12.三獣士(2)


 その獣は青い眼光をこちらに向けて静かに歩いてくる。


「あ、あれは!?」

「まっ、まさか!?」

「何故奴らがこんなところに!?」


 俺達を取り囲む集団はざわつき、俺達に近付く奴らに道を開ける。


「……あ、あなたは!?」

「白いおじさまだ!」


 かめちょんとイデアの視線の先に現れたのは白い虎、ホワイトタイガーの老虎ろうこだった。


「お前達ののことは知っている、邪魔だから失せなさい!」


 老虎の右隣で叫ぶのは大きな二つの牙を持つ獣、かつて地上を駆け巡った絶対的捕食者、幻獣種スミロドン、通称サーベルタイガー。


「それでも残るというのなら、私達が遊んであげよう!」


 老虎の左隣で叫ぶのは全長八メートル、その巨体で全てを飲み込む爬虫類の王、オオアナコンダ。


「最初にボスのおやつになりたいのはどこのどいつだい!?」


 老虎の前に現れて叫ぶのは小さな体ながらもライオン等の天敵と互角に渡り合う世界で最も勇敢な動物、ラーテル。


 老虎と彼を囲う三匹の獣の言動には他のプレーヤー達にない圧倒的な力強さを感じる。

 



「や、やべぇ、パワーオブメタルズの三獣士だ!!」


「奴らは一匹でコミュニティを二つ三つ潰してきたんだぞ!?」


「それにリーダーの老虎まで一緒だと!?」


「こんなの敵いっこない!!」


「に、逃げろ!!」


「ウ、ウホー!!」






 俺達を囲っていた動物達は散り散りに去っていく。

 突然現れた強者達を前に連携も何もあったものではないのだ。


「邪魔したねジロウ。 お嬢さん達もお元気そうで何より」


 老虎は俺達に向かってにっこりと微笑みかけてくる。


「いえ、面倒事が減って助かりました」


「そうです! かっこよかったです!」


「うん! すごかった!」


「……あんな奴ら私一人で十分だったけど感謝しとくわ」


「いやー、三獣士の皆さんに会えるとは感激だぜ!」




 俺達が口々に感想を伝えると老虎の前にいるラーテルが口を開く。


「全く騒がしい連中だ! 俺達は偶然ここを通っただけなんだ、勘違いすんなよ!」


 ふんっと言ってそっぽを向く彼からナチュラルに近いものを感じる。


「おいテルー、リーダーの友人に対してそれは失礼でしょう!」


 ラーテルを叱りつけるのはサーベルタイガー、見た目の割に綺麗な女性の声だ。


「そうだぞテルー、お前は落ち着きを持ちなさい。 それだから主が手を焼くのだ」


 サーベルタイガーに加担するのは隣の大きな蛇。

 チロチロと舌をのぞかせ辺りを警戒しているのが伺える。


「すまんなジロウ、こいつはこうゆうやつなのだ。 勘弁してやってくれ」


 老虎も苦笑いしながら話す。


「まぁうちにもうるさいのは一杯いるんで気にしてないですよ」


「ジロウさん誰のことですか!?」

「あたしじゃないですよね先輩!?」


 うるさい二人はほっておいて俺は老虎と話を続ける。




「老虎さんこんなところに来てどうしたんですか?」


「なぁに、ハロウィンのサバイバルマッチついでに勧誘に行こうと思ってね」


 ……まさかまた俺を?


「はは、違うぞジロウ? 君が今お嬢さん達の相手で忙しいのは私も承知している。 君を誘うのはまた今度だ」


 老虎は穏やかに笑いながら話を続ける。


「今私がスカウトしたい人が二人いてね、彼らを訪ねているのだ」


 老虎がパワーオブメタルズを率いるリーダーとして優れているのは、勿論戦闘面もだがそれよりもスカウトマンとしての才能があることだ。

 この多くの獣が軒を連ねるゲーム内で最強を維持しているのは常にその人の適正を見極める采配と強い仲間を引き込む説得力にあるのだ。


「今欲しいのは〈森の番人〉と〈冥府の悪魔〉だ。 君達も都市巡りをしているのだから会うかもしれないね」


 それだけ言うと老虎は三獣士に合図をだし移動を始める。


「私達はもういくよジロウ。 いずれまた会うだろう」


「あばようるせえ奴ら!」

「こら、テルー」

「……一回締め上げないとわかりませんかね」


 ……なんだかんだ彼らも賑やかなメンバーだ。


 嵐のように現れて静かに去り行く白い虎は最後にまた一言言い残していった。


「空には気を付けなさい。 君達の進む先に幸福のあらんことを」


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