17.誘拐(1)

「みんなよく集まってくれたな、歓迎するぜ!」


 静かな夜の森の中、大鷲のタカちゃんはそこにいた。

 12月に入り彼がウルフライダーズから離れてからそれほど日時はたっていない。


「俺達はてめぇに歓迎されるために来たんじゃねぇぞ?」

「そうだそうだ!」

「てめぇなんか怖くねぇや!!」


 枝木に止まる集団は烏合衆、鳥類で構成されるハンターコミュニティ。


「騒ぐなよ鳥共、ただでさえ羽ばたく音がうるせえんだ」

「そうだ! 兄貴に食われたくなかったら大人しくするんだな!」


  茂みから現れて悪態を着くのはコビトカイマンのハングリー、そして隣にいるのはトビトカゲのチルド、二人の後ろにもスケイルチームズの面々が揃っている。


「不毛な争いは無益、やめておけ」


 静かに佇むレッサーパンダ、彼と後ろの二匹の熊は熊手道場のメンバーだ。


「……何でもいいから早く済ましてくれ、仕事があるんだ」


 暗がりから顔を出すのは幻獣種ニホンオオカミ、彼はフィンリルと呼ばれるコミュニティに所属している。


「やっと私達も動いていいのね、待ちくたびれちゃってたのよ!」


 木の上で寄りかかるのはチーターの中でも派手な模様を持つキングチーター、彼女のコミュニティ、ロイヤルキャッツは猫科の集まりである。


「いよいよなんだね!」


 静かに座るパンダのリンリン、彼女はサイレントパーティーのリーダーだ。


「あぁいよいよだ! むしろ早くやらないと取り返しのつかないことになる、鳥だけにな!」


 タカちゃんは高笑いする。

 その顔をみて集まった動物達は静まる。

 彼の目は獲物を狩るの野生の目をしていた。




~~~※※※~~~




 「今年のクリスマスは休みだけど大崎君はどうするんだい?」


 俺を呼ぶのは係長。


「別にいつも通りですよ、何事もなく家で過ごします。」

「……松下ちゃんと出掛けないのかい?」


 意外そうな顔で係長は話してくる。


「……どうしてそうなるんですか?」


 俺はおうむ返しで係長に答える。


「……まぁそうゆうことならそうゆうことでいいんだよ。」


 係長は笑顔で答えて席に戻る。

 俺と松下が飲み会に行ってからというもの上司からの好奇の目にさらされている気がする。


 まぁ確かに端からみたら俺と松下は仲良く見えるんだろうけどその実ネットゲームの仲間なのである。

 この事実は一応会社内で口外していない。

 何となく恥ずかしいからだ。

 松下の方が気にしてない様子なのが幸いだが変な誤解を持たれるのは困る。

 確かに松下は可愛い後輩だしゲームでの価値観も近いものがある。

 自然と息が合ったプレイが出来る友達はそう会えないだろう。

 けどあいつは俺より若いのだ。

 これからまだまだ出会いの場があるだろう。

 俺との関係が変に誤解されているなら可哀想だ。

 勿論それはかめちょんにも言える。

 まだ成人したてで俺よりも一回りくらい年下なあいつが俺の家で無下に時間を過ごすのも馬鹿馬鹿しい話だと思う。

 でもそれはイデアのためで俺達はイデアの支えになるという共通の目的を持っている。だから今一緒にいる。

 それだけなのだ。

 あの娘が俺達を必要としてくれるから、俺達もあの娘を必要としてる。

 それがいつまでも続けばいいなと、この間思ったばっかりだった。


 俺達は四つ目の都市アクアリウムガーデンを目指し移動していた。

 今は「ロイヤルキャッツ」という街を訪れている。

 このコミュニティの住人は猫科の動物のみで構成されていて軍事力ランキングでも10位圏内に入る強豪だ。

 パワーオブメタルズと違ってこの街は治安がよく前みたいに襲撃に会うことはなかった。


「猫さんが一杯だねジロウ!!」


 イデアはここでも楽しんでいた。

 街中に自由気ままに寝転がる猫がいるのだ。


「強豪と聞いてたけどなんだかだらしない連中ね」


 街の住人達を一瞥してナチュラルはいう。

「あれですよ、パワーオブメタルズと一緒で戦闘に特化したメンバーがいるらしいですよ!そんなことも知らないんですか角女?」


 かめちょんはにこやかに答える。


「そんなの知ってるわよチビトカゲ!」


 相変わらず二人は元気だ。

 タカちゃんが一緒にいたら中身に関わらず高笑いするんだろうな。


「……ジロウ見て見て!!」


 イデアは俺達に近付いてくる動物を指差す。


「久し振りだねぇみんな!!」


 それは前の街で会ったパンダのリンリンだった。

「この前はお世話になりましたリンリンさん!」

「いいってことよ、あたし達もいいショーを見せてもらったしね!」


 笑顔で答えるリンリンは今日は一人のようだ。


「どうしてこの街に来たんですか?」


 俺が訊ねると待ってましたとばかりにリンリンは話し出す。


「それがね、この街でサーカスをするために打ち合わせに来たんだけどね、いやーなやつなのよこの街の長が!」

「……なにかあったんですか?」

「この街が治安がいい理由はご存じ?」

「詳しくは知らないですけど……」

「なんでも反乱分子は誘拐して処刑しているらしいのよ!」


 グリーンホスピタルでの経験を経た俺達はその言葉に身構えた。

 一見平和そうなこの街にもあの街みたいに何か裏があるのだろうか?


「みんなも気を付けるんだよ!」


 リンリンはそういって去っていく。


「ありがとうパンダさん!!」

「……なんだったんでしょうか?」

「……さぁ?」


 彼女の言葉に不安を抱きつつも俺達は歩みを進める。

 数歩進めた先で再び新たな出会いがあった。


「貴様らがウルフライダーズだな」


 俺達の前に現れたのは俺と同じ狼、俺よりもだいぶ小さいが目付きが野生のそれだった。


「ジロウそっくり!!」

「なんですかこの人? ジロウさんの知り合いですか?」

「俺は知らないぞ」

「一匹狼のジロウ、角の悪魔ナチュラル、お前達にはここで消えてもらう」


 強い語気で話す彼は今まで相手してきた奴等と違う感じがした。

 言うならば森の番人、パパと対面した時のような自信と余裕を感じるのだ。

 俺達はすぐにこれが敵だと気付いた。


「……ジロウ、私がやるわ」

「……俺も加勢する。 イデアとかめちょんは離れていてくれ」

「……わかりましたジロウさん」

「……怪我しないでね二人とも」


 二人を後ろに下げて俺とナチュラルは前に出る。

 はりつめる空気に周りにいた猫達は逃げ出し物陰から俺達をみてる。


 ニホンオオカミは静かに俺達を見ながら歩いていてきた。


 ……目付きと体の動きでわかる、こいつは相当場数を踏んでいる。

 少なくともナチュラルと同等には強い。

 いつもなら戦いを避けるべき相手だ。

 戦っても必ず深手を追ってしまう。


 しかしこんな相手を前に後ろの二人を抱えて逃げるのは愚策だ。

 必ず追い詰められる。


 完全に油断していた。

 このゲームは弱肉強食、いつ襲われるか、いつ死ぬかわからない。

 イデアとの旅の間強い相手が狙ってくることもなかった。

 寧ろ弱い相手ばかりあってきて俺もナチュラルも天狗になっていたのだ。

 このゲームで死んでしまうと違う場所にリスポーンしてしまう。死んでしまった時の対応は昔少しだけかめちょんと話したけど前過ぎてあんまり覚えてない。


 何よりイデアの前で俺達が倒れるのはよくない。

 一度死んでいるようなイデアの前で、俺達が先に死ぬのはきっとよくない。

 俺はそう思う。




「……じ、ジロウさん!!」

「……ジロウ!!」




 後ろから二人の悲鳴のような声がした。

 俺達が振り向いた時後ろに二人の姿はなかった。


「イデア!! かめちょん!!」

「そんな! いつの間に!」




「……作戦成功だ、リーダー」


 目の前のやつがそういうのを俺達は聞いた。

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