21.「海」の街 アクアリウムガーデン(1)

 冥府の悪魔との戦いを終え、深海のそこへと俺達は歩き続けた。

 真っ暗であるはずの深海は近付くほどに明るく俺達を照らす。


 「「ようこそ! アクアリウムガーデンへ!」」


 俺達がそこにたどり着くと多くの魚達が出迎えてくれた。

 綺麗に着飾ったタツノオトシゴ達が取り囲んでくれる。


「うぁーーー!!」

「キラキラですねジロウさん!!」

「ちょっと眩しいわね」

「流石夢の国アクアリウムガーデンだぜ!!」


 珊瑚礁の塔が建ち並び、光源となるライトをつけた沢山のクラゲが縦横無尽に宙を舞う。

 海の中なのでそこに重力はなく自在に光が変化し続ける。

 年の瀬だというのにこの町は色々な動物で賑わっている。

 深海にあるというのに猫や犬といった陸上の生物も多々いるのだ。


「特別チケットご予約のウルフライダーズ様ですね!」


 俺達が入り口から中の様子に見とれているとペタペタとペンギンが歩いてくる。

 多分ジェンツーペンギンだろう。


「お待ちしておりました! ジロウ様、かめちょん様、ナチュラル様、タカちゃん様、そしてイデア様!」


 その後ろから銀色の魚が泳いでくる。


「私がこの街の長、リュウグウノツカイのセレーナですわ」




 ここアクアリウムガーデンはズー大陸近郊の海底に位置し経済力ナンバーワンの四大都市だ。

 何故経済力が高いのか?

 それは街自体が巨大な遊園地であり、観光施設であり、映画館であり、ライブ会場である複合娯楽施設なのだ。

 立体視を利用したアトラクションの数々に水中での無重力状態を利用して縦横無尽にひしめき合う施設が街の賑わいを盛り上げている。


 その分この街は民間のコミュニティというには少し不安がある。

 現実にある動画サイトやレコード会社が出資、若しくは技術提供をしているからこそ現実と変わらない精度で映画や音楽が楽しめるのだ。


「いよいよ最後の試練ですね、皆さん」


 リュウグウノツカイのセレーナは細長い体に少し不気味な顔付きをしているが銀色に輝く鱗で母親のような優しい声をしており不思議な魅力を放っている。

 ……後何故から気のせいか聞きなれた声な気がする。

 なんだろういつも聞いてる声なような……。



 とにかく元々リュウグウノツカイはその不思議な姿から人魚姫の元となった魚でないかと言われる生き物だ。

 彼女の姿を見ているとなんだか説得力がある。



「最後の試練はここで遊んでいただくことです」


「……遊ぶ?」


「ええ、今回皆さんのために特別優待券を用意しました」


 セレーナがそう言うと側にいたペンギンが俺達にチケットを差し出してくる。


「このチケットで一日遊び回っていただければ試練達成です」

「わーい! ありがとうペンギンさん!!」

「元気のいいお嬢さんですね、折角なので入場記念にあちらで写真を撮りましょう!」


 俺達にチケットをくれたペンギンはそういってイデアを引っ張る。


「うん! 写真とる!」


 イデアはペンギンに引っ張られ入り口近くにあった顔出しパネルへと駆け出す。


「あ、ちょっとイデアちゃん!?」


 かめちょんが彼女を止めようとするとセレーナが俺達の間に入る。




「ジロウさん少しよろしいでしょうか?」




「……なんでしょうか?」


「イデアちゃんの事は私も伺っております」


 俺達は彼女の言葉に耳を傾ける。


「彼女が何者でどうなるのか、我々四大都市の長は皆、全てを社長より伺っております」


「そして私は皆様がこれまでどのような旅路を辿ってきたかも伺っております」


「だからこそこの街では全てを忘れ楽しんで欲しいのです」


「……彼女とあなた達の物語を皆が忘れてしまわぬように」




~~~※※※~~~




「ジロウ! あれ乗ろう!」

「あぁイデア!」


 イデアが指差したのはマンダのメリーゴーランドだ、現実のものと違って屋根がない。

 何故ならここは海の中、天気を気にする必要性もなければ乗り物も魚達であり自由に乗れる。

 なんなら重さも関係ないからナチュラルだって乗れるのだ。


「いつもは私達がジロウに乗ってるけど今日はジロウも乗れるね!」


 イデアの笑顔は眩しかった。


 日の光が届かない深海で、淡く煌めく人工的な光の中で、一層に眩しかった。




「……どうしたのジロウ?」




 ……いけない、ぼーっとしていた。


「大丈夫だよイデア」


 メリーゴーランドを降りた俺達はサンゴのベンチに腰掛けた。


「……イデアちゃん! あっちでくらげ達が歌ってるよ!」




 かめちょんはイデアの肩に乗り不思議に発光するくらげ達を示す。


「うん! 見に行こうお姉ちゃん!」

 二人はそこへ向かって泳ぎ出す。




「……大丈夫ですか先輩?」

 松下が声をかけてくる。


「……大丈夫だナチュラル、平気だ」 


「無理すんなってジロウの旦那、私もわかるからさぁ……」


 高島妹も声をかけてくれる。




「……タカちゃん、チキンジョッキーは最初から全部教えてくれたのか?」


 俺は質問を投げ掛ける。


「……話を聞いたのは兄貴の方だ。 私は兄貴から聞いただけだから旦那から聞くまでは知らなかったよ」


「……そうか」


「私はさ、よかったって思うんだ。 皆と旅が出来て」




 今日のタカちゃんはいつになく女々しかった。


 「兄貴が親友の頼みだからって言うから私も兄貴と行動を合わせるようになってさ、それであれからジロウの旦那にも気付かれないように撮影してたり最初は大変だったさ」


「……でもよかったって思うんだ。 皆と旅が出来て」




 タカちゃんは空を見上げていた。

 俺達もつられて空を見上げる。


「よ、また会ったなあんた達!」


 少しだけセンチメンタルになっていた俺達にラーテルのテルーは気さくに話しかけてくれた。

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