20.冥府の悪魔(2)

 港町〈オーシャンエアポート〉の海辺、そこに俺達はたっていた。


「本当についてくんのか嬢ちゃん?」


 テルーがイデアに話しかける。


「うん! みんなと一緒がいいの!」


 安全のために港に残ってもらうことも考えたがイデアも強情だった。

 かめちょんが言うには仮に襲われてもイデア自身は間違いなく平気らしい。

 例のチートコードとか言うやつだ。


「まぁそうゆう訳だからイデアを頼むぜタカちゃん。」

「あいよ、ジロウの旦那!突っ立てるだけの風見鶏じゃなくてちゃっと守らせてもらうぜ!」

 イデアの肩にはタカちゃんが止まっている。

 安全だとわかっていても俺達は彼女を守らなければならない。


 そして彼女を一人にしないためにも俺達自身が倒れないように勝たなければならない。


「準備はいいかな皆の衆?」


 鎧に身を包んだホワイトタイガーは俺達に訊ねる。


「ばっちりですよねジロウさん!」

「当然よ、冥府の悪魔ごときに地上の悪魔が負けるわけないわ!」


 彼女達の答えに老虎は笑みを浮かべる。


「頼もしい仲間を持ったねジロウ」

「えぇ老虎さん、俺達は負けませんよ」


「君の表情を見ているとイデアお嬢さんとの旅が君達にとって良いものであったとよくわかるよ」


 白い虎は親戚のおじさんのような口振りで笑いかける。


「では我々も君達の露払いになれるよう全力をだそうではないか!」


「了解ですリーダー!」

「主のみこころのままに!」

「ボスが言うんじゃしかたねぇな!」


 三獣士が老虎に答えると老虎は雄叫びをあげる。

 それは聞くものを震え上がらせる武人の叫びであった。

 俺達の前では静かだった白き獣がその本性を現すのだ。




「行くぞ戦士達よ!! 我らはパワーオブメタルズ!! この地において最強の軍なり!!」




~~~※※※~~~




「兄貴、遊園地楽しみっすね!」

「あぁチルド、チキンジョッキーの野郎からたんまり報酬を貰ったんだ! 遊び尽くすぞ!」


 ここは港から少しばかり離れた海中、そこにあらずもの集団スケイルチームズのメンバーがいた。

 彼らは一様に「空気玉」を装備しアクアリウムガーデンへ向かっているのだ。

 リーダーであるコビトカイマンのハングリーと元コモドオオトカゲ、一度死んでトビトカケになった副リーダーのチルドは道中を楽しげに談笑していた。


「あそこは正に夢の国、現実世界じゃあり得ない娯楽の整地だからな!」

「そうすっね兄貴! カジノで更に大儲け出来ると思うと待ちきれないっす!」


 チルドが浮かれているのはこのゲームの通貨コインを使った賭博施設に思いを馳せているからだ。

 このゲーム、ワイルドシミュレータは完全無料のゲームでありゲーム内通貨は全て自力で稼ぐ必要性がある。

 しかし人気のあるゲームであるために現実世界で金銭をだし通貨を買い取る裏取引が行われてる。

 ゲーム内通貨であるために大きな金額が動くことは稀だ。

 

 しかしこの世界で得た大金を悪用すれば現実世界で小遣い稼ぎが出来るのだ。




 楽しく話す彼等の頭上を大きな黒い影が通る。

 日の光が通って明るかった水中にそれは突然現れる。


「……なんで急に陰ってるんだ?」

「……おかしいっすね兄貴?」


 コビトカイマンのハングリーは体を捻らせて頭上を見上げる。彼は水中では地上の倍は早く動ける。

 彼が振り返った先には黒い体に白い目をした大きな化け物がいる。

 チームリーダーであるハングリーはそれなりにゲーム内の情報を把握していた。

 故に目の前の化け物が何者であるのかチームの中で一番に理解した。




「め、め、め、冥府の悪魔!?」




「どうしたんすか兄貴!?」




 リーダーの動揺を察知してスケイルチームズのメンバーは一斉に振り向く。

 振り向いた瞬間に彼等の半分が姿を消す。




「な、なにがおこったんだ!!」 




 ハングリーが次の言葉を探しているうちに海中を漂っていた爬虫類達は全て姿を消す。


 彼等の落としたアイテムだけが静かに海底へと沈んでいく。




~~~※※※~~~




「お、中々いい獲物だったみたいだな」


 狩りを終えた黒い化け物は爬虫類達が落とした残骸を拾いながら呟く。


「これだけあればルルちゃんへのプレゼント代も満足出来そうだ!」


 彼は冥府の悪魔、海底の猛者達を退けプレーヤーばかりを狙うハンター。


「念願のダイヤモンドパールが近付いてきたぞ!! ルルちゃんの喜ぶ顔が目に浮かぶぞ!」


 それでいて海底アイドル「イルカのルル」のファンクラブに所属する所謂アイドルオタク。


 彼のニックネームはししゃも。

 冥府の悪魔、シャチのししゃもなのだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る