13.「愛」の街 グリーン・ホスピタル(1)
「兄貴、いいんですか?」
コビトカイマンのハングリーの隣でコモドオオトカゲが問いかける。
彼の名はチルド、ハングリー率いるスケイルチームズにおいて副リーダー的なポジションにいる。
「仕方ないだろうチルド、一匹狼に角の悪魔、おまけに三獣士まで現れちゃかないっこねぇんだ」
老虎とその部下三獣士から命からがら逃げ出したスケイルチームズの面々は〈パンプキンジャングル〉を離れ森の端で今後の作戦を練っていた。
「でもですぜ兄貴、奴らずっと一緒にいる訳じゃないですしセーブのためにどっかで休むはずですぜ」
コモドオオトカケのチルドはリーダーのハングリーにいつもの作戦を提案する。
「ログアウト中は襲えなくても起動直後の隙を襲えば楽勝! これが俺達のやり方じゃないんすか?」
ゲームシステムの裏をかく少しずる賢いやり方が彼の好みの作戦だ。
「……確かにそれが俺達のやり方だが今回は話が違うんだチルド」
ハングリーは目を細めていう。
「今回の依頼は奴らを倒せばいいってもんじゃないんだ」
「どうゆうことなんですか兄貴?」
「……お前は気にしなくてもいいんだよ。 とにかく前金もたっぷり貰ってるしおいしい仕事なんだ」
それだけいってハングリーは身震いをする。
「今回の雇い主は三獣士よりもよっぽど恐ろしい連中だ、余計な真似をすれば俺達が潰されちまう」
「……だ、誰なんですそいつは?」
「やつらはなぁ……」
~~~※※※~~~
「つきましたねジロウさん! 三つ目の都市『グリーンホスピタル』!」
俺達の前には端の見えない巨大な城壁がありその中央に巨大な門がある。
「……言われなくてもわかってるわよカメレオン」
俺の頭の上に強い視線を送るものがいる。
後輩である松下のこの世界での姿、オオツノジカのナチュラルだ。
「……別にあなたには言ってませんけど!」
俺の頭の上に常に乗っているかめちょんも彼女を睨みかえす。
なんだかよくわからないが今二人は仲が悪い。
昨日俺達「ウルフライダーズ」のオフ会を経てから妙にいがみ合っているのだ。
かめちょんの念願であったイデアを除く俺達大人全員での飲み会は無事楽しく行われた。
俺個人は普通に楽しい飲み会だったと思うのだがどうにも二人は出会った瞬間から敵対の意を示していた気がする。
「くく、修羅場ですなジロウの旦那! 雌鳥歌えば家は滅ぶっていいますし旦那が仕切るべきですぜ!」
なんだかよくわからないことわざを使うところからして今日のタカちゃんは妹の方だろう。
「喧嘩はダメよ二人とも!」
犬のフードを揺らしながら二人の仲裁にイデアが入る。
この中で一番幼いはずのイデアが一番しっかりしているのだ。
俺はため息をつきながら巨大な門を見つめる。
グリーンホスピタル、このゲームで最大の人口を誇る都市。
恐らくここでの試練が最も困難なものになる。
「むむ? 入国希望者か?」
門の前に隊列を組んで見張りをする動物がいる。
ミーアキャットだ。
その中の一匹が俺達に気付き声をかけてくる。
「私達長に会いに来たんです! 〈たからもの〉の件と言えば連絡があったはずです!」
かめちょんが直立する兵士に言葉を返す。
「うむ、長より連絡は受けている。 そちらの子犬がそうなのだな?」
向こうもどうやら俺達の素性を知っているらしい。
それは話が早くて助かる。
「ではそこの子犬、それと無害そうなそこのカメレオンのみ入国を許可する」
ミーヤキャットは俺達にはっきりとそう伝える。
「待ってください! 残りの三人も私達の仲間です! 全員通してくれないんですか!?」
かめちょんが抗議の声をあげるがミーアキャットは険しい顔つきで応える。
「……貴様ここがどこだか知らない訳ではあるまい?」
……まぁ正直こうなることはわかっていた。
「ここグリーンホスピタルではプレーヤー間での戦闘絶対禁止、草食獣限定の王国なのだぞ!!」
このゲームには数多くのコミュニティがある。
それらは様々な動物達が参加して作り出すものだが時として解散することもある。
その主な原因がメンバーの全滅だ。
弱肉強食のこのゲームでプレーヤーが死亡してしまうことは日常のように起こることなのだ。
だが一度倒れてしまうと全てのアイテムを失って倒れた場所とは別の場所にランダムにリスポーンする。
それ故にコミュニティの拠点から遠く離れたところに現れたりしてしまい、元居た場所に戻るのに多くの労力が要求される。
勿論硬い結束で何度やられようと元のメンバーと合流するコミュニティもあるがそうでない場合はその場でコミュニティを脱退し新しい生活を始めることになる。
文字通り生まれ変わるって訳だ。
ここグリーンホスピタルではその心配がない。
このゲーム最大の人口を保つこの街の秘密は徹底した戦闘排除にある。
現実社会ではそうそう出来ない命のやり取りが出来るこの世界においてプレーヤーを襲うプレーヤーも数多く存在する。
勿論俺もそうだしナチュラルなんか特にだ。
そんな戦闘面を楽しむ人以外に社会の喧騒から離れ動物として静な生活を望む人達もいる。
彼らが集まり静かな生活を守るために作った王国こそこのグリーンホスピタルだ。
パワーオブメタルズが強い街、スカイフロントウェアが賑やかな街ならばここは安全な街なのだ。
しかしその安全さを守るためにこの街には厳しい規則がある。
最も有名なものとして肉食動物など街の住民に危害を加える恐れのある動物の排除だ。
要するに名のあるハンターである俺とナチュラル、ついでにタカちゃんはまず正攻法ではこの国に入れないのである。
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