7.「空」の街 スカイフロントウェア(2)
「全く手応えがないわ、早くあなたと戦いたいのだけど、ねぇジロウ?」
「旅が終わるまでは勘弁してくれ」
「角ねぇつよーい!!」
俺の上ではしゃぐイデアは食事をとらない。
このゲームでどの動物にも共通である空腹ゲージが彼女にはないらしい。
脳を直接コンピュータに繋いでいる彼女が現実世界でどのような姿をしているのか俺はよく知らない。
ただ俺が思うに俺の背の上にのる彼女はこの世界の全ての動物の中で一番リアリティがある。
動物の姿をした人間たちが集まるこの世界で等身大の少女であるイデアは一際異質なのだ。
俺はそう思う。
「ジロウさんが持ちきれない分は私が持っときますね」
「わ、私もアイテムポケット空いてるから持っててあげるわ。 べ、別にあなたのためじゃないのよ、私が倒したから持つだけなんだからね!」
この二人がイデアのことをどう思っているかも俺は知らない。
ナチュラルに関しては最近ついてきたばかりで事情も簡単にしか説明してない。
けれど俺への闘争心でついてきているのだから対して気にしていないんだろう。
問題はかめちょんだ。
こいつは明らかにイデアの過去を知っている。
前に訊ねた時は大まかに教えてくれるものの肝心なことは適当にはぐらかしてきて正直に答えようとしない。
今のイデアがどんな状態か具体的に聞いても企業秘密だとか言うのだ。
前は俺も対して気にしていなかったがイデアの過去を見たことで少し気がかわった。
記憶を取り戻すために過去の記憶をみたというのなら何故あんな悲しそうな思い出なんだ。
もしかするとイデアの過去はあんな思い出ばかりなのか?
そうだとすればイデアがこれから記憶を取り戻すことはいいことなのだろうか?
今楽しそうに笑う彼女が記憶を取り戻すに連れてどうなるんだ?
段々と大人びて元のイデアとしての姿に戻るのだとしたら……。
「……ジロウ?聞いてるの?」
俺はナチュラルの声で我に帰る。
「悪い、考えごとをしててな」
「なんだか現実での私の上司みたいね」
たぶん目の前にいるのは本人なんだけどな。
「上司さんってどんな人なんですか?」
かめちょんが面白そうに尋ねる。
こいつわかっててわざと聞いてやがるな。
「いつも丁寧に教えてくれて理想の先輩よ! 顔はそれほどでもないけど手際もよくて仕事をする姿がかっこよくて憧れの人なの!」
……ますます松下に本当のことを話すのが気まずくなった。
「へー、いい人なんですね! 私も会ってみたいです!」
黄色いかめちょんがいつになく楽しそうに話す。
こいつはあとで懲らしめないとな。
「私もあいたーい!」
イデアの言葉に黄色いカメレオンは少しだけ青みがかり黄色と青、緑の入り交じった不思議な色合いになった。
イデアは今、ゲームと現実との区別を認識していない。
彼女にとっての世界とは「ワイルド・シミュレータ」の中の世界でしかないのだ。
つまり当然人間の姿で俺達が彼女に会うことは出来ない。
「……そんなことよりも先にいくぞ」
「……はい、ジロウさん!」
懲らしめるつもりだったがイデアの純粋さに免じて今回は見逃してやる。
〈ピーナッツギフトツリー〉、このゲーム内最大の樹木で螺旋状に伸びる巨大な階段がついている。
自然に生えている木ではなく沢山の木々を繋ぎあわせて作られた人工の樹木だ。
このゲームには植物を育てる要素があるのだが通常こんな大きな木は育たない。
高度限界に街を作るためにわざわざこれを作ったやつらがいるのだ。
地上からでは頂上の様子が見えないこの木を一人で作ることはぶっ続けでやっても3ヶ月はかかるだろう。
ところがこの木はこのゲームがリリースされてから一週間で出来上がった。
それだけ多くの人が集まりこの街を作ったのだ。
何故それが出来たか、その答えはこの街がこのゲームで一番の人気のコミュニティだからだ。
正しくいうならばこの街の長が現実世界に置いても人気者だからなのだ!
「お、ジロウの旦那と角の姉ちゃんじゃないか!」
俺達が螺旋階段を登る途中で空か近付いてくるものがいる。
大鷲のタカちゃんが現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます