20.冥府の悪魔(4)


 蛇鬼とナチュラルが二人係で押さえ込んでいるところにテルーとブレイドが駆けつける。

 ブレイドの鋭い牙がやつのヒレに食い込む。

 彼女の鋭い牙は華麗にそのヒレを切り裂く。

 サーベルタイガーはその長い牙で敵の血管を切り裂き敵を絶命させるのだ。


 俺も負けじと姿を消したまま後ろに回り込み尾びれに噛み付く。

 しかし分厚いこいつの体は噛みきれる気がしない、食らい付いているのがやっとだ。




「もう動けないだろ、魚野郎?」




 得意な顔でテルーはナチュラルの頭の上にたちやつと対面する。


「なに! まだまだ動けるぞ!」


 冥府の悪魔は蛇鬼が巻き付いていた顎を無理矢理力業であけて目の前のテルーとナチュラルに噛み付こうとする。


「いいぜ! それでこそ悪魔だ!」


 テルーはやつの口に飛び込む。

 牙と牙の間に入り込んだ時その牙はテルーの鎧を砕き、その背中に食い込む。

 しかしテルーはそれに関心を示さずくわえていたナイフをやつの舌に突き刺す。


「……な、きはがとおらねぇ!」

「ふふん! 俺の背中は頑丈なのよ! ライオンだって歯が立たないぜ!」


 テルーの言う通りラーテルは頭上から尾にかけて弾力のある厚い皮に覆われており防御性能が高い。

 更にはコブラの毒に対しても耐性があるほど頑丈な体をしている。

 その防御力があってこそ何者をも恐れぬ攻撃力と躊躇のない機動力を持ちあわせれるのだ。


「……くほ、こふなったら一旦てっはいだ」

 テルーに口を押さえられ、ブレイドにヒレをさかれ、俺に尾びれを噛まれた彼はそれでも移動しようと試みる。


 だがそうはいかない。彼は既に捕まっているのだ。




「……か、からはに、ちかはがはいらない」


「これだけ時間があれば充分です」


 やつの体を縛るオオアナコンダは毒を持たない蛇だ。


 なぜ持たないのか、それは力があるからだ。


 先程まで口回りを覆っていた彼の体は今ややつの上半身を縛りあげ内蔵を圧迫しているのだ。

 アナコンダの語源は南インドのタミル語で象殺しという意味だ。

 実例は聞いたことないがそれだけのパワーがあの蛇にはあるのだ。


 俺が牙を離しても最早冥府の悪魔は動けない。

 三獣士の連携によってほぼ無力化されてしまったのだ。




「よくやった皆の衆!」


 冥府の悪魔が動きを止めたのを察して老虎が声をあげる。


「今回も私の出番がなかったな。」


 笑いながら話す彼はナチュラルにかわってやつの眼下にたつ。


「こんにちは、冥府の悪魔、いやししゃも君。 私は君とお話に来たんだ」


 鎧を着けていたその虎はやつの眼下でそれを脱ぎ捨て青い瞳を向ける。

 その様子に気付いた三獣士達もやつの拘束をとく。


「な、なんなんだよお前らは?」


 突然拘束を解かれた彼は動揺を示す。

 その姿を老虎の青い目はしっかりと捉えている。


「私は君を友達にしたくて会いに来たのだよ。」


 老虎の言葉を聞いて彼が味方でよかったと心底ほっとする。


 あれを敵にまわしてはいけない。

 俺はあいつにつきまとわれた時があるからわかる。


 今この場に角の悪魔と冥府の悪魔がいるがそれ以上に彼は危険だ。

 パワーオブメタルズの長として悪魔的魅力をやつは持っているのだ。




~~~※※※~~~




「話はわかったけど老虎さんよ、俺は海のギャングだ。 地上の無益な争いに加担する気はないぜ」


 老虎の話を聞いたししゃもは当然断った。


「勿論君の意見を尊重するよししゃも君。 君が気が向いた時に私に手を貸してくれたらいいのだ」


 老虎は無理強いはしない。

 力で押さえ付けるのがいかに愚かか知っている。


「だが君が望むなら私は君の助けになるよ」

 そういって老虎はアイテムを取り出す


「そ、それはダイヤモンドパール!?」


 冥府の悪魔ことししゃもは驚きを示す。


「君がこれを彼女にあげたがっていることは私も知っているよ」


 老虎は優しい笑みを浮かべながらししゃもを見つめ話す。


「私はこれを君にあげることも出来るが君はそれを望まないだろう?」


「……な、なにが言いたいんだ?」


「わざわざ他のプレーヤーを狩ってまでお金を集めているんだ。 自分の力で手に入れたい、そう思っているのだろう?」


「そ、それは……」


「私の元で働かないかね?」

「……え?」


「私は君を高く評価している、君の力が活かせる舞台を用意しよう」

「……」


「なんならルルちゃんのショーのガードマンなんてどうだい?」

「……え?」


「私が彼女から聞いた話では今募集しているそうなのだよ。 私なら君を紹介することが出来る」

「……あ、あんたは一体何者なんだよ!?」


「……なぁに、なんてことないただの野良猫さ」


 彼は青い瞳を輝かせながらそういった。




~~~※※※~~~




「ジロウ、私達は先にいくよ。 彼の新しい仕事先に挨拶にいかないといけないからね」


 まだ日の光が指す海の中で老虎は俺達に告げた。

 三獣士達はししゃもの背に乗っている。

 彼も傷の手当てをして動けるようだが流石に俺達全員乗せて動けるわけではないようだ。


「助かりました老虎さん! 三獣士さん! 皆さんのおかけで誰も怪我せずに済みました!」

「うん! みんなかっこよかった!」

「本当に凄かったぜ! 鳥肌だ!」


 イデアとかめちょん、タカちゃんはにこやかに彼等を見送る。


「いやいや、君達の協力があってこそだよ」


 老虎もにこやかに答える。


「パパ君はやはりあそこを離れられないみたいだったから今回は上手くいって私はとても嬉しいのだよ。 新しい出会いとはいつも胸が踊る」


 いつもにまして老虎は笑顔だった。


「君達の旅が終わったら是非私のところに来ないかね?」


 老虎はお決まりの台詞を俺達にかけてくる。


「いえ、老虎さんそれにはもう答えられません」


 今までは鬱陶しい勧誘だったけど今の俺にははっきり断る理由がある。


「俺にはこいつらがいます」


 俺の答えを聞いても老虎は笑顔だった。


「そうか、それは残念だ。」


 言葉とは裏腹に彼は嬉しそうだった。

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