16.雪降る季節(2)
俺達の旅は前よりも緩やかになった。
移動する距離は前より極端に落ちたし四大都市以外の村に立ち寄ることも増えた。
結果としてイデアの笑顔を前よりも眺める時間は増えた。
プレイ時間は減っているはずなのに、そんな気がする。
「彼女のためにもその日々を大切にしておくれ」
ガラパゴルドは〈たからもの〉を集めた後イデアがどうなるか教えてはくれなかった。
かめちょんもどうなるのか知らない。
もし〈たからもの〉を集めなくていいのなら俺は集めなくていいんじゃないかと思う。
こうして彼女と過ごす時間は今の俺にとって大切な時間だ。
仕事を頑張って、寄り道せずに帰って彼女とふれあう時間は大切な時間なのだ。
かめちょんの言っていたようにこんな生活が続けばいいのにって思う。
でもきっとイデアはそれを望んでいない。
「……私知りたいの、お父さんのこと」
〈たからもの〉を開ける前に言ったあの言葉、それについて彼女は開けた後も何も言わなかった。
今までの記憶をみた限りお父さんはまだ顔を見せていない。
俺達が見ていないだけでイデアは思い出したのかもしれないが俺はそうは思わない。
あの娘は少なからず最初の状態と違って〈たからもの〉を開けることに意欲的なのだ。
自分が何者かもわからなかったあの頃と違って、自ら知りたいと思っているのだ。
イデアがそう思うのなら俺達は見守ってやらないといけない。
それがかめちょんの言っていたついていくってことなんだと思う。
「見てジロウ、サンタさんだ!」
イデアは街を通りかかる赤い服を着た動物を指差していう。
服装こそサンタだがその正体は牛の仲間ヌーである。
神様の失敗作とも言われる程不思議な動物だ。
「なんか毛深いサンタですね!」
俺の頭のカメレオンは黄色い体でそう話す。
「……サンタならトナカイもついてないとな」
俺はナチュラルを見ていう。
「な、なによジロウ? 私はトナカイじゃないわよ?」
「いいじゃないか似てるし、前みたいに乗せてくれよ」
「……じ、ジロウが言うなら仕方ないわね」
ナチュラルは俺の意を察してその場にしゃがむ。
「かめちょん、頼みがあるんだが?」
「なんですかジロウさん?」
「ナチュラルの鼻に乗って赤くなってくれ」
「むー! ジロウさん!! 私は装飾ですか!!」
かめちょんは赤くなる。
わかってはいたが面白いやつだ。
「ならいいや、イデアの頭に乗ってくれ」
俺は頭の上のかめちょんにいうとイデアを見ていう。
「ほら、イデアも俺に乗ってくれ、俺達も負けてられないぞ!」
前までは飛び付いてきたイデアだったが少し恥ずかしそうに近付いてくる。
「……どうしたイデア?」
「……ちょっぴり恥ずかしい。」
なんてこった、これが反抗期か?
「……でもやる!」
照れ臭そうにしてたイデアはそういってはにかんで俺の上に股がる。その様子をみたカメレオンは黄色くなりながらイデアの背を登り頭の上に乗る。
そして俺はそのままナチュラルの背に乗る。
「ほら、いくぞみんな!」
「「「おーー!!」」」
俺達はそのまま雪の降る街中を駆け回った。
きっと周りからみたらさぞ滑稽な姿だったろう。
でもいいんだ。
俺達はみんな笑顔だった。
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