〈たからもの〉 顔のない似顔絵
9.〈たからもの〉の正体(1)
俺達はチキンジョッキーの試練を終え彼のプライベートルームに来ていた。
前の街で立ち寄った老虎の部屋も和風で印象的だった
しかし彼の部屋は別の意味で印象的だ。
自然界とかけ離れた電子機器のようなアイテムで溢れ天空の未来都市を彷彿とさせるものだった。
「いやいや君達のおかけで中々いい動画が作れたよ! 急上昇ランキングも早速一桁だ!」
チキンジョッキーは自身の目的を果たしご機嫌なようだ。
「百五十羽用意した影武者が一時間以内に全員見つかってしまうとはお見逸れしたよ!」
俺がイデアを乗せてた時点で見付けていた数は五十九羽、かかった時間は四十分程度と言った所か。
曖昧な記憶だがそのくらいだった気がする。
「まさか最後に空高くを飛んでいた僕達を叩き落としてくるとは思わなかったよ! とても息のあった連携だったね!」
俺はそれを聞いて苦笑いをしナチュラルは顔を伏せる。
「お空飛べて楽しかった!!」
イデアはご満悦である。
「いやー本当に凄かったですよジロウさん! 落下ダメージが入るかヒヤヒヤしましたよ」
かめちょんは皮肉たっぷりに笑いかけてくる。
俺も反省してるんだ、あんまりぶり返さないでくれ。
「角の姉ちゃんを発射台にして飛び掛かってくるとは流石ジロウの旦那だぜ!」
しれっと俺達についてきているタカちゃん、闘技大会の時みたく戦闘不能にさせておけば良かったな。
「影武者のみんなは後半高速で振り回されて絶叫マシンに乗っているようだったと言っていたよ、今度僕も乗せてほしいな! いい動画が撮れそうだ!」
ナチュラルは俯いているが顔を真っ赤にしている。あいつもはしゃぎすぎたのだ。
「もうそのくらいにしてくれ……」
俺の心の声が思わず漏れる。
「そうだね、そろそろ本題に入ろう」
チキンジョッキーは俺の意図を察し話始める。
「僕もそちらのイデアお嬢さんの件について社長さんからお話は聞いているよ」
目の前にいるのは小さなひよこのはずなのに老虎に勝るとも劣らない圧力を感じる。
「今回渡した〈たからもの〉についてもね!」
笑顔で語りかけてくるひよこ。
「〈たからもの〉は渡して用事は済んだ筈なのにここに来てもらったのは僕の独断だ」
今部屋の中には俺達以外の動物はいない。
「……君達、特にジロウ君かな? 僕に聞きたいことがあるんだろう?」
そういって俺を見つめてくるチキンジョッキー。
「……えーと、その話をするなら私とジロウさんだけの方がいいかと」
俺達の間に割ってはいるのは俺の上に乗るカメレオン。
「……企業秘密だったっけ? かめちょんさん?」
チキンジョッキーは余裕の笑みで答える。
俺達よりもイデアに関する状況を理解しているようだ。
「それに関してなら気にしなくてもいいと思うよ! 駄目なら直接遮られるはずだしね!」
「……どうゆうことですか?」
「そうだね、神様には嘘はつけないってところかな?」
かめちょんの質問に彼は笑顔で答えるた。
……彼はどこまで知っているのだろうか?
「君達の様子をみるに虎のお兄さんはあんまり話してくれなかったようだね」
余裕綽々と言った態度で話す彼は楽しそうだった。
「とにかく僕の動画作りを盛り上げてくれた君達にはRPGのボスらしくプレゼントをあげようと思ってね!」
彼の言葉に悪意はない。
毎日動画作りに追われ忙しくしているはずの彼はわざわざ時間をとって俺達をここに呼んだ。
明らかに老虎と対応が違う。
何かを知った上で俺達に情報を小出しにしてくる。
悪意はないんだろうけど……、すっきりしない。
「勿論それは参加してくれた君達全員に与えられるべきだ」
チキンジョッキーは俺達全員を見ていう。
俺とイデアとかめちょん、ナチュラルとタカちゃんも含めてだ。
……あれ? 何でタカちゃんもいるんだ?
「旅は道連れ世は情け、と日本では言うんだろう?」
イギリス人の彼の言葉をどう翻訳したらこんな言葉が出るんだろうか?
「とにかく少しだけ質問に答えてあげるよ!」
チキンジョッキーは強引に話を進める。
「……あなたはどこまで知っているんですか?」
珍しく真剣な面持ちで訊ねるかめちょん。
「……ある程度、さ。」
帰ってきたのは軽い返事だった。
もっと具体的に聞けってことなんだろうな。
「……〈たからもの〉ってなんなんだ?」
俺はかねてからの疑問を言葉にする。
その言葉にひよこは口角をあげて答える。
「〈たからもの〉についてだね、ジロウ君?」
「これは君達もわかっているように記憶を引き出すプログラムだ」
ひよこはニコニコとした笑みを崩さずに、それはそれは楽しそうに話した。
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