6.〈たからもの〉の秘密(3)

 洞窟の中で成長したイデアを前に俺達は困惑していた。

 少なくとも俺はそうだ。


「それってどうゆうことだよ?」


「記憶を取り戻すことで本来のイデア様に一つ、近付いたのです。」


「……じゃあなんだよ、これから〈たからもの〉を集める度に記憶が戻って体も成長していくっていうのか?」


「……恐らくそうです」


「俺達があれを集める度にあんな悲しそうなイデアを見ないといけないのか!?」


「……そうと決まった訳ではないです」


「じゃあどうなんだよ! 楽しい思い出が待ってるかもしれないのかよ!?」


「……それは」


 上新井は口をつぐむ。

 彼女はイデアの過去を少なからず知っている。

 だから黙ったのだ。


「……喧嘩しないで二人とも」


 イデアが俺の毛皮を握っている。

 無邪気だった彼女の手は寂しさが伝わってくる。


「……ごめんよ、イデア」


 俺は尻尾で彼女を包む。


「……かめちょんも、その、悪かった」

「……いいんですよジロウさん、私も過程を聞いてなかったで」


 それだけ言って俺達は黙りこくってしまった。




「……私には何がなんだかわからないんだけど」




 俺達が落ち着いたのをみて話に取り残されたナチュラルが口をきる。

 俺とかめちょんは顔を見合わせて、そのあとでイデアを見る。

 俺達の視線に気付いたのかニコリと笑ってくれる。

 少し大人びたけどイデアはイデアのままのようだ。


 それから俺とかめちょんはその視線をナチュラルに向ける。


「他の人を巻き込むのはとても気が進まなかったんですけど仕方ないですね」


 それから俺達はナチュラルに簡単に俺達の旅の事情を話した。

 このゲームの開発元「デミウルゴス」が関わっていることなど話せないことも色々あったがとにかくイデアのために旅をしていることだけ伝えた。


 それを聞いたナチュラルは少し考えてから俺に訊ねてくる。


「……つまり旅が終わるまではあなたは自由に動けないのね」

「まぁそうゆうことになる」


 彼女はそれを聞いて少し間を空けて答える。


「なら、私も連れていってくれないかしら?」


 ……え?


「……何でだよ?」

「私は早くあなたにリベンジがしたいの! だから用事はさっさと済ましてほしいのよ!」


 かめちょんとは違う意味で横暴なやつだ。


「……あまり一般の人を巻き込むわけには」

 俺の時とは打って代わってかめちょんは消極的である。

 わざわざ家にまで上がってきたあの行動力はどうした?


「まぁ承諾するのもしないのもあなたたちの勝手よ。 でも断られたって着いていくんだからね!」


 いつもにまして食いぎみで話してくるナチュラル。

 俺達が答えあぐねているとイデアが喋り出す。


「私は一緒に行きたいよ! お友達はたくさんいた方が楽しいもんね!」


 さっきよりも目を輝かせてイデアは話す。

 断片的な記憶をみてわかったが彼女はつながりに飢えているのだ。


「お嬢様がいうなら仕方ないですね」


 イデアの意見にかめちょんも賛同したようだ。


「お前らがいいっていうならいいんじゃないか?」


 俺の答えを聞いてナチュラルは嬉しそうに答える。


「決まりね! これからよろしく頼むわ!」

「うん! よろしくね角のお姉さん!」


 イデアとナチュラルは早速意気投合している。

 にこやかに笑う彼女達を俺が見ているとその視線に気付いたのかナチュラルは顔を赤らめながらそっぽをむく。


「べ、別にあんた達と群れたくていくわけじゃないんだからね! あくまで早くあなたとの決着をつけるためよ!!」


 これを聞いてかめちょんは微妙な表情だ。


「……面倒な人がついてきちゃいましたね。」


 こんなときにぴったりの言葉がある。




 お前が言うな、だ。




 俺はそれを内心に納めて少し笑った。




~~~※※※~~~




「……ジロウさん、ヤバイですよ」


 ゲームを終えた日曜の夜、明日の仕事に備えて準備をしていると複雑な面持ちの上新井が話し掛けてくる。


「なにがヤバイんだよ?」

「あのナチュラルとかいう生意気な鹿のプレーヤー情報を見てたんですけど……」


 相変わらずこの会社は個人情報の管理が杜撰だぞ。


「それでなにがやばいんだよ?」

「……恐らくジロウさんの知人です」


 ふーん。

 まぁ高校や大学の知り合いとは最近話してないしあり得ない話でもないか。


「……あなたの会社の後輩の女の子です。」


 ふーん、松下か。

 そういえばゲームやってるって言ってたなぁ。


 松下がナチュラルかぁ。




 ……え?


「……それマジ?」

「マジです!」

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