?」
「んー、ネズミとか、ヘビとかです」
「ネ、ネズミ!?ヘビ!?」
一体どういう食生活してるんだ……
「ゴクッゴクッゴクッゴクッ…プハー!お水もすごくおいしいです!それに宝石みたいに透き通っててキレイですね」
「そ、そうかな?普段あんまり気にしたことなかったな……」
でもこんなに喜んでもらえると、あげ
ふと彼女がキョロキョロと周りを見渡しはじめる。
「ここは……ミノルのおうちですか?なんかいろんな見たことがないのがいっぱいありますね」
「そうだよ。今はひとりで住んでるけどね」
「これは何ですか?」
そう言ってデスクの上を指差す。
「それはパソコンって言って、動画とか…じゃなくてえーっと、この薄っぺらいのに人が映って中で動いたりするんだ」
毎回質問されると話が進まなそうだったので、最初から分かりやすく説明するよう心がけた。
「え?こんな薄っぺらいのに中に人がいるんですか!?もしかしてこびとが?」
「いや、こびとはいないよ。まあ、今は動かないから、もっててもしょうがないんだけどね」
「じゃあこのちっこいのは何ですか?」
そう言って今度は小さな機械を指差す。
「それはスマートフォンって言って、ここに耳をつけてボタンを押すと遠くにいる人の声が聞こえて、離れてても話が出来るんだ」
「え?こんなちっちゃいものの中にも人が入ってるんですか!?ミノル、このおうちはこびとだらけですね」
「いや、だからこびとじゃないよ。それもどうせすぐ動かなくなるから、意味ないんだけどね」
「んーなんか動かないのばっかりですね」
「あ!じゃあこのキレイなお姉さんがいっぱいうつってるのはなんですか?これも中にこびとが…」
そう言って床に散らかってある本の中から、とある本を手にとった。
――!?
「きえええええ――!!ちぇええええええすとおおおおおお――!!!!!」
轟く絶叫。
「きゃあああああああああああ!!」
叫ぶ彼女。
「ちょえええええい――!!」
凄まじい形相で彼女の手から本を奪い取る俺。
「ちょ、ちょっとなに、なんですか急に!?」
「はあ――はあ――はあ――」
「こ、これは危険なんだ――そう、危険だ!触ると爆発する!」
「ばくはつってなんですか?……ミノル……さわってますけど?」
「これはその……お、俺以外が触ると爆発するんだ。だから触っちゃダメ!絶対!」
「よく分からないけど……さわるとあぶないんですね?分かりました」
カノは分かりやすくシュンとうなだれた。
――ギエ゛エ゛エエエエアアアアアア゛ア゛ア゛!!
守りきったと安心したそのとき、家の外で大きな鳴き声が聞こえた。
――何だ!?
それは鳴き声というよりは、人間のものとも動物のものとも言えない、地の底から震え上がるようなおぞましい雄叫びだった。
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