10.オフ会(2)
松下とオフ会が決まった数日後、無事にイデアは目を覚ました。
前よりも少し背が伸びて小学生の上級生くらいになったろうか。
初めて会った時の倍位になったかな。
長く伸びたら金髪に青い瞳、白い素肌も相まって本当に妖精のようだ。
「……ジロウ、おはよう!」
俺達の心配を他所に何事もなかったかのように彼女は起き上がった。
起き上がってすぐに俺に抱き付いてくる。
段々と元の姿に近付いているとわかってはいるが不思議なことに俺は彼女が成長しているように感じる。
そんなことを思いながら俺は少し寂しくなる。
「……心配しましたよイデア様!!」
泣きながらかめちょんはイデアの肩に乗る。
呆気にとられるイデアだったが俺がイデアが倒れてから数日ほど寝ていたことを伝えるとイデアはこう答える。
「ごめんねお姉ちゃん、心配かけて」
「……え」
「……イデアお前?」
イデアはかめちょんのことをお姉ちゃんとして認識したのだ。
これにかめちょんは驚きより一層涙を流す。
「……私のことがわかるのイデアちゃん?」
「……なんとなくね、そうやって呼んでた気がするの」
ワイルド・シミュレータでは皆、動物の姿をしている。
プログラムとして生きるイデアもその姿形を捉えて認識するとかめちょんは言っていた。
その上このゲームはボイスチャットで会話をする訳だが自動翻訳システムの都合上多少音声が変調される。
全く別の声になるという訳ではないが現実世界の声と少し似てるような似ていないような微妙な調整がされる。
ボイスチェンジャーなしでもある程度匿名性があるって訳だ。
それゆえにイデアがかめちょんについて得られる外見的情報から本人を特定することはないはずなのに彼女はそれを行った。
これも不安定なイデアのプログラムが影響しているのだろうか?
とにかく彼女の肩で泣く黄色いカメレオンをイデアは撫でていた。
これじゃあどっちがお姉ちゃんかわからないな。
「改めてみると本当に姉妹のようね。 最初はよくわからない子犬に見えてたけど本当に女の子なのね」
俺の後ろからナチュラルが語りかけてくる。
彼女とは改めて俺達とコミュニティ登録を行ったからイデア被る変装用フードの効果対象外になって真の姿、少女としてのイデアが見えるようになっていた。
ついでにタカちゃんもだ。
俺はついこの間までの俺は得体の電脳少女と得体の知れないカメレオンが姉妹だなんて想像も出来なかった。
正確には想像するほど興味が湧かなかった。
そこで俺はふと疑問に思った。
松下にも兄弟はいるのだろうか?
因みに俺には二つ年下の弟がいるんだがそれは置いておこう。
前に上新井の話を聞いて知らなかったことが山のようにあったのだ。
上新井とは一ヶ月程度一緒に過ごしたがその上で知らないことが一杯だったのだ。
松下が俺達の営業所に来て半年経つが上新井以上に松下のことを知らない。
話を聞いてみるのも面白いかもしれない、そう思った矢先に松下から誘いを受けたのだ。
~~~※※※~~~
「ここが例の会場か」
その週の金曜日、俺と松下は早めに仕事を切り上げタカちゃんが指定したお店に来ていた。
かめちょんに松下と飲んでくると言うとぶーぶー文句を言われたがいきなりみんな集まって正体を明かすのは気まずいと説明してなんとか逃れた。
ゲーム内でもイデアに今日は会えないかもしれないと伝えると渋々了承してくれた。
出来れば少しでもイデアと一緒にいてやりたいが現実の全てを放棄するわけにはいかない。
社会人は大変だ。
イデアのことは一度かめちょんに任せた。
俺が話した後、当然ナチュラルも来れないと話すのだが彼女は奇遇ねと話すだけで目の前にいるのが明日同席する男だとは気付いていないようだ。
その後タカちゃんも空気を読んでか二人で過ごすといいと言ってログアウトした。
まぁたまにはこうゆうのもいいだろう。
俺達がついた店はお洒落な洋風居酒屋「バードフェイス」、駅前にある割に知名度は低く閉店時間が早いのに密かな人気がある隠れスポットである。
個人経営の店でなんでも店長がヨーロッパで料理の修行をしてきているらしい。その分味は確かなのだと。
「……二人きりで話すなんて初めてですね」
店の前に来て初めて緊張を示す松下。
誘ってきたのはお前の方だろうに、不思議なやつだ。
「……とりあえず入ってみようぜ」
俺はちゃんと先輩らしく松下を引き連れて店内へ向かった。
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