「猫」の街
「猫」の街
16.雪降る季節(1)
「兄貴!」
高島南は扉を開けてそう叫ぶ。
「なんだよ南、もう交代してくれるのか?」
仕事帰りで一服していた高島孝人もそれに動じる様子はない。
「兄貴の言う通り面白いことになってきたわ!」
南はVRデバイスを手に孝人の部屋に入る。
特に家具もない簡素な部屋だ。
「それはジロウの旦那の件か?」
孝人もそれを察し嬉しげである。
「えぇ、思わず舞いあがっちゃうわ! 鳥だけに!」
南は少々興奮ぎみである。
「とりあえず計画通りってことか?」
孝人はニヤリと笑う。
「えぇ、今のところジロウも他の二人も誰も気付いちゃいないわ!」
南もニヤリと笑い答える。
「いよいよあいつの計画を進めるときみたいだな!」
孝人は立ち上がり高島南に近付く。
「楽しみだね兄貴!」
近付く孝人に南はVRデバイスを手渡す。
「あぁきっとあいつも喜ぶぞ!」
VRデバイスを受け取った孝人、手渡した南、二人は似たような含み笑いを浮かべていた。
~~~※※※~~~
日が暮れた営業所、キーボードを叩く音が室内を埋める。
その音はいつも以上に世話しなく年の暮れに相応しいものだった。
「先輩、年末の営業報告書書く時間がないですよ」
珍しく松下が泣き言を言っている。
12月に入って仕事量も増えたのだろう。
「頑張って時間を作れ松下、俺も最初は苦労した」
残業してパソコンを打ち込みながら俺は答える。
「……でも先輩、イデアちゃんと会う時間が」
松下は他の社員に聞こえないように俺に言う。
「……それも作るしかないんだ」
~~~※※※~~~
「いつもご苦労様ですジロウさん!」
かめちょんはいつも俺を待っていてくれる。
もう彼女の存在にもなれてきてしまった。
「いつも思うんだけどお前は日中何をしてるんだ?」
「家事と業務連絡と資料作成ですね!」
「……資料作成って何をしてるんだ?」
「企画部で発案された資料の発表のために必要なデータの統計をまとめたり、まぁ補助資料の作成が主です」
「……おまえも大変なんだな」
「ジロウさんほどではないですよ!」
かめちょんは少しはにかんで俺をみる。
「おかしな話ですけど最近こんな生活が続けばいいのにって思うんです。」
「どうしておかしいと思うんだ?」
俺が聞くと少しだけ顔を曇らせて答える。
「……私の今の仕事はイデアちゃんがああなってしまったから成り立っているんです」
「勿論イデアちゃんには前みたいに元気な姿に戻ってほしいです」
「けど……、イデアちゃんがああなった時みたいに、おしまいって突然に来るんだと思うんです」
彼女がそんなことを話すのは俺達が三つの〈たからもの〉を手にしたからだ、俺はそう思う。
あと一つで全ての〈たからもの〉は揃うのだ。
俺達の旅もそう遠くない日に終わるのだ。
その時にイデアは、かめちょんは……。
……俺はなにを思うんだろうか?
~~~※※※~~~
「わー、雪だよジロウ!!」
イデアは降り積もる雪をみて喜んでいる。
現在ワイルド・シミュレータは初のクリスマスイベントが実施され通常雪の降らないエリアでも雪が降っているのだ。
今俺達の立ち寄っている街〈ポップコーンホリデー〉もクリスマスムード一色だった。
「……まだイブでもないのに気が早いわよね」
ナチュラルは少し呆れ顔だった。
「いいじゃないですか楽しそうですし!」
かめちょんとナチュラルとの関係は少し落ち着いてきていた。
俺が思うに、だがな。
12月に入ってからの大きな変化は俺達のプレイ時間が少し減っていることとタカちゃんがいないことだ。
兄の孝人さんは年末年始の準備で忙しいらしく、妹の南も学校の関係であまりプレイ出来ないらしい。
年を越したら合流すると言うことで連絡を受けていて現在地はいつも連絡している。
実際最後の都市は今までの都市と違って行くのに少し時間がかかるし丁度いいと言えばいいのだがいつも一緒にいたやつが突然現れなくなるとなんだか寂しいものがある。
俺達はメンバーがかけたことでみんなが物寂しさを感じていた。
「どうしたのジロウ? 疲れているの?」
もう一つ変化がある。
それはイデアについてだ。
三つ目のたからものを得て彼女はまた少し背が伸びた。最初の頃の幼さは薄れてきて大人に近付いてきた感じだ。
前よりも俺達を気遣ってくれるようになった。俺達のプレイ時間が減っても何も言ってこない。
「……大丈夫だよイデア」
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