5.野獣達の闘技会(1)
今日は土曜日、仕事は休みだ。
俺は休みの日の朝は近くの公園までランニングをするように心がけている。
「ワイルド・シミュレータ」は体感型ゲーム、体力がある方がより楽しめるからだ。
「……早いですよジロウさん、待ってください!」
後ろからついてきているのは上新井、最近同居している居候だ。
一緒に走ってみてわかったがそんなに体力はない。
俺も足は早い方ではなくゆっくりジョギング程度の早さで走る。
ところが20分もしないうちからバテてとぼとぼ歩いてきている。
「……ついてきたのはお前だろうが。 あと外でジロウは止めろ、ややこしいから」
「……いいじゃないですか、ジロウさんも士郎さんも似たようなものですよ」
ぜいぜいと息をあげついてくる彼女は世界に名を馳せる大企業デミウルゴスに親のこねで入ったらしい。
なんでも親がイデアお嬢様の教育係件執事だったらしい。執事なんて実際にいるんだなぁ。
「……はぁはぁ、帰ったら先にシャワー貸してくださいね」
親のコネで入社した彼女の話を聞いたが中々のポンコツだったようだ。
彼女は自覚はないが感情の起伏が激しく人当たりがそんなに良くない上に要領も悪い。
その結果、技術開発部に異動になり「ワイルド・シミュレータ」でのイデアのおもりを担当することになるという不思議な経歴の持ち主だ。
「構わないがお前はもう少し羞恥心を持て」
俺の家に居候しているのも実質彼女の判断だったみたいでいまいち人の苦労を考えられないちょっと残念なやつだ。
「ジロウさんこそもう少し私に興味を持ってくれてもいいんじゃないんですか?」
お前に興味を持たなくてもたくさん話してくれるから嫌でもわかる。
「……もう少し大人しくなったら考えてやる。」
「どうゆうことですかジロウさん!?」
ゲームの中のカメレオンの姿でもないのに彼女は顔を真っ赤にして向かってくる。
まぁ見ている分には面白いやつだよ。
~~~※※※~~~
「いよいよ闘技大会ですね! ジロウさん!! 頑張ってください!!」
「わんわんがんばって!!」
闘技会場の入り口で俺はカメレオンとフードの女の子に見送られる。
「まぁやるからには勝ってくるよ」
俺はそれだけいって会場へ向かう。
「私達も観客席でみてますからね!」
「わんわんおうえんするー!!」
一人での自由な生活とはずいぶんそれたところに来てしまったがやるからにはやらないとな。
「それでは選手達の入場です!!」
司会のコンドルが空を舞いながら声高に叫ぶ。
今回の大会はここパワーオブメタルズのコミュニティ外から参加者を募り、賞金とレアアイテムを求めた猛者が集まっていた。
その中でも激しい予選を勝ち抜いた八匹の獣達が姿を現す。
「おっとジロウの旦那じゃないか!」
「あら、久々に会ったわね」
「ファキンジャープ!!」
その中に見覚えのある一羽と二匹がいた。
「なんだよお前ら、来てたのかよ」
「へへ! 当然だろ旦那! 今回の賞金は俺がいただくぜ!」
大鷲のタカちゃんは名のある賞金ハンターだ。
この世界の空を舞う彼は高い機動力で世界中の情報を集め金になるイベントに意欲的に参加している。
「この間は麒麟にもあなたにも逃げられたけど今度は逃げられないわよ!」
オオツノジカのナチュラルは実は幻獣扱いのレアな動物だ。
正確にはギガンテウスオオツノジカと言うらしい、氷河期に生息していた生き物で絶滅種なのだ。
それでいて彼女は草食動物の癖にかなり好戦的だ。
自分の力を試すためなのかなんなのかはわからないが強い相手に挑みその大きな角で葬って来ている。
一度俺に挑んで来たので返り討ちにしたからか異様に目の敵にされている。
「ウィーーーー!!!!」
ストロンガーことマウンテンゴリラ、学名をゴリラ・ゴリラ・ベリンゲイ。
やつは口が悪くこのゲームの自動翻訳機能がうまく機能しない。
やつも好戦的だがナチュラルほど見境なく勝負を挑んではこない。
寧ろ時々手助けをしてくれたりする。
何を考えてるかわからないが何を言いたいかもわからないので気にするだけ無駄だ。
一つ言えるのは今のように胸を叩きドグラミングを始めた時は負ける気がないということだけだ。
他にも何匹か見た顔がいたが正直覚えてない。
開会も速やかに済ませ早速第一回戦だ。
「てめぇが噂の『一匹狼』のジロウだな、お前を倒して俺が名をあげるぜ!!」
今回の大会はトーナメント形式で一対一だ。
体力がなくなる直前を自動で検知し試合の決着を告げるゴング「バトルマニア」がなるか台場の闘技場から押し出される場外になるかで決着が決まる。
いきなり俺に飛びかかってきたワニは大口をあけて俺に噛みつこうとしてくる。
しかしどうということはない。
このゲームは完全体感型VRMMO、動物となった自分の体を自在に操作し行動出来る。
それはもう殆ど人間が人間として無意識に立ち、歩き、走れるように自由に動くことが出来る。
なので操作する動物と自分の自分の行動スタイルとの噛み合わせがよいほどに機敏に自在に操作することが出来戦闘では優位にたてるのだ。
「あんたは水中で大人しくしてた方がいいと思うぜ」
やつの噛みつきを避けて尻尾に噛みつく。
そのまま首を降ってやつを降り飛ばし場外へ叩きつける。
「あびゃー!!」
大型の奴なら面倒だったが体長1メートル程度の小物ならこれで十分だ。
「決まったー!! 圧倒的な強さでジロウ選手の一本勝ちだ!!」
コンドルの高らかな実況で会場が湧く。
「さすがジロウさん!! 走り込みの成果ですね!!」
「わんわんつよーい!!」
あいつらの声も聞こえる。
まったく、走り込みは関係ねぇよ。
俺は本当はこうやって目立つのは嫌いだが今日はなんだか少し嬉しかった。
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