9.〈たからもの〉の正体(2)

 笑うひよこは俺達を一瞥し再び話し出す。


「正しくはイデアお嬢さんの眠っている記憶を抽出し映像化する装置と言うべきかな」


「記憶を映像化……」


 俺達は実際にそれを目撃した。

 その事に関しては疑問はない。


「……前から思っていたのだけどなんでわざわざ四大都市をめぐって集めるようなまどろっこしい真似をするの? 最初から彼女に全部あげればいいじゃない?」


 途中で口を挟むのはナチュラル、彼女はイデアの事について断片的な情報しかしらない。

 イデアが事故にあって脳を直接ゲームに繋いでいる経緯を知らないのだ。


 だとしても俺もそれについては疑問を抱いていた。

 記憶を呼び戻せるのなら最初から呼び戻さばいいのに何故こんな真似をするんだろう。


「それはエゴだよナチュラルさん」


 チキンジョッキーは答える。


「社長さんの希望なんだ」


「なんなのよさっきから社長って? お嬢さんだかなんだか知らないけどこんな訳のわからないイベントに私とジロウを巻き込まないでくれる?」


 ナチュラルの主張は最もだ、俺も最初はそう思った。


 その言葉を聞いて横から声がする。




「……社長って誰?」


 イデアの声だ。

 彼女はまだ不完全な記憶しかない。

 前の〈たからもの〉で大人びたとは思っていた

 けどまだ彼女は自分自身のことも親のことも思い出してないのだ。


「……お、お嬢様」


 俺の上のかめちょんは明らかに動揺をみせる。

 やはりまだイデアの前でイデアの話をするべきではないのだ。


「そうですねイデアお嬢さん、先程あげた〈たからもの〉を開ければわかるかも知れないね」


 そういってチキンジョッキーは歩き始める。


「私知りたい!」


 イデアは無邪気に答える。


「ジロウ! 〈たからもの〉頂戴!」


 彼女は無邪気さの中に少し怯えた様子を見せる。

 前回の〈たからもの〉のことは少なからず覚えているようだ。

 それでも彼女は〈たからもの〉を求める。

 自分の知らない自分を知るために……。


「イデア……」


 彼女は震えながらも俺にすり寄ってくる。


「僕は席を外しましょう。 皆さんで見てください」


 気付いたらチキンジョッキーは部屋の入口の扉にいた。

 俺達が通った大きな扉のすみにひよこ用の小さな扉があるのだ。


「ここなら他の人に見られる心配はありません。 見終わった頃合いをみて僕は戻ってきますよ」


 ひよこ用の小さな扉が開くと小さなひよこを通してパタンと閉まる。

 部屋には俺達だけが残された。




「……どうするのよジロウ?」

「ここでいいのかかめちょん?」

「……正直私にはわかりかねます」


 かめちょんの声に自信はない。

 いつものうっとおしさは感じないのだ。


「まぁここまで来たからには見るしかないんじゃないか? ジロウの旦那」


 前回居なかったのにタカちゃんはしれっと同席している。

 こいつもどこまで知っているのだろうか?

 とにかく俺の毛を掴むイデアのためにも渡すべき……、なのかな……。


「……なら渡すぞイデア」


 俺はアイテム欄から〈たからもの〉を取り出す。

 俺の前に宝箱が現れる。

 イデアは恐る恐るそれに近付く。


 彼女がそれに触れたとき以前と同じ様な光がこの部屋を包む。


「……お父さん」


 イデアがそう呟いたのを俺は確かに聞いた。


 彼女が手にしていたのは白い画用紙、中に絵が描かれている。


 幼い少女が描いたあどけない絵が見える。


 しかしそれでいて人物像だということがはっきりわかる綺麗な絵だ。


 綺麗な絵なのだが大きな違和感がある。


 その人物像は顔がないのだ。


 綺麗な絵の割にのっぺらぼうなのだ。


 俺がそれに気付いた時、以前のように意識が暗転する。




~~~※※※~~~




 俺達の意識が意識を取り戻すとそこは落ち着いたお屋敷の室内だった。

 マホガニー製の机や椅子、それも見ただけでわかるような高価な家具が配置されている。

 壁の端には大きな窓があり程よい木漏れ日が差し込んでくる。

 木漏れ先にある机と椅子には不釣り合いな二人の小さな女の子が座り込んでくる。

 一人は誰かはすぐにわかる。

 綺麗な金髪、妖精のような白い肌、きっと生きていた時のイデアだ。


「イデアちゃん、何を書いているの?」


 イデアの側でもう一人の少女が問いかける

 黒髪で中性的な顔付きの少女。

 ……そう、幼いながらもハーフのような整った顔立ち。


 何故か彼女もどこか見覚えがある。


 いや、俺はもう一ヶ月以上一緒にいるだ。


 すぐにわかる。


 イデアの傍にいたのは上新井だった。

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