「空」の街
「空」の街
7.「空」の街 スカイフロントウェア(1)
「……先輩、私なにか変ですか?」
「……あ、いや何でもない。 ボーとしてただけだ」
後輩の松下に仕事を教えている、これは営業所内ではいつもの風景だ。
しかしなんだか人の秘密を知ってしまうと話すのがとても気まずくなる。
松下に関しては特にだ。
この人当たりがよくて非の打ち所のないショートカットの可愛い後輩が、ゲームの中で角の悪魔と呼ばれ暴れまわっているだなんてとても思えない。
「……大丈夫ですか、大崎先輩?」
まぁ逆に考えてみれば俺は松下のことをよく知らない訳だし、ある意味それが彼女の本来の姿なのかもしれない。
「……先輩! とにかくここをどうしたらいいか教えて欲しいんですけど」
俺はその声で我に帰る。
「……あぁ、そうだったな。 ここのデータはこうしてだな。」
とりあえずこの場はいつも通り振る舞うしかない。
俺はその日も必死に仕事に取り組んだ。
~~~※※※~~~
「ジロウさん、結局松下さんには話さなかったんですか?」
俺の部屋の隅でクッションを抱えながらくつろいでいるのは上新井。
居候の癖に最近やつの私物が増えてきた。
「そもそもどう切り出したらいいかもわからねぇよ。 お前こそ俺の時みたいに家まで出向かないのかよ?」
俺の問いかけに横を向きながら彼女は答える。
「いやージロウさんの場合は特別だったんで今回はちょっと……」
「……なにが特別なんだよ?」
「いやー調査した感じ、あのー、ちょろいかなー、なんてー」
相変わらず上から目線でむかつくやつだ。
「なんだよちょろいって?」
「あ、えっーと言葉の文です、優しそうだったんで多少の無茶は呑み込んでいただけるかと思いまして」
……本当にむちゃくちゃなやつだ。
「まぁ別に俺も自由な時間が減ったこと以外困ってないしいいんだけどな」
「むぅ……、ジロウさんはもうちょっとゲームの時みたいにするべきですよ!」
「どうゆうことだよ?」
「……なんと言うか、ワイルドというか」
「……どうせ俺はしがないサラリーマンだよ」
「あ、いゃーそんなつもりでいったんじゃないんですけどー」
「じゃあなんなんだよ?」
俺が聞き返すと暫く俺の顔をみて上新井がいう。
「……むぅー、さっしが悪いですね!」
全くなんなのかわからん。
「……とにかくです! 今日もイデア様に会いに行きましょう!」
「言われなくてもだ」
~~~※※※~~~
俺達のパーティーはナチュラルを加え四人編成になった。
なんだかんだで俺以外女ばっかりで少し気まずい。
「ジロウはもふもふだぁー!」
唯一の良心は俺の背に乗っているイデアだけだ。
この少女は妙に俺になついている。
前より少し大人びたがまだまだ子供だ。
その純粋さに心洗われる。
「私だってジロウさんの上でもふもふですよ!」
上新井ことカメレオンのかめちょんは気性の変化が激しく扱いにくい女だ。
その上随分図々しい。
イデアのようにお前も大人びてくれ。
「べ、別に私はそんなことには興味はないんだから」
後ろからついてきている大きな鹿、ギガンテウスオオツノジカのナチュラルは俺の職場の部下、松下だったらしい。
いつもは大人しく人当たりのいい彼女はこのゲームでは名を馳せる狂戦士だ。
俺のことを異常に目の敵にして付きまとってくるよくわからないやつだ。
俺達一行は次の街、『スカイフロントウェア』を目指し〈ピーナッツギフトツリー〉へとやってきた。
このゲームの高度限界ギリギリの天空にあるこの街に行くためにはペリカン便、ドラゴン空港などの交通機関を使うかこの木を自力で登る必要がある。
俺達はイデアを出来るだけ人目に晒さぬよう後者の手段を選択した。
しかしぶっちゃけ今俺達はちょっとした有名人になってしまっている。
「お、ウルフライダーズだ!」
「確かに! 狼のジロウとその上の子犬、間違いないぞ!」
「キャージロウさーん!!」
「見ろ! 後ろには角の悪魔もいるぞ!!」
「あんなの敵いっこない! 逃げるんだ!」
元々俺とナチュラルは自分でいうのもなんだがそこそこ有名な古参プレーヤーだった。
更に言うなら俺達はコミュニティに属さず一人でゲームを楽しむソロ専だったのだがそれが今になって正体不明の謎の動物を連れて同行しているのだ。
目立たない方がおかしい。
更にそれに拍車をかけるのが以前立ち寄った街、「パワーオブメタルズ」の闘技大会だ。
俺とナチュラルは優勝と準優勝と言う首位独占も果たしてしまった。
戦闘マニアの集まるあの街であれだけ派手に暴れてしまえば余計なやつらに目をつけられる。
「へへ、お前らが噂のウルフライダーズだな!」
「テメーらを倒して俺達が名をあげるぜ!」
「これだけの数を前にして敵うと思うなよ!」
今日現れたのは有名なハンターコミュニティ「烏合衆」、烏の烏龍をリーダーとしハゲワシのバルカン、エミューのウルサンダー22の三人を筆頭としたいわゆるあらずもの集団だ。
ざっと三十羽と言ったところだろう。
「ジロウ、あなたと一緒にいると獲物の方からやって来てくれて楽しいわね」
こうゆうときにナチュラルがついてきてくれてよかったとは思う。
「……まぁあんまり目立たないようにやってくれ。」
「任せなさい、私はあなたよりも強いのよ!」
「角ねぇ頑張って!」
「ジロウさんはやらないんですか?」
「……俺はいい、お前らを乗せてて面倒だ。」
ナチュラルが先頭をきって烏合衆に突っ込む。
「来たぞ、角の悪魔だ!」
「怯むな敵は一匹だ!俺達の連携でなんとかなる!」
「あぁ、テメーなんか怖くねぇや!」
ものの数分で辺りは鶏肉だらけになった。
食糧に困らなくてある意味助かる。
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