第4話 ユウキ
『いや、遠慮しときます』
次の返答にそれほど時間はかからなかった。
初対面なのにいきなりタメ口の相手に憤りを覚えたし、単純にパーティを組むのが面倒くさかったのだ。
『即答かよ!まあそういうなって。アンタ、レベル20だろ?俺も昨日同じレベルで挑んだけどボッコボコにされたよ。ソロじゃ絶対無理だぞ?』
『なら倒せるまでレベルあげます』
『かたくなだなぁ、なんでそこまで拒否するんだ?アンタ日本刀だろ?俺の武器は弓だ。アンタが前衛で敵の攻撃を受け、俺が後衛でサポートする。完璧じゃねえか』
これだけ拒否すれば相手だっていい気はしないだろうし、普通は引き下がるものだが、このユウキという男はまるで気にしていないようだった。
『な、いいだろ?はい、アンタリーダーね。よろしく』
『え?リーダー?』
……なんなんだこの人。
結局こちらの同意もないまま、押しかけ女房のような形でパーティを組むことになってしまった。
その後はトントン拍子で洞窟最奥まで行くことが出来、大鬼には苦戦しつつも無事倒すことに成功した。
『よっしゃ倒したぜ!部位破壊報酬もゲット!』
腕や脚、牙、角などモンスターの各部位が分かれており、攻撃する場所によって柔らかい部分や硬い部分でダメージが変わる。
そして部位によっては破壊も出来るというコマンドRPGながら珍しい設定だ。
『ふう、お疲れ様』
『おつかれ!なあ、アンタ。良かったら今後も一緒にパーティ組まねえか?』
『どうせ断ってもダメなんだろ?それにアンタじゃない。ノブナガだ』
『お、話が早いじゃねえか、よろしくノブナガ』
『よろしくユウキ』
こうして毎日インしては、ユウキと一緒にゲームをするようになっていった。
一緒にプレイして1ヶ月程経ったころ、ユウキからYourtubeという動画共有サービスで「アポカリプスの実況プレイをしてみないか?」と提案があった。
もちろんやった事は無かったししゃべるのも苦手だったため、最初は断った。
しかし例のごとく強引だったため渋々承諾せざるを得なかった。
配信に先立って電話で話してみると、意外にも声質は柔らかく中性的で若々しい印象を受ける。
というか相当イケボだ。
強引なのは変わらないが、こっちのことは全く気にせずに常に主導を切って話してくれるため、変な気を遣わず話が出来て楽だった。
その後も何回か電話で話したが、ユウキの方から愚痴ったり誰かのことを蔑んだり馬鹿にするような話題を出すようなことは一切なかった。
良いやつかどうかは分からないが、少なくとも悪いやつでないことは確かだった。
いざ配信してみると意外にも好評で、配信開始半年でチャンネル登録者数は2万人まで跳ね上がっていた。
多分ユウキのオラオラなキャラとイケボのおかげであって、俺の存在意義はほとんど無いに等しい。
その証拠にコメント欄もほとんどユウキのファンばかりだ。
それでも広告収入は折半してくれていて、金額は小さいが今では貴重な食い
いつの間にかあの忌々しいフラッシュバックが起こることはなくなっていた。
――チャンネル開設から約2年後の11月23日現在、チャンネル登録者数は10万人に達していた。
今日もユウキとはアポカリプスの実況プレイ動画を撮る約束をしていたのだが、今日の朝に送ったメッセージの返信が来ないどころか、既読すら付いていない状況だ。
「
時計は19時52分を指していた。
ユウキが約束を破ったことは今まで一度もないのが少し気になった。
「まさか家ごと消えてたりして」
冗談のつもりだったが、自分で言ってぞぞっと鳥肌がたった。
昔からホラーは苦手だ。
「なわけないか」
自分を諭すかのようにそう呟くと、口をへの字にして「ん゛ー」と小さく唸りながら頭の後ろで手を組んでワークチェアごと左右にくるくると回り始める。
そのときふと、デスク横にある本棚が視界に入った。
そういえばこいつらもしばらく読んでないなぁ……
それらは3年前の
割と実用的な本から自分でも何で買ったのか分からないような本まで100冊以上のハウツー本が並んでいる。
その中で、「炸裂!サバイバル法!!」という本を手に取ってみた。
必殺技みたいなふざけたネーミングに反して、意外にもその中身はしっかりしており、入門編から応用編まで網羅されていて図解も最低限で非常に分かりやすい。
無造作にパッとページをめくると、ヒモの
ヒモの結び方には様々な種類があって、簡易的な家を作る際や罠を作る際、釣りをする際など必ず役立つので覚えておけ、という内容のものだ。
「懐かしいな。えーっと、これが
思い出しながらそこらへんにあったのひもで結び目を作り、パラパラとページをめくって答え合わせをしていった。
「お、当たってる。意外と覚えてるもんだな、はは」
普段の生活で特になんの役に立つわけでもないが、昔一読しただけで出来たのは嬉しかった。
昔から自分が興味の持ったものに対する記憶力だけはよい。
そうこうしている間に撮影予定の20時はとっくに過ぎ、23時30分にさしかかろうとしていた。
思わず「ふわぁ~!あ~あ」と大きなあくびが出る。
背筋を伸ばすとポキポキと背中の関節が鳴った。
「もう寝るかー」
そう言いながらワークチェアから立ち上がり、ベッドへと沈む。結局今日はユウキから連絡が来ることはなかった。
まあ明日…には……くる……だ……ろ………
―――
――
―
「――あっつ!!」
そう叫びながらガバっと飛び起きた。額からダラダラと汗をかいている。
いや、それだけじゃない。服も布団も水でも浴びたのかというくらいビシャビシャになっていた。
「あち゛ーなんなんだこの暑さは…もうすぐ12月になるってのにおかしいだろー!」
急いでデスクの上にあったエアコンのリモコンの電源を押したが、なんの反応もなかった。
「嘘だろ。こわれてんのかこれ。ダメだ。暑すぎる。」
煮えるような暑さに耐え切れなくなった俺は、長い間開けていなかったカーテンを思い切り開けた。
その瞬間、ギラギラと輝く太陽に目が眩み、慣れるまで少し時間がかかった。
徐々に視界が開けていくと、そこにはカラカラに干上がったひび割れの大地が広がっていた――
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