5.野獣達の闘技会(4)
「……勝者! ジロウ選手!!」
声援の絶えない会場に更なる歓声が響く。
「さすがジロウさんです!!」
「わんわんすごーい!!」
観客席から降りてきた二人が俺に駆け寄ってくる。
……全く、目立つなっていったのはお前らだろうに。
「ジロウさん!!」
「わんわん!!」
二人が俺の背に飛び乗り跳ね回っている。
まるで戦いの間待ちかねていたかのようにはしゃぎまわるのだ。
……俺も少々疲れたから程々にして欲しいんだが。
「おい、狼の上の子犬はなんだ?」
「カメレオンも乗っているぞ!」
観客席から歓声に混じりざわざわと声がする。
ほら言わんこっちゃない。
早速目立っているぞ。
「あの優勝者のジロウに股がるなんてきっと余程強いやつに違いない!」
「あぁあの一匹狼で有名なジロウを従えるなんて恐ろしいやつだ!!」
「ウルフライダーだ! やつらはウルフライダーだ!」
ざわざわ声は段々と予想外の声援に変わる。
「格好いいぞー! ウルフライダー!!」
「あのジロウが遂にコミュニティを作ったのか!!」
「ウルフライダー!!」
悪い気はしないがこんなに目立つのは大丈夫なのか?
「ジロウさんなんか私達ヒーローみたいですね!!」
お前はなにもしてないだろうが。
「では優勝したジロウ率いるウルフライダー達に優勝商品の贈呈が送られます」
コンドルの司会の元大会後の授賞式はそのまま闘技場で行われ、老虎が自らアイテムを持って現れた。
先程まで俺の上ではしゃいでいたかめちょんとイデアも上に乗ったままだ。
「相変わらずいい戦いだったぞジロウ!」
「いつも通りやっただけですよ」
「お前の気が変わったらいつでもここに来るといい。 私は歓迎するよ」
相変わらず勧誘熱心な人だ。
「……俺は俺のやりたいようにやるだけです」
俺は自由でいたいんだ、子守をすることにはなってしまっているが好きなように行動したいんだ。
「まぁそう言わずな」
「とにかく老虎さん! 早く〈たからもの〉をくださいよ!!」
勧誘を続ける老虎相手にかめちょんが頭の上ではねながら割って入る。
かめちょんの無神経さはこういうときに役に立つ。
「……いいだろうお嬢さん、私の試練を見事に達成したジロウを称え約束通り一つ目の〈たからもの〉を与えよう!」
そんな彼女に一切の嫌悪を見せず優しい笑顔の虎は宣言する。
俺達と老虎の間に一つの小さな宝箱が光と共に現れる。
俺はそれを手にしアイテムを獲得する。
歓声がこだまするなか老虎は静かに俺達の横をとって去って行く
一言俺達に呟きながら。
「……その箱は人目のないところで開けなさい。 イデアお嬢さんのためにな」
それだけ言い残して老虎の姿は蜃気楼のように消えていった。
俺達がなにか言おうとする前に会場の歓声が全ての音をかき消していった。
「待ちなさいジロウ!!」
街を出ようとする俺達に傷を癒したナチュラルが現れる。
「あーさっきのシカさんだ!」
「まだ何かあるんですかね、しつこい人ですね!」
初めてかめちょんと気があった気がする。
「……私はあんな負け方認めないわ!!」
なんだかナチュラルの顔が赤い、まだ傷が痛むのだろうか。
「……あんな、あんな噛み付き、よけれなかったなんて!!」
どうにも様子がおかしい。
「……覚えておきなさい! 今度あったときこそあなたの最後なんだからね!!」
そういってナチュラルは俺達よりも早く街を出る。
「なんだったんでしょうね、いまの?」
「全然わからん」
嵐のように駆け抜けていったやつを見送って俺達は次の街を目指した。
~~~※※※~~~
「……ふぅ」
少し幼げな女性がヘッドセッドを外す。
長いことプレイしていたせいか少し疲れているようだ。
「まさか顔半分噛み付かれるとは思ってなかったなぁ」
彼女はゲームでの体験を思いだし思い更けているのだ。
「人間だったらあれ……、キスになるのかな……」
少し顔を赤らめながら彼女はヘッドセッドを机に置く。
「……現実でもしたことないし、わかんないや」
仕事の資料で少し散らかった机に頬杖をつきながら窓を眺める。
「……ジロウさんってどんな人なんだろう?」
彼女の机の脇には会社の社員証がある。
そこには当然彼女の名前が書かれている。
松下角子と。
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