8.かくれんぼ実況中(3)

「はい、イデア様!今回の試練も無事クリアです!」


 かめちょんは得意気だった。

 けれど彼女を頭に乗せている俺はその手足が震えているのを感じた。

 焦っているのか、そんな感じだった。


「楽しかったかイデア?」


 俺はイデアに訊ねる。


「……まだひよこさんはかくれんぼしてるんだよね?」


 俺の質問にイデアは質問で答える。

 それだけで十分に彼女の気持ちがわかった。


「……チキンジョッキーさん」

 俺は一歩前に出て彼に近寄る。


「なんだい冒険者?」


 今イデアが求めているのは〈たからもの〉じゃない。


「最後までかくれんぼ続けてもらっていいですか?」


 彼女は遊びたいのだ。


「どうゆうことよジロウ?」

「そうですよジロウさん! もうかくれんぼは終わったんですよ!」

 かめちょんのことは相変わらずわからない。

 答えを勿体振った割に早く試練を終わらせたいのか、いまいち目的のわからない女だ。

 こいつのことはわかりやすいのかわかりにくいのか俺にはよくわからない。


「イデアはまだ続けたいみたいです。」


 けどイデアのことはわかりやすい。


「……そちらの子犬のお嬢さんだね」


 あの娘が求めているものは気付いた俺が与えてあげるべきだ。


「もう少しだけ俺達に付き合ってもらえませんか?」

「かめちょんとナチュラルも頼むよ」


 ゲームの中でまで頭を下げるのは嫌だったけど今日はあんまり抵抗がなかった。


「じ、ジロウがそうゆうなら仕方ないわね」


 松下、お前はやっぱり素直でいいやつだよ。


「……イデア様はどうしたのですか?」


 かめちょんはイデアに確認をとる。このゲームが終わったら上新井と話をしないとな。


「……いいのジロウ?」


 かめちょんがイデアに聞いたはずなのにイデアが俺に聞いてくる。


「……いいんだよイデア。 俺がまだ遊びたいんだ」


 寂しそうに突っ立っていたイデアは俺に駆け寄ってくる。




「ジロウ! 大好き!」




 初めて飛び付いて来たときほどの勢いじゃないがイデアは俺に飛び付きハグをしてくる。


「どうやらあいつら、勘違いしてるみたいですよ。 チキンの兄貴!」


 俺達の様子を見守っていたタカちゃんは突然喋りだす。


「あぁそうみたいだねタカちゃん!」


 それに動じることなくチキンジョッキーも話始める。




「今回の試練のクリア条件は僕を見つけて、その上で捕まえることだ!」




 チキンジョッキーは高らかに宣言する。


「行くよタカちゃん!」

「あいよ、チキンの兄貴!」


 そういってタカちゃんは飛び上がる。


「街中のひよこを見つけるまでは僕達を捕まえられないよ!」


 ひよこの姿のチキンジョッキーは笑顔で答える。予定通りと言わんばかりの笑顔である。

 街中の動物達も歓声をあげる。


「まだまだこれからが本番だぞ!」

「頑張ってウルフライダーズ!」

「タカちゃんさん素敵!」


 沢山の歓声に包まれて俺達の前に道が出来る。


「……行くぞイデア、俺の背中に乗れ!」

「うん!!」

「かめちょんもしっかり捕まっとけよ!」

「……なんかジロウさん今までになく張り切ってますね」


 かめちょんから感じた震えはいつの間にか止まっていた。


「どうだろうな?」


 俺は笑って答える。


「行くぞナチュラル! 頭のひよこを落とすなよ!」

「…え? ちょっとジロウそれって?」


 俺は駆け出す。

 黄色いカメレオンとフードの少女を乗せて。

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