14.サーカスがやって来る(2)

「さぁもういいわよみんな!」


 リンリンはカーテンを開けて俺達に話しかける。


「無事にグリーンホスピタルの内部に着いたわ!」


 俺達の乗っていた荷車は街の中心部の広場に来ていた。

 辺りを見渡すと門からここまでの道とこの広場以外は様々な木々が生えておりとても緑豊かだ。

 静かな森だからか小川のせせらぎが聞こえてくる。


「ふぅ、一時はどうなることかと思いましたよ!」


 俺の上のかめちょんが安堵する。

 門を潜る際には緊張したが何事もなく通り抜けれた。


「助かったわパンダさん」

「なぁに気にすることないわ!!」


 笑顔で答えてくれるリンリン、親切な人がいてよかった。


「ならおさのところに行きましょうか皆さん!」


 かめちょんが指揮をとろうとするとイデアが俺の毛をつかむ。

 言いたいことはもうわかってる。


「かめちょん、先にやるべきことがあるぞ。」

「……またこの流れなのジロウ?」

「……まぁイデアちゃんがそうしたいなら仕方ないですね。」

「うん! サーカスみる!!」


 イデアの言葉を聞いてリンリンは笑顔を見せる。

 待ってましたと言わんばかりだ。




「なんだったらみんな、一緒に参加してくれないかい?」




~~~※※※~~~




「さてさてようこそ集まりいただきましたグリーンホスピタルの皆さま!」


 俺達の荷車を引いていた馬の声がマイク越しに聞こえる。


「我らサーカスコミュニティ、サイレントパーティーのショーを開催いたします!」


 このコミュニティ、サイレントパーティーのメンバーは現実世界ではサーカスと関係のない仕事をしているらしい。

 なんの経験もない彼らもゲームの中の別の姿なら様々なことが出来る。

 それをショーとして発表し世界を旅する不思議なコミュニティだ。


 テントの舞台裏からチラリと覗くとグリーンホスピタルにすむ多くの動物達が集まっていた。

 ナチュラルと違って無駄に角の大きくない鹿やシマウマ、オカピ、キリンなどの動物の他にもリスやネズミなどの小動物も沢山だ。

 コアラやナマケモノなど激しい戦闘が行われる外部では滅多に見ない動物が沢山いるのだ。


 ここにいる多くのものが騒がしい現実から離れ闘争なく静かに暮らすことを望んでいる。

 静かに会話を楽しむのも、アイテムの作成にいそしむもの、仲間と遊び楽しむもの、様々な暮らしがあるらしい。


 ここでは外界の闘争と無縁の生活を送れるが外界との交流がないわけではない。

 貴重な物資を持ってくる行商人もいるし、前の街にいたようなアーティストもやってくる。

 街に危害を加えない信頼があればこの街には簡単に入れるのだ。

 サイレントパーティーも街に自由に出入り出来る名の知れたコミュニティなのである。


「舞台に立つと思うと緊張しますね!」


 発言の割にかめちょんは余裕がある。

 今回のショーのために小動物用のフリフリのドレスを着ている。


「わ、私は舞台にでていいのかしら……」


 ナチュラルも大型動物用のドレスを着飾っている。

 大きな体も相まって中世の貴族のように豪華な立ち振る舞いだ。


「いいなーおねーちゃんたち!」


 イデアはいつも通りフード姿だ。

 これは仕方がない。

 ただ顔には猫のお面がしてある。

 動物だけのゲームでなんの需要があってそんなアイテムがあるのだろうか?


「旦那! 見てくれよハデハデだぜ!」


 タカちゃんは羽根つきの帽子と鳥用のスーツを着て勇ましくなっている。

 中身が女子高生だということを知ってなければ素直に格好いいと言ったろう。


「それにしても……、ジロウさん……、似合ってますよ……、ぷぷ!」


 かめちょんは笑いを堪えきれず吹き出す。


「ちょっとチビトカゲ、確かに面白いけど先輩に失礼よ!」


 お前も十分失礼だぞ、松下。

 皆が綺麗に着飾るなかで俺は道化師の格好をしていた。

 狼の姿でだ。

 目の回りはリンリンと同じようにペイントされ、ブカブカの服を着せられている。

 俺はピエロ役のようだ。


 確かに小さい頃、道化師という言葉の響きには憧れたが実際にやりたいとは思ったことはない。

 まさかこんなことになるとは……このゲームは奥が深い。


「可愛いよジロウ!」


 隣でイデアが笑いかけてくる。

 色々思うところはあるがとりあえずイデアに笑い返してみせた。

 サイレントパーティーのショーは中々に盛り上がっていた。

 パンダのリンリンの玉乗り、オットセイのジャグリングやテナガザルの空中ブランコなど様々な芸が披露された。

 これはゲームなのだから簡単そうに見えるが実はそうではない。

 近年開発が進んだVRデバイスは脳から出る微弱な電磁波を読み取って起動しておりボタン入力という概念がない。

 プレイするゲームの上手さはその人の動体視力などのいわゆる運動神経に比例する。

 勿論最初は上手くなかった人もプレイを続けることで上手くなり神経の伝達速度が向上するってデータをテレビかなんかでみた。

 とにかく彼らのような芸が出来るようになるにはそこそこの練習が必要だ。

 それにプレイキャラに出来る動物は数えきれないほどいるのだから全キャラの操作方法を把握するのはまず無理だろう。

 それ故にこのゲームではこうしたショーが好奇の目で見られるのだ。


「続きましてスペシャルゲストのご紹介です!」




 そうこう言ってる間に俺達の番が来てしまったようだ。

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