21.「海」の街 アクアリウムガーデン(2)
「テルーの旦那? どうしてこんなところに?」
タカちゃんが訊ねると無愛想な顔付きで彼は答える。
「例の新人の初仕事だよ、今からライブなんだ」
「あなた達もどうですか? ルルちゃん、可愛いですよ、ふふふ!!」
テルーの後ろから現れた妙に興奮気味のオオアナコンダに若干ひきながら俺達はライブ会場に訪れる。
~~~※※※~~~
大勢の動物が一匹のイルカの周りを囲っている。
「はーい、押さないで」
観客と彼女の間には冥府の悪魔、ししゃももいた、しっかり警備員として彼女の周りを泳いで回っている。
その顔付きは先ほど戦った時よりも活き活きとしている。
また戦ったらきっとあいつは前より強いんだろうな。
「みんなー! 元気ー!!」
「「「「くぅーーーー!!」」」」
イルカのアイドル、ルルの掛け声に恐ろしく団結した歓声が沸き上がる。
なんだよここは、軍隊かなにかか?
「今日も私の年末ライブに来てくれてありがとう!!」
「「「「きゅぅーーーー!!」」」」
「今日も張り切っていくよーー!!」
「「「「きゅぅーーーーと!!!!」」」」
よくわからない掛け声が響くとライブが始まる。
なんでも彼女、イルカのルルは現実でもアイドル活動をしているらしく最近話題らしい。
イデアとかめちょんも喜んでみいっている。
「ウホホホ!!」
ストロンガー、お前もか!?
「おや、到着したようだねジロウ」
俺だけが場の空気についていけず困惑していると後ろから老虎の声がする。
隣にはサーベルタイガーのブレイドもいるようだ。
「老虎さん、あなたもいたんですね」
「まぁ彼に仕事を紹介した手前だ、それに蛇鬼が彼女のファンみたいだからね」
相変わらず優しい笑顔の虎はアイドルではなく俺を見ていた。
「ジロウ、少しだけ話さないかね?」
~~~※※※~~~
「ジロウ、私はこのゲームの中でこそ最強のチームの長ではあるが現実の私は実に惨めな存在だ」
会場の外で俺と老虎、それとブレイドは座っていた。
「本当に野良猫以下だよ」
物寂しい老虎の顔は猛獣のそれではなかった。
「そんなことありませんよリーダー、私達に居場所をくれたのはリーダーです!」
強い口調で彼を批判するのはブレイド、彼女はどうも老虎を慕っているようだ。
「ありがとうブレイド、私も君達のお陰でこの場所にいれるよ。」
照れ臭そうに老虎は笑う。
「悪いねジロウ、貴重な時間なのにおじさんの愚痴に付き合わせちまって」
「いいんですよ老虎さん、あなたが言いたいことはわかってるつもりです」
「……そうか、なら最後に助言をあげよう」
「……なんですか?」
「この世界はゲームの世界だ。現実に出来ないことが出来る、しかし全ての理想が叶うわけじゃない」
「しかし君が望むならここはきっとよい世界なのだよ」
~~~※※※~~~
「もうじきだね!」
俺達は街中のアトラクションを楽しんだあと大きなサンゴ礁の丘に来ていた。
この水中の中で年越しの花火が上がるのだ。
水中に花火が上がるってのもよくわからないがな。
「楽しみだな花火!!」
イデアは眩しかった。
相変わらず。
一日中眩しかった。
「ねぇみんな?」
「……なにイデアちゃん?」
「どうしたの?」
「なんだってんだ?」
「今日は一杯遊んでくれてありがとう!」
イデアは眩しかった。
眩しかったんだ。
初めてイデアにあったあの日。
あの夜にみた蛍光灯よりも。
あの娘は眩しかった。
眩しかったんだ。
花火が撃ち上がる。
それは一つ一つが綺麗なホタルイカ達で縦横無尽に水中を駆け回る。
最早花火と言うより光の行進だった。
俺達の視界にその流星群が降ってくる。
その中でもやはり、イデアが一番眩しかった。
眩しかったんだ。
「大好きだよイデア、これから先も」
俺はイデアに伝えた。
「……わたひも、いであちゃんのこと、すっと、ずっと大好きでふ」
かめちょんも。
「私も忘れないわ、あなたのこと」
ナチュラルも。
「わた、俺もお嬢のこと忘れないぜ!」
タカちゃんも。
「私もみんなが大好きだよ!!」
イデアも。
永遠に幸せな時間は続かない。
わかってるんだ。
だけど……。
いや、だからこそ……。
俺達はきっと……、この日のことを一生忘れない。
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