13.「愛」の街 グリーン・ホスピタル(2)


「みんなが一緒じゃなきゃやだ!!」


 俺達は結局門を通れず門から離れて壁の外で立ち往生していた。


「私はジロウと一緒に外で待っててもいいけど……」


「イデアちゃんが一緒にいきたいっていってるんだからみんなでいくんです!!」


「それじゃあ〈たからもの〉が手に入らないじゃない変色女!!」


「うるさい角女!ジロウさんと二人きりになろうたってそうはいきませんよ!!」




「なんなんだお前ら……」

「旦那はモテモテだな! 一石二鳥ってか、鳥だけに!」


 争う二人をよそにタカちゃんはにやにやと楽しそうだ。


「もー喧嘩は駄目よ!」


 再びイデアが仲裁に入るまで彼女達の罵倒は続いた。




「こうなったらジロウさん!! 私の奥の手を使います!!」


 かめちょんは妙に張り切って話す。


「なんだよ奥の手って?」


「ふっふっふ、イデアちゃんを守るために私に隠された秘密のスキルです!」


 そういえば前の試練でもなんか言ってたな。


「まずジロウさんイデアちゃんと私を乗せたままそこの角女に乗ってください」


「な、何よ急に恥ずかしいじゃない!!」


 驚き顔を赤くするナチュラルにかめちょんは対し強い口調で続ける。


「うるさいわよ発情鹿! 早くジロウさんが乗りやすいようにしゃがみなさい! タカちゃんさんは適当に角にでも乗ってください!」


「なんですってチビトカゲ!」


「今日の二人はおっかないなぁジロウの旦那!」


「……そうだな」


 とにかく俺達はかめちょんの指示通りナチュラルの背にのりまるでブレーメンの音楽隊のように積み上げられた。


「いいですね皆さん! これから私のスキルを発動します!!」


 そういってかめちょんは声をあげる。


「スキル発動!! 平凡な見せかけ(ミラージュアワー)!!」


 彼女が恥ずかしげもなくそう叫ぶと変化が現れる。


 俺の下にいたナチュラルの姿が消えたのだ!




「すごーい! 浮いてる!」


「すげえや! かめちょんの姉御!」


「なんなの? 何が起きたの?」




「……どうなってるんだかめちょん?」


 視界には俺達の姿はないのに自慢げなカメレオンの声が聞こえてくる。


「ふふっ、これは私だけに特別に許された透明化のスキルです」


「さっきからスキルとか言ってるけど動物の本来持ってる能力以外このゲームにないだろ?」


「これはこのゲームの開発段階でボツになった特殊能力技能のデータを流用して私だけに備えられた能力なので知らないのは当然ですよジロウさん!!」


 相変わらずこのゲームは身内贔屓なゲームのようだ。


「とにかくこの能力を発動している間は私に触れている動物、そしてその動物に触れている動物は他の動物から視認されません!」


 俺の好きな自然界は本当にどこに行ったんだ!


「ただ見えなくなっているだけなのでものにも動物にもぶつかりますし対象外の動物にぶつかると透明化は解除されてしまいます」


「でもぶつからなければ時間制限もありませんしこれで門番に気付かれずに街に入れるはずです!!」


 かくして俺達はナチュラルの背に乗ったまま門へ向かうのであった。




~~~※※※~~~




「お、一匹通りましたね! 門が開いてる今がチャンスです!」


「言われなくてもわかってるわよ!」


 俺達は門番の隙をつき侵入を試みる。

 さっきのミーアキャットは俺達に気付いていない。

 なんだかズルい気がするがこれならいけそうだ。




「おい、チャーリーなにか物音がするぞ!!」




 俺達が門の前に差し掛かると先程のミーアキャットと別の声が聞こえてくる。


「姿は見えないが私の聴力が何かを感じ取った!」


 門の裏手から新手が現れる。

 大きな耳をピンと建てたアナウサギだ。




「本当かロメオ! そこに誰かいるのか!」



 さすがはこのゲームで一番安全な街、セキュリティもざるではないようだ。

 俺達の居場所にロメオと言われたウサギが突っ込んでくる。




「ど、どうしましょうジロウさん!!」




 こうゆうときのかめちょんは頼りない。

 さっきまでの威勢はどうしたのやら。


「……仕方ない、ナチュラル一旦退くぞ!」


「わかったわジロウ!」


「イデアしっかり捕まってろ!」


「うん! ジロウ!」



 俺はナチュラルから飛び降りて門の外にでる。

 ナチュラルもウサギの突進をかわし、タカちゃんも飛び上がる。


「……困りますよ、不法侵入は」


 みんなが離れかめちょんの能力が解除されてしまいミーアキャットとアナウサギは俺達を視認する。


「こうなったら正面突破よジロウ! こいつらぶっ飛ばして入りましょう!!」


 ナチュラルも彼らと距離をとりながらも角を構える。




 しかし駄目だ、ここで戦うのはよくない。

 最も安全な街であるこの街に戦いを仕掛けるのは最も愚策なんだ。




「また不法侵入か? この前を追い返したばかりなのに……」




 地面に地響きが走る。


 門の内側からそれはやって来る。




「おやおや、大物登場みたいですぜジロウの旦那!」




 段々と近付いてくるそれは大きな首を俺達に向けている。




「……な、なによこいつ!?」




 体長約九メートル肩高約五メートル、大きな角をもつナチュラルの倍以上はある。

 途中であった三獣士のオオアナコンダも全身を伸ばせば八メートルあるがこいつは見たまんまでかい。




「じ、実物でみると迫力が違いますね」

「すーごいおっきい!!」




 この街が安全なのは街を守る番人達がいるからだ。


「……一匹狼と角の悪魔か、お互い有名人は辛いよなぁ」


 かつて存在した陸上最大のほ乳類。

 サイの仲間にあたるやつの名は幻獣種、旧名をインドリコテリウム。


 扱いの難しいその巨体を使いこなし全てを凪ぎ払うこのゲーム内最強のプレーヤー、彼のニックネームは「パパ」。




「……俺は出来れば会いたくなかったぜ」




 またの名を「森の番人」。

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