第5話 荒廃した大地
「なん――だ――コ――レ――」
衝撃的な光景を目の前に、完全に思考が停止した。キョロキョロと目が泳いで焦点が合わない。
そうしてしばらくボーッと
「――カハッ!」
縫い針で刺されたかのような痛みが喉を貫いた。
デスクの上にあった空のコップを奪うように乱暴に取ると、台所へかけこんだ。
急いで蛇口をひねりコップに水をそそいで口腔へと流し込んだその瞬間。
「――ゲボァ!!!!」
今度は口腔全体に痛みが広がり、思わず盛大に水を吐き出す。
いや、それはもはや水ではなく熱湯だったがそんなことに疑問を持っている余裕は無い。
そうだ!買いだめしてたミネラルウォーターがあったはずだ!
瞬時に思い出し、血眼になってあたりをキョロキョロと探す。
あった!!
山積みのダンボールの中に目的のものを発見した。手に取ると少し温かかったが、熱湯よりは100倍マシだ。
「ゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッ!――っはあ――はあ――はあ――ふう」
1リットルのペットボトルは、モノの10数秒で空になってしまったが、カラカラに乾いた喉が潤ったことで落ち着きを取り戻しつつあった。
もう一度窓の外に目をやる。
「だよなぁ……」
最初は見間違えかとも思ったが、こうしてマジマジと見ると、目の前に広がっている信じがたい光景が、嫌でも現実のものであると実感させられた。
牛丼屋は?コンビニは?ビルは?道路は?確かにあったはずだ。もしかして引きこもってる間に全部無くなったのか?
自分でもそんな訳がないということは気づいていた。
現実に起こっていることをウダウダ考えていても仕方がないので、とりあえず外に出てみることにした。
「ひ、人はいないよな」
この後に及んでまだ人と関わるのが怖いという思いが先走る。
意を決して恐る恐る外へ出てみると人の気配どころか建物の気配すら無かった。
そこには広大な大地、遠くには地平線が見える。一応家の裏にも回ってみたが、同様の光景が広がるだけだ。
地面はひび割れ、草木は枯れ、どこまでも続くその光景は、荒野と呼ぶにふさわしかった。
「そ、そうだ!車だ。車があったはずだ」
とにかく状況を判断できる情報が欲しかった。車庫にあった車は会社を辞めてからは乗ってなかったため、ちゃんとエンジンがかかるか不安だった。
……ギギギ
…ギギギギ
…ドゥルンドゥルンドゥルンドゥルン
…ブオオオオン!!
「よし!かかった!」
こんな人も建物も無いところで事故るわけがないと思いつつも、やっぱり安全運転になってしまうのだった。
――もう10分くらいは運転していただろうか、だいぶ家から離れた場所まで来ていたが、景色は一向に変わる気配がない。
これ以上は危険だと感じ引き戻そうと思ったそのとき、遠くの方で何かが動く気配がした。
「なんだ……!?」
目を細めて、動いた場所をじーっと観察すると、一本の細長い縦棒のような何かがフラフラと移動している。
そしてそれは急に横棒になって動かなくなってしまった。
「も、もしかしてあれ人じゃないか?まさか倒れてるのか?」
ハンドルを握っている拳に力が入る。
「ど、どうする?行くか?行って大丈夫か?……いや行けよ!人だったら助けないと!」
自分で自分を説得し、アクセルを強く踏み込こんだ。
近づいていくにつれ、徐々にその何かが鮮明になっていく……
何かボロボロの布のようなものをまとっている……頭がある……腕がある……
車を降りて近づくとはっきり人だと分かった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「誰…です…か?た、たすけ……て……くだ……さ……い……」
うつ伏せで倒れているその人は、今にも事切れそうな、か細い声でそう呟いて喋らなくなってしまった。
「ちょ、ちょっと!しっかり!しっかりして!」
反応はない。
死んだのか!?でもこのまま放置するわけにはいかない――!
思い切って仰向けにすると、どこか神秘的な雰囲気をした、可愛い顔立ちの女の子だった。
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