18.お父さん(2)
「君達のお陰で順調に娘は完成へと向かっている。 本当にありがとう」
話を終えた金髪の男性を前にして俺の中の怒りはまだ消えてなかった。
「……わかっているならどうして」
怒りは確かにあったけど彼にそれをぶつけることが出来なかった。
「……どうして一緒にいてあげないんですか。」
俺はうつむきがちにもう一度彼に聞いた。
「……あの娘は、イデアは、あなたを必要としていた!!」
「あの娘は私の娘ではないのだよ」
彼の静かな言葉が部屋に響いた。
「あの娘は私の娘を元に生まれた。 確かに似た外見、思想、記憶、段々と彼女に近づいている」
なんなんだよ。
「しかしあの娘はイデアではないんだ」
イデアはあんなにも親のことを知りたがってるのに。
「イデアの記憶を引き継いだ何かであってイデアではないのだよ」
……なんで俺の前のこの男は彼女に応えてやらないんだよ。
「娘は確かに私を求めていた。 けれど今のあの娘が求めているのは私ではない」
いつも楽しそうに笑うイデアの顔、記憶を取り戻すたびに大人びて変わっていく彼女の姿が脳裏に過る。
今までの冒険で積み重ねた彼女との思い出が彼の言葉を裏付ける。
「彼女が求めているのは私ではなく冒険を共にした君達なのだよ」
悲しいのか嬉しいのかよくわからなかった。
「……全ての記憶を取り戻したら、イデアちゃんはどうなるんですか?」
俺は訊ねた。
「彼女は死ぬよ」
彼は答えた。
「彼女は記憶を手に入れて自分のデータを書き換えているんだよ」
〈たからもの〉を手にする度に彼女は成長してきた。
「自身が死を選んだ事実を知り、彼女はそれを自分のプログラムに書き加える」
自分から死を望んだ彼女にイデアが段々と近づいている……、その予感は確かにあった。
「仮に生き残ったとしてもそれは君と多くの時を過ごしたイデアではない」
必ずと言っていいほどに彼女は悲しみ、俺達の目の前の彼女とは違っていた。
「……そもそももう彼女の肉体はこの世に存在しないんだ」
「……なんだよ!! じゃあなんのためにかめちょんは今まで頑張ってたんだよ!!」
「……ジロウさん」
「おかしいだろ!! 俺達があの娘と一緒にどれだけ旅をしてきたかあんたは知ってるんだろ!!」
「……ジロウさん」
「なんであんたはあの娘が死ぬってわかってて冒険なんかさせたんだよ!!」
「生きてて……、欲しかったんだよ……」
「彼女が私の娘でなかったとしても……」
俺達の前にいる男は涙を流していた。
そこにいる男は大企業の社長でも、仮想世界の創造主でもない一人の父親だった。
彼の大層な肩書きよりも親という身近な一言が一番しっくりきた。
~~~※※※~~~
「邪魔したねジロウ君」
彼は再び帽子を被り玄関前にたつ。
「君達には話しておくべきだとおもってね。 出来れば鹿の娘と鷹君にも話したかったのだけど今回は時間切れみたいだ」
彼は時計を確認しながら話す。
「いえ、話してくれてありがとうございました」
俺はちっとも感謝はしてないがいつもの癖でそれだけ世辞をいった。
まだ頭の中で整理が出来ていないのだ。
「……また落ち着いた時に話がしたいね」
それだけ話して彼の雰囲気が変わる。
「私は〈思い出の場所〉で君達を待っている」
「今度は彼女と共に私に会いに来ておくれ」
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