20.冥府の悪魔(3)

「うみー!!」


 イデアは水中での遊泳を楽しんでいる。

 俺達は皆港で手にいれた「空気玉」を装備していて溺れる心配はない。


「魚が一杯いるよジロウ!」

「あぁ本当だな、随分カラフルだ。」


 熱帯魚やら寒中魚やら多用な魚が泳いでいる。

 殆どNPCだがこのゲームの世界観は本当になんでもありだな。

 一応地域毎に発生する魚の種類は偏りがあるらしいが季節の概念がないから色んな魚が泳いでいる。

 日本じゃ年越しの寒い時期なのにカラフルな熱帯魚に囲まれて季節感が狂う。


「……現れませんね冥府の悪魔」


 かめちょんは水中でも俺の頭上で警戒を強めている。


「あいつが現れたら一瞬だ、気を抜くなよトカゲ女!」


 鎧に身を包んだテルーは語気を強めていう。

 針積めた空気の中、俺達の眼下に黒く大きな生き物が映る。




「いたぞ! やつだ!!」




 最初に反応を示したのはアナコンダの蛇鬼。

 彼は蛇としての能力として周囲にいる生物を察知出来る。

 それは蛇が持つ赤外線による周囲の温度探知機能、所謂ピット器官と言うやつだ。

 水中なのにこの機能が働くのはゲームならでこそだがな。




「テルー! ブレイド! 行け!!」

「了解、ボス!」

「わかりましたリーダー!」


 俺達が動くよりも先に三獣士は行動を始める。

 こちらに向かってくる冥府の悪魔にラーテルのテルーは装備していた剣を口にくわえ、サーベルタイガーのブレイドはその牙を向ける。

 俺達が動き出したときには冥府の悪魔はもう目の前に来ていた。


 わかっていたことだがやつは明らかに俺たちより速い!




 冥府の悪魔、やつはシャチだ。

 森の番人、パラケラテリウムのパパは陸上最大の生物と言われていたがやつは海洋哺乳類最強と言われる生き物だ。


 別称「オルキヌス・オルカ」、冥府の魔物という意味だ。


 単純に速さだけでも時速約七十キロ、ホオジロザメが時速約三十キロに対して圧倒的な速さだ。

 俺も陸上ならそのくらいのスピードなんとかなるが水中で走ることはまず出来ない。

 やつは俺達を認知すると突然旋回し上に泳ぎ去る。


「ち、賢いやつだ」


 テルーは悪態をつく。

 やつはあのスピードの中、彼等の武器を認識し回避した。

 蛇にピット器官があるようにシャチも特殊な探査機能がある。

 クリック音という音を発し跳ね返った音を探知することで海中を漂う糸でさえも探知することが出来るのだ。

 俺達の頭上に舞い上がった彼はそのまま鎧を着けていない俺達に突っ込んでくる。




「来たよジロウ!!」

「来ましたよジロウさん!」

「わかってる!」



「主の友人に手出しはさせん!!」


 オオアナコンダの蛇鬼は冥府の悪魔と俺達の間で回転し自身の体で輪を作る。

 恐ろしい勢いで突進してくるやつをその体で掴み、縛りあげる。

「大人しくしてもらうぞ、冥府の悪魔!!」

「……なんだ、あんた達は俺の名前を知ってるのか?」


 蛇鬼はやつの顔先に巻き付き顎の動きを封じている。

 それでもやつは動揺する素振りは一切見せない。


「知ってて来たってことは腕には自信があるようだな!! 久々の強敵だ、いい稼ぎになりそうだ!!」


 冥府の悪魔はそういって笑い声をあげると八メートルの蛇を体に巻き付けたまま再び俺達に突っ込んでくる。


「っく、なんてパワーだ!!」

「ジロウ!! 私に任せて!!」


 続いて俺達の間にナチュラルが現れる。

 その大角で冥府の悪魔を受け止める。

 彼女の蹄は海底をとらえているがやつの圧倒的なパワーに押し出され後ろに大きく仰け反る。

 ナチュラル、ギカンテウスオオツノジカは体長約三メートルなのに対してシャチは体長約六メートル強、彼女の体よりも大きい角を持っても押さえきれないのだ。


「ナチュラル!!」


「……あぁぁぁ!! もうこれ以上負けないんだから!!」


 本来防御不可能なやつの突進に対してナチュラルは気合いでぶつかり合う。

 陸の悪魔と海の悪魔の激突だ。


「頑張ってみんな!!」


 後ろにいるイデアの為にも速くこいつを止めなきゃならない!!




 そのためのとっておきだ!


「かめちょん! 俺達もいくぞ!」

「ええジロウさん! 平凡な見せかけ(ミラージュアワー)!!」


 対人戦でこれをつかうのは正直ずるだとは思うが弱肉強食のこの世界でつかえるものを使わずに勝てる相手じゃない。

 かめちょんの能力によって俺達はやつの視界から消える。


「な、消えた!?」


 突然視界から消えた俺達に流石の悪魔も動揺したようだ。

 勿論音で位置はすぐバレてしまうがそれは問題じゃない。


 一瞬気が引ければいいんだ。




「追い付いたぜ魚野郎!」

「生け捕りの予定だけど加減はしないわ!」

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