17.誘拐(2)


「わ、私達をどうするつもりなんですか!?」


 先程ニホンオオカミが現れた場所から離れた場所でかめちょんとイデアは大勢の動物に囲まれていた。


「へへ、そりゃ決まってんだろうよ!」


 烏の烏龍ウーロンはニタニタと笑いながら答える。


「あの生意気な鹿にリベンジするために人質になってもら……」



 

 汚い笑顔を浮かべながら真っ黒な翼をイデアへと向ける。




 パチン。




 その瞬間落雷のような音がしたかと思うと真っ黒な烏龍に空から光が突き刺さり黒焦げになる。


「……は、はひぃ?」

「……な、何が起こった!?」

「……お、俺は怖くねぇや!?」


 突然の出来事に周りの動物達もざわつく。




「ジロウとお姉ちゃん達に悪いことしたら駄目!!」




「見ましたか? これがイデアちゃんに隠された防衛プログラムの力です。 イデアちゃんに害があると判断すると自動で反撃しますよ?」


 かめちょんは得意気にイデアの肩で語る。


「こ、こんなの聞いてないですぜ兄貴!?」

「……落ち着けチルド、やつの作戦を信じるんだ」


 怯えるトビトカゲに対しコビトカイマンのハングリーは答える。


「全く馬鹿な鳥達ね、話を聞いてなかったのかしら?」


 余裕を持った表情で奥に寝込むチーターは語る。


「折角あたしが二人をここまで穏便につれてきたのに余計なこというからよ」


「雌豹め、いい気になりやがって!」

「てめーなんか怖くねぇや!」


「あら、ここは私の街よ? 戦う気なの?」


 鳥達の罵声を浴びてもチーターはすました顔で答えるばかりである。




「喧嘩はおよし!」




 動物達を掻き分けてパンダのリンリンが現れる。


「パンダさん!?」

「リンリンさん!?これはどうゆうことなんですか!?」


 二人が驚いているとリンリンは笑って答える。


「びっくりさせたね二人とも! 安心しなさい今すぐどうこうなるってことじゃないからね!」






「ちょこっとだけ協力してもらうだけだからね!!」




~~~※※※~~~




「お前!! 二人をどこにやった!!」


 落ち着け、俺。

 冷静になるんだ。


「答えろ犬公!!」


 落ち着くんだ。

 焦っちゃ駄目なんだ。

 なんだってそうさ。

 仕事でもゲームでも冷静さをかいたらすぐに必ず見落としが出てくる。


 ……頭でわかってても動揺が消せない。


「二人は王宮にいる。 この街のな」


 計画通りに事が進んでかニホンオオカミは澄まし顔だ。


「返して欲しければそこまで来るんだな」


 やつはそれだけ言い残しこの場を離れ出す。


「まて!!」


 俺達はやつを追ったが街角に入るとやつの姿は消えた。


「くそ!! こうしちゃいられない!!」


 俺は王宮を目指す。


「待ってジロウ!!」


 駆け出そうとする俺の足をナチュラルが制止する。


「これは確実に罠よ!」




「……でも二人が!!」




 俺はこんなに動揺したのは久々だった。

 初めて仕事でミスした時もこんなには焦らなかった。


「一回ログアウトして、状況を確認してからでも遅くないはずです!」


 いつになく松下は冷静にみえる。

 俺が冷静じゃないってのはわかってるんだけどな。




「……いつかじゃ駄目なんだ!!」



「今、イデアの側にいてやらないとだめなんだ!!」




~~~※※※~~~




 ロイヤルキャッツの長の住む宮殿、その前には門番がいる。


「ここを通るものよ! 我が問いに答えよ!」


 出てきたのはスフィンクス、伝承上の生き物ではなく毛がない猫の方だ。


「ナチュラル頼んだ!」

「任せてジロウ!!」


 俺達は門に向かって体当たりを挑んだ。

 ナチュラルの大きな角で扉は抉じ開けられる。


「……ひぃ!! ……なんなんだお前達は!?」


 スフィンクスも驚いて逃げ出す。


「にゃーーーーん!! 侵入者だぁ!!」


 変な鳴き声のサイレンと共に黒豹の兵士が姿を表す。

 こんなやつらに構ってはいられない。


 俺は全速力でやつらの合間を縫って進む。

 その後からナチュラルは大角でやって来た兵士を蹴散らす。

 しかし兵士達も手強くナチュラルは即座に取り囲まれてしまう。


「ナチュラル!!」

「大丈夫ジロウ! ここは私に任せて!! 早く二人を!!」

「……わかった! 無茶すんなよ!!」

「馬鹿ね! 私はあなた以外に負ける気はないの!!」


 短い会話とアイコンタクトが終わると俺は前に進む。

 あいつのことは信じるしかない。


 俺は王宮を駆け抜けて大広間へと辿り着く。

 そこには檻の中に閉じ込められたイデアと紐で縛られたかめちょんがいるのだ。


「イデア! かめちょん! 無事だったか!」


「ジロウ!!」

「ジロウさん!!」


 二人は声を揃えて俺を向く。




「待ってろ!! 今すぐ助ける!!」




 二人の元へまっすぐ駆け出す。


「待ちな」


 俺が部屋に入ったのを見計らって大勢の動物が姿を表す。

 どいつもこいつもこの間襲ってきた奴らだ。


「なんだあの鹿はいねぇのか?」

「関係ねぇ、お前が先だ!」

「てめーなんか怖くねぇや!!」

「へへ、闘技大会のつけがこれで晴らせるってもんだ!」

「格好いいぜ兄貴!」

「多勢に無勢、諦めよ狼よ。」


 有象無象の中で俺と二人の間に割ってはいるやつがいる。


「……やっぱり来たみたいだな」


 それは先程俺達の前に現れたニホンオオカミ。


「邪魔するなら全員ぶっ飛ばす!!」


「……まぁ落ち着けよ、一匹狼。 取引しようぜ」


 やつは淡々と冷静な口調で語りかける。

 その言葉はどこか機械的で与えられた言葉をそのまま読み上げているかのようだった。


「……取引だ?」


「俺達はある人物から依頼を受けてお前達を誘き寄せた」


「誰だそいつは!?」

「そいつはそこの娘のことをよく知っている」


 やつはイデアを見ていう。


「……どうゆうことだ?」

「この娘を俺達に渡せ。 大人しく帰ってくれればお前達三匹は無事に返してやるよ。 出来なければ皆ここで潰す」




「そんなの了解出来るわけないだろ!!」




「なんでだ?」


「何でって、イデアには俺達が必要だからだ!!」






「家族でもないのにか?」






 ニホンオオカミは俺を見つめて言い放つ。


「所詮ゲームの中なんだ、熱くなるなよ」



 その口ぶりはまるで彼女と俺達の関係を全ての知っているかのようだ。

 ……こいつはどこまで知ってるんだ?


 ……わからないことだらけだが一つだけ確かなことがある。






「そんなの関係ない! 俺にとってこいつらは家族と変わらないんだ!!」






「ジロウ!!」


 イデアはそう叫ぶと檻をへし折る。

 そして俺に駆け寄ってくる。




 ……ってあれ?




「ジロウ大好き!!」

「ジロウさんかっこよかったです!!」


 イデアは俺に抱き付いて笑っている。

 かめちょんもいつの間にか紐をほどき頭の上を跳ねている。


「はい! カット!!」




 頭上から久々に聞く声がする。


「いやー名シーンだったぜジロウの旦那! 鳥肌ものだ! 鳥だけに!」

「これならいい動画が作れそうだね!」


 俺達の傍に二羽の鳥が舞い降りてきた。

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