17.誘拐(3)
「ふざけやがって鳥!!」
俺は今少し憤慨している。
「……ジロウさん、そろそろいいんじゃないんですか?」
イデア達が連れ去られた宮殿内、かめちょんは俺達を止めようとする。
「いや、まだよチビトカゲ、こんなもんじゃ足りないわ」
俺とナチュラルはキャッチボールをしていた。
「……へへ、さ、さすがにそろそろHPがきついぜ旦那! 姉御!」
俺とナチュラルを裏切り者のタカちゃんを球にしてキャッチボールをしていた。
ナチュラルは角をバット代わりに俺は頭突きでそれを打ち返す。
タカちゃんは俺達よりも遙かに小型だから丁度いいお仕置きだ。
「駄目だよジロウやりすぎは」
さすがにイデアに止められたので俺達のお仕置きはそこまでで終わった。
イデアが止めてくれなかったらタカちゃんが倒れるまでやっただろう。
「お騒がせしたわね皆さん」
この街ロイヤルキャッツの長のチーター、それも反転模様が独特なキングチーターのパステトは部屋から檻を片付けたのち俺達をもてなしてくれた。
「やれやれ長い撮影だったぜ」
「毎回街で襲撃すんのも疲れるしな」
「俺は怖くねぇや」
「けっ、報酬がいいから雇われてたけどよ、ドラマみてぇじゃねぇか、俳優になった気分だぜ」
「格好いいぜ兄貴!」
「うむ、よき修行となった」
「おっす! レッサー師匠!」
チキンジョッキーに雇われていたごろつき達も近くで駄弁りあっている。
「お陰でいい撮影が出来たぜ!」
先程まで瀕死の重症であったタカちゃんもすっかり元気なようすだ。
やはりもう一度倒しておくべきだったか。
「ジロウさんかっこよかったですよ! ヒーローみたいでした!」
「私もその場にいたかったわ……」
かめちょんは興奮ぎみに、ナチュラルはしょぽくれながら話している。
「いや~、本当に迷惑をかけたね!」
澄まし顔で言うのは全ての元凶となったひよこ、チキンジョッキーであった。
チキンジョッキーは社長からイデアの話を聞いて旅の様子を動画にすることを画策していた。
彼はイデアが俺と出会って行動を共にしたことを知ると知り合いのタカちゃんにその様子を撮影することをお願いした。タカちゃんも俺と面識もあったし乗り気だったらしい。
とにかくタカちゃんが俺達の旅に参加してきたのはそうゆう思惑があってのことだった。
俺達の旅が安全だったのもチキンジョッキーの根回しによるものだったようだ。
ある程度名のあるごろつき達を買収していたのは俺達に旅の危機感を与えつつ動画の盛り上がりを与えるためだ。
勿論ごろつき達も本気で倒しにはこない、あくまでやられ役だ。
高い報酬で彼等も文句は言わない。
それにチキンジョッキーと敵対するということは四大都市の一つを相手にするということを彼らは理解していたのだ。
彼等の街「スカイフロントウェア」は決して戦闘に重きを置く都市ではないがチキンジョッキーの傘下の大勢のプレーヤーが控えている。
彼等が本気で戦争を起こせば小さなコミュニティはひとたまりもないだろう。
一つ計算違いだったのは途中参加したナチュラルが恐ろしく強く、大体敵を一蹴してしまっていたことだった。
結果として俺達は安全な旅を謳歌していた。
このままでは見所が足りないと考えた彼は今回の作戦、姫を救い出すヒーロー作戦を思い付いたらしい。
この計画のために新たにコミュニティを勧誘して街一つ使った大規模な作戦にしたのだ。
タカちゃんが離脱していたのもこのドッキリのための準備のためだったらしい。
「と言うか盗撮じゃない、勝手に撮影するなんて!!」
ナチュラルは憤怒する。
「いや、それを言われると仕方ないね」
チキンジョッキーは言葉の割に余裕の表情だ。
「まぁ僕も会社の秘密を握ってるし社長からは文句は言われないだろうと思ってたけど君達に怒られるとわね」
彼は悪びれる様子はない、ある意味肝が座っている。
「権利の問題もあるしこれは放送はしない、君達の思い出にとっておくといい」
チキンジョッキーは笑いながらタカちゃんに映像データの入ったアイテムを渡す。
「思い出は形に残していた方が思い出しやすいだろう?」
この大仕掛けのドッキリも彼は好意でやってくれていたようだ。
ドッキリでよかった。
そう思うしかないようだ。
これがもしそうゆうものでなく本気でイデアを狙ったやつの犯行だったとしたら俺は何が出来たんだろうか?
「来てくれてありがとうジロウ!!」
俺にすり寄ってくるイデアの笑顔が見れたし今はよかったと思うことにした。
「どうしても最後の都市に行く前に気を引き閉めて欲しかったしね!」
チキンジョッキーは語り出す。
「最後の都市、アクアリウムガーデンは最早別世界だ! あそこでは地上の常識は通用しない!」
「夢と魔法に溢れた遊園地だからね!」
~~~※※※~~~
「おい、あんた」
俺達がこの街を離れる前にあのニホンオオカミが現れた。
「悪かったな色々と」
彼は俺達に一人、謝罪に来たようだ。
「いいのよ、悪いのはそこの鳥頭だから」
「へへ、そろそろ勘弁してくれよ角の姉ちゃん」
二人の会話に目もくれずやつは俺を見ていた。
「俺は指示された通り、台詞を言っただけだ。 お前らの事情なんて知ったもんじゃねぇ」
やつは俺の目を見て話していた。
「俺はあんた達が羨ましいよ」
やつの目を見ているとやつの目に映る俺が見えた。
「……大事にしてやれよ」
それだけ言ってやつは去っていく。
「なんだったんですかね今の?」
「やっぱりジロウそっくりだった!」
二人の声を聞きながら俺はやつの後ろ姿を見ていた。
その姿は正に一匹狼だった。
俺はふと振り返る。
俺の背に乗る二人と大きな鹿と気さくな鷲。
ゲームの中のこの場所はいつの間にか俺の居場所になっていた。
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