14.サーカスがやって来る(3)

「今回我々は恐ろしい猛獣達を連れてきました!」


 打ち合わせでは聞いていたがサーカスにでるとなると中々緊張する。


「いよいよだねジロウ!」


 俺の背中でイデアが言う。


「お願いしますよジロウさん!」


 かめちょんはイデアの肩を登りその頭に乗る。




「それでは登場いただきましょう! 猛犬フレディです!!」




 馬がそう高らかに宣言すると俺はよたよたと前にでる。

 かわいい子犬のように歩けとのご指名だ。

 奇妙なピエロ姿でイデアを乗せててとてとと歩く俺を見て会場が笑いに包まれる。

 なんか複雑な気分だ。


「ではこちらの猛犬フレディには火の輪潜りに挑戦していただきます!」


 司会の馬の声がすると大きな角に大きな木製の輪っかをつけたナチュラルと火のついた棒を爪で掴み飛び立つタカちゃんが現れる。

 ナチュラルが定位置につきタカちゃんが会場を一周すると持っていた火を輪っかにつける。

 火をつけ終えるとタカちゃんはナチュラルの隣に降り立ち、俺に乗っていたイデアとかめちょんもナチュラルの隣へと駆け寄る。


「いいですよ先輩!」


 ナチュラルは燃え盛る火の輪を角で掲げながら俺の方を向く。


 その光景になんだか闘技大会でのことを思い出す。

 あの時戦った二人は今や旅をする仲間になりあの時幼かったイデアも少し大きくなった。

 かめちょんは気分によって色が変わって相変わらずカラフルだけど前よりも明るい色が増えた気がする。


「成功しましたら拍手をお願い致します!!」


 馬の掛け声と共に俺は駆け出す。

 スタミナゲージをフルに使って駆け出した勢いをそのままに飛び上がる。

 俺の体はしなやかな風になり火の輪を潜り抜けていく。


 会場が歓声に包まれる。




 先程までの小馬鹿にした笑いでなく驚きと称賛の声だ。


 なんだか不思議だ、イデアと会ってからこんな声ばかり聞く気がする。


 昔はこんな声聞いたことなくて職場でも静かに仕事して、ゲームでも静かに一匹狼だったのに。




 なんだか不思議な気分だった。




 ちょっと感傷に浸って忘れそうになってたが今の俺はピエロだ、最後まで役に徹さねば。


 火の輪を潜り着地を成功させた俺はその場であわてふためくふりをする。

 俺の来ていたピエロの服が燃えているのだ。

 勿論これは演出でこの服は炎の熱によるダメージを無効にするレアアイテム「炎の羽衣」を加工したものなのだ。

 そのまま慌てて用意された水桶に飛び込むふりをする。

 俺の服の炎が消えると会場は笑いに包まれる。


「アクシデントはありましたが猛犬フレディの火の輪潜りは見事成功です!! 皆さま拍手をお願い致します!!」


 観客の拍手に送られて俺達は控え室に向かう。

 ただ少しだけ気分がいいので俺はアドリブを入れることにした。


「……ナチュラル、ちょっといいか?」

「……どうしたのジロウ?」


「前タカちゃんを捕まえたあれをやろうぜ!」


「……わかったわ!」


 ナチュラルも俺の意図を組んでくれて頭を下げてくれる。

 俺はそれに乗っかる。


「いきますよ先輩!」

「おう!」


 彼女の角に乗せられて俺の体は宙を舞う!


「いけー! ジロウ!!」


 イデアの声援を受けながら!




~~~※※※~~~




「いやー君達のお陰で今回のショーはとても盛り上がったよ!! ありがとうみんな!!」


 バンダのリンリンが俺達をまとめて抱き締めてくる。

 最初に抱きつかれた時と違って加減がしてあるのかダメージはないがやっぱり苦しい。


「楽しかったよパンダさん!!」


 イデアもなんだかご機嫌だ。

 リンリンからの包容を五分ほど受けて解放された俺達はテントを出ようとする。


「それじゃあ私達は長のところにいきますね!お世話になりました!」


 かめちょんが笑いながら言うとリンリンは笑いながら返してくれる。


「大丈夫だよ! わざわざいかなくても!」




「……へ?」




「すぐに会えるわよ!」


 俺達がテントの出口の扉を開けると門番をしていたアナウサギ達がたっていた。


「……な、またあんたたち!?」


 ナチュラルが身構える。


「まぁまぁ落ち着けよ、角の悪魔。」


 門番達の後ろには森の番人、パラケラトリウムのパパが現れる。


「……バレちゃってたんですか?」


 かめちょんの焦りが伝わってくる。

 まぁあんだけ派手にショーをしたら変装してもバレるよな。




「……合格だよ!」




 パパの下からのそのそと何かが近付いてくる。

 大きな甲羅とゆっくりした移動、やつの正体はリクガメだ。


 俺達の前に現れたリクガメ、ガラパゴスゾウガメは一見小さく見える。

 しかしそれは後ろにたつパパが大きいのであって亀の中では最大級の大きさでイデアよりも大きいのだ。




「今回の試練は合格だ! 君達!」




 呆気にとられた俺達にリクガメは野太い声で語りかける。


「今回の試練、私は争い事が嫌いだから人助けにしようと思っていたのだよ。 君達は自分達の目的を後回しにしてそこのリンリンを手伝ってくれた。 これで十分だ」


 亀の見た目に反して早口な彼はそう述べた。


「え、じゃあ最初からリンリンさんも知ってたんですか?」

「あぁ、長に頼まれてね!」


 かめちょんの問いに穏やかな笑顔で答えるリンリン。


「おっと、自己紹介が遅れたね。 私はゴルフ・ガラパゴルド、そうだね、君達の呼びやすいようにガラパとでも呼んでくれ!」

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