5.野獣達の闘技会(2)


「……ジロウ、あんた何ニタニタしてるのよ?」


 ワニを倒して闘技場から降りて控え室に向かう俺の傍を大きな影が通る。

 オオツノジカのナチュラルだ。


「……そうか? あんまり気にしなかったが」


 そもそも狼のにやけ顔ってどんな感じなんだよ?


「なんなのその腑抜けた態度は! あなたは私が倒すんだから覚悟してなさい!!」


 ふんっと首を降って彼女は去っていく。

 最近あいつらには会ってなかったけど彼女は前よりツンツンしてる気がする。

 ……なんなんだろうな。




 俺とあの二匹と一羽との出会いはこのゲームのβ版以来だ。

 β版の頃からこのゲームの完成度は高く、今あるシステムの殆どがバグなく実装されていた。

 俺とやつらは強力なボスNPCの出現情報がでると何の連絡もなく狩りに集まったものだ。

 勿論俺は一人で狩るのがメインだが不思議とやつらに出会ってしまう。

 同じ穴の狢ってことなんだろう。


 イデアと出会って、上新井と同居を初めて一週間、中々会わなかったからなんだか少し懐かしい。




~~~※※※~~~




 そうこう言ってる合間に初戦はあっという間に決着がつき準決勝はみんな顔見知りになる。


「次の相手はジロウの旦那か! 羽がなるぜ!」


 俺の相手は大鷲のタカちゃん。


「ジロウ! あなたは私が倒すからそこの鶏なんかに負けないでよね!」


「角のねぇちゃんはおっかないね」

「ウホーーーー!!!!」


 久々に会うのに今まで通りだ、なんだか少し嬉しきがした。


「ジロウさーん! 負けないでくださいよー!!」

「わんわーん! がんばってー!!」


 観客席からあいつらの声が聞こえる。

 さっきとニュアンスは違うけど、俺はまた嬉しくなった。


「……いいぜお前ら、勝つのは俺だ!」




「それでは準決勝! ジロウ対タカちゃんの試合を始めます!!」


 闘技場で構える俺の前にすまし顔の鳥がたつ。


「全力でいくぜ旦那ぁ!!」


 タカちゃんは空に舞い上がり俺の上を旋回し始める。

 相変わらず空を飛べるってのは少し羨ましい。


「来やがれタカ野郎!!」


 俺は久々に叫んだ。




「試合開始!!」




 コンドルの合図を皮切りにタカちゃんはスピードを高め空中を駆け回る。

 瞬発的な早さなら俺に分があるが加速をつけたスピードはタカちゃんの方が早い。


「行くぜ旦那ぁ!!」


 俺の視界からタカちゃんが消えた時後ろから掛け声と共にやつのかきづめが肉に刺さる。


「くそっ!」


 俺が振り向くとやつはすぐさま飛び上がり距離をおく。

 久々の直接対決だが飛べるあいつは中々厄介だ。


「どうだい旦那! 空を舞う俺の動きについてこれるか!?」


 得意気なタカちゃんは一ヶ所に留まらず縦横無尽に滑空する。


「わんわんがんばってー!!」


 またイデアの声が聞こえる。

 俺の背中の肉が割け赤い血を垂らしているのに彼女の無邪気さは変わらない。


「わんわーん!!」


 ……いや、少し違うな。

 いつもより必死な感じがする。




 早く終わらせて安心させてやらないとな。


 俺はここで目を閉じる。

 目でやつを追っては駄目だ。


 音と臭い、それで判断しろ。


 これはゲームだから臭いなんて感じない

 だが俺にはわかる。

 獣のように神経を研ぎ澄ませゲームの中に意識をダイブさせる。




「もう一発いくぜ旦那!」




 羽音が聞こえる。

 獲物の臭いがする。

 俺はその方向に体を動かす。




「ぐらぁぁぁぁぁあ!!」




 俺の牙は大鷲の胴体を捕らえそのまま地面に叩きつける。


「……い、マジかよ!?」


 捕まえちまえば爪で切り裂くだけだ。




~~~※※※~~~




「……参ったぜ旦那、やっぱりあんたは強い」


 俺との戦いを終えタカちゃんには瀕死の重傷を与えた。

 動けそうになかったので俺は彼を背に乗せ医務室まで彼を送り届ける。

 今回の試合はアイテムの持ち込みが出来ないから体力を癒やすために道具の揃った施設にいかないといけないって訳だ。


「タカちゃんも中々手強かったぜ、あんたみたいな猛禽類はそういない」

「はは、旦那は相変わらず口がうまい」


 体力は俺よりないくせいにタカちゃんはやけに余裕がある。

 気のせいか妙に饒舌だ。


「旦那こそなんだか前と雰囲気が違うんじゃないかい?」

「雰囲気?」

「そもそもこうやって大会にでるなんてしなかったろ、旦那?」

「……まぁな」


 冷静になって考えれば俺はこの広い世界を自由に駆け回るために試合なんてもの滅多にしなかった。

 賞金稼ぎのタカちゃんにとって俺みたいなのは珍しいんだろうな。 


「旦那がこういうイベントに参加するのは大体必要に迫られてだ、違うかい?」

「……まぁ確かにな」


「余程今回の商品が欲しいって訳だ!」


 俺の背に乗るタカちゃんは得意げな調子で語るのであった。




 彼を送り届けた後に俺は一度観客席へ立ち寄る。

 試合前に10分間の休憩があるので時間的には余裕がある。


「わーいわんわん!!」


 イデアは俺の体に飛び付いてくる。


「……ジロウさん、すごいですね、あっという間に決勝ですね!」


 そうゆうカメレオンは少し青みがかった色をしている。


「どうしたんだかめちょん、顔が青いぞ」

「……いや、だってジロウさんの試合が中々にグロかったので。」

 目を背けながら申し訳なさそうに話すかめちょん。

 俺がタカちゃんに食らい付いてからのことをいっているんだろう。


「狼だからな、俺は」

「現実のジロウさんもあのくらいワイルドでもいいんですよ?」


 さっきまで青かったカメレオンは今度は黄色くなって話してくる。

 相変わらず移り変わりの激しいやつだ。


「とにかく次で最後だ、すぐに終わらせてくる」

「はい! 私はお嬢様と待ってますね!」

「いけいけわんわん!!」

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