6.〈たからもの〉の秘密(2)


 〈たからもの〉を開けたイデアはその幼い姿に似つかわしくない悲壮的な表情を浮かべていた。


「どうしたんだイデア!!」

「お嬢様!!」

「なんなの? どうしたの!?」


 俺はイデアに駆け寄るとイデアは目を閉じ静かに倒れかかってきた。

 それを俺が体で受け止めるとイデアが握っていた首輪がその小さな手から離れる。


 その首輪が落ちる瞬間にぐにゃりと俺達の意識が一瞬暗転する。


「な、なんなんだよ!」


 視界にあった洞窟の窮屈な壁面が瞬間で闇に飲まれ、俺達は沼に落ちていくようなそんな感覚を味わった。




~~~※※※~~~




 気が付くとイデアの姿はなく俺達は別の場所にいた。

 ぱっと周りを見回すと豪華な花壇の並ぶ庭、奥に古風なお屋敷が見える。

 恐らくここはそのお屋敷の庭のようだ。


「なんなんでしょうここは?」

「お前は知らないのかよ?」

「〈たからもの〉を手にいれたらどうなるかなんて聞いてないですよ!」


 相変わらずかめちょんは役に立たない。


「どうなっているのジロウ?」


 ナチュラルもさすがの事態についてこれてないようだ。


「俺が聞きたいぜ、そんなこと」


 俺達が話していると目の前を一人の少女と犬が通る。




「待ってフレディ!」




「……え、……イデア?」


 その少女は俺の知るイデアより大分大きく幼女ではなかった。

 そのこは少女の姿をしていた。

 それでもどこかイデアの面影がある。

 もう一匹の犬はイデアと同じ、或いはそれよりも少し大きい位の灰色の大型犬。

 品種までは判断できないが毛深くて犬というより狼のみたいだ。

 そう……、どことなく俺に、「ワイルド・シミュレータ」内の狼のアバターに似ていた。


「……そんな、……お嬢様」


 かめちょんは青色と紫色を交互に発し動揺を示している。


「……かめちょん、なにか知っているのか?」


 俺は上新井に訪ねる。


「……あれはイデア様の、……幼い頃のお姿です」

「……じゃあなんだ?俺達はイデアの生前の記憶を見ているのか?」


 俺の問いに上新井は答えない。

 言葉を失い唯々涙目になっている。

 ナチュラルは状況が理解できないのか、さっきよりも大人しい。


 俺達の沈黙を余所にイデアは犬に話し掛ける。


「……フレディ、私と遊んでくれるのはいつもあなただけよ。 またお父様に約束破られちゃった」

 イデアはその犬に向かって独り言のように話し続ける。

「……ママもいなくなったし寂しいよ、フレディ」




 彼女がそういい終えると再び俺達の意識は暗転し次のシーンが始まる。




 先程と同じ場所にイデアは立っていた。


 しかしさっきまで犬がいた場所には小さな十字の木が立て掛けられている。




「……フレディも私を置いていくんだね」




 それだけ呟きながら彼女は泣いていた。

 それは俺達がこの景色を見る前に洞窟で見た顔と一緒だった。


「……イデア!!」




 俺が叫んだのと同時に再び意識は暗転し、俺達は皆もといた洞窟に戻っていた。


「……なんだったの今のは?」


 ナチュラルは突然の現象に呆気にとられている。

 かめちょんはしゃべらない。

 随分と濃い青色だ。

 俺達が途方にくれていると俺に寄りかかっていたイデアが目を覚ます。


「……ジロウ?」

「……イデア! 気がついたのか!」

「……おはようジロウ」


 にっこりと微笑みかけてくるその顔は以前までの幼い無邪気な表情ではなかった。


「……どうしたのジロウ、まじまじと見て?」


 口振りもあの幼いイデアではない。

 少し気になって彼女の姿を眺める。


 ……気のせいか?

 彼女は少し背が伸びている。


「……お前こそどうしたんだイデア?」

「……どうもないよ?」


 俺が次の言葉に戸惑っていると上新井が口を開ける。


「……ジロウさん、これで第一段階が無事終わりました」


 いつもは鬱陶しいくらい明るい彼女だが今日は初めてあったときのように冷静にしゃべっている。


「……イデア様は恐らく記憶を少し取り戻されたのです」

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