4.「力」の街 パワー・オブ・メタルズ(3)



「どんな人なんでしょうね、この街の長さんは!」

「おさおさ!!」


 かめちょんは黄色い体のままイデアと楽しそうに話している。


「ランキング見たら載ってるだろ、見てないのか?」

「いや勿論見た目は知ってますよジロウさん! その辺はちゃんと研究済みです!」

「じゃあなんで聞いたんだよ?」

「いや、やっぱりお会いしてたからものを貰う以上人柄って気になるじゃないですか?」


 成る程、みんなが動物の姿のこのゲームで人柄って言うのも不思議な話だが言いたいことはわかる。


「……俺はあんまり好きじゃないかな」

「ジロウさん会ったことあるんですか!?」

「あるの!?」


 かめちょんとイデアは驚いたように聞いてくる。


「昔俺のところにスカウトに来たんだよ、あいつが」

「スカウトってパワーオブメタルズにですか?」

「まぁそうゆうことになる」


「凄いじゃないですかジロウさん! 現実じゃ冴えないサラリーマンなのにゲームだとトップチームからスカウトを受けてるなんて!」

「すごーい!」


 きっと二人には悪気はないのだろうけど内心かなり傷付く。


「でも断ったんだよ、俺は自由に遊びたかったからな。 そうゆう意味ではあんまりあいつには会いたくないんだ」


 ぶっちゃけイデアのことがなければこの先も関わることなく過ごしていたかったのだ。

 しかし成りゆきでこうなってしまった以上会うしかない。

 どうせ会うなら苦手なやつから会っておく。

 これが俺の営業スタイルだ。


「……そうなんですね。 それなのにイデア様のために来てくれるなんて……、ありがとうございます!」

「ありがとうわんわん!」


 かめちょんは目をうるうるさせながら、イデアはいつも通り笑顔で俺に言ってくれた。

 なんだか騒がしやつらだがそろそろ慣れてきた。


「まぁいいってことさ。 それより〈たからもの〉ってどんなものなんだ?」


 その辺は詳しく聞いてなかったから確認する必要がある。


「それはですね! 見た目は宝箱のアイコンなんですけどイデア様が手に入れると本来の姿のアイテムになるそうです! 宝箱のアイコンはですね……、丁度あんな感じです!」


 かめちょんは説明しながら市場の途中に立て掛けてあった看板を舌で指す。

 そこには宝箱の絵と共に闘技大会の参加者募集を呼びかけるポスターがあった。




「……って、ええーーー!?!?」




 かめちょんの絶叫が市場にこだましてから10分後、俺達はこの街の長が住む城に到着した。

 長と顔見知りである俺達はすぐに長の部屋まで案内された。

 内装も和風な作りになっていて最近実装された畳が一面にひかれ、奥の方には金の屏風、それと四足歩行動物用の甲冑を立て掛ける衣装たてがあった。


「久しぶりだな、ジロウ」


 俺達の眼下でくつろぐ大きな白い獣、真っ白な体毛に黒い縞模様、青い眼光を放つそれが俺に声をかけてくる。


「そうですね老虎さん」

 彼は老虎、ホワイトタイガーの台湾人だ。

 俺は台湾語はわからないがこのゲームは自動翻訳機能があるので別に困ることはない。


「わざわざ私に会いに来るとはどうしたんだね? 遂にうちに入ってくれる気になったか?」

「その件は残念ですが以前にお断りしたとおりです」

「……それは残念だ、君が来てくれれば我がチームの常勝記録も安泰だと言うのに」


 この人の勧誘は中々しつこかった。

 実際このゲームで最強の戦士達を集め、それを支援する組織作りをしているのだからその行動力と手腕は評価するべきだろう。

 でもそれは俺の目指す自由なゲームとは違うものだ。


「武装した私とタイマンを張って生き残れるものもそういないと言うのに、実に惜しいことだ。」


 俺はこの人の勧誘を断るためにわざわざこの街に出向いてこの人と決闘した。

 この街にある闘技場には体力が1以下になる前に自動で戦いを制止し勝敗のゴングをつげるレアアイテム「バトルマニア」があるからだ。

 俺はなんとかこの人から逃げ切り自由なゲームライフを勝ち取ったのだ。


「老虎さん!! どうゆうことなんですか!?」


 我慢できなくなったのかかめちょんは俺達の話に割って入る。


「〈たからもの〉はイデア様が来るまで厳重に保管するようにと言われていた筈ですよ!!」

「ですよー!!」


 俺達が求めてやってきた〈たからもの〉は今週末に開かれる闘技大会の優勝商品になっていた。

 彼女はその事を抗議しているのだ。


「なんだお嬢さん、〈たからもの〉関係者だったのかい?」


 老虎は俺の隣にいるかめちょんとフードを被ったイデアに視線を向ける。


「ということはもう一人の犬のお嬢ちゃんが例のイデアお嬢さんってことだな?」


 彼の青い視線がイデアを見つめる、それに気付いたイデアはさっと俺の後ろに隠れ俺の毛を引っ張ってくる。


「……わんわん、こわいよ」

「おやおや、怖がらせてしまったか。 大丈夫だよお嬢さん」


 俺達の目の前の白い虎はにっこりと笑う。

 まるで日向ぼっこをする猫のように。

 それをみて少しだけ警戒を解いたのかイデアは俺の隣にくる。

 それでもまだ俺の毛をぎゅっと引っ張っている。

 俺はイデアを安心させるため尻尾で彼女を包んだ。

 先程よりも彼女の手は緩くなった筈だ。


「話してるのは私ですよ老虎さん!!」


 俺がイデアの面倒をみているのを余所に隣のカメレオンは再び体を赤く変色させて白い虎を睨み付けている。


「これは勝ち気なお嬢さんだ。」


 最強のチームを率いる彼もこのこうるさいカメレオンにはお困りのようだ。


「老虎さんはイデアのことをどこまでご存じなんですか?」


 俺は話を進めるために質問をする。

 これを聞いて老虎はいぶかしげな顔持ちで答えてくれる。

「……私達四大都市の長はそれぞれ社長さんと直接、ゲームではなく現実で会って話をうかがっている」


「……本当ですか?」


 あの大企業デミウルゴスの社長が直接会いに来るとはよほど大事なプロジェクトなんだろう。

 俺はまだ会ったことはないがどんな人なのだろうか?


「……あぁ、わざわざ世界中を回り会いに来てくれて協力してくれと頭まで下げられた。 よほどそのイデアお嬢さんにとって大事なことなのだろう」


「だったらなんで〈たからもの〉を景品にしてるんですか!?」

「お前は少し落ち着け」

「……どうやらカメレオンのお嬢さんは一つ勘違いをしているようだね」


 静かに老虎は切り出す。


「私が社長さんからうけた依頼は〈たからもの〉を保管し、いずれ来るイデアお嬢さんに対して試練をだすことなのだよ。」


「……え、試練ってなんですか?」


 かめちょんはどうやら知らなかったらしい。


「イデアお嬢さんが四大都市を巡り〈たからもの〉を集める目的は簡単に言えばリハビリなのだよ。」


「……リハビリ?」


「……そう、それは人間の頃の記憶を取り戻すためのものだ。」


「……」


「だからこそ、ただ〈たからもの〉を手にするのではなくイデアお嬢さんを試す試練を用意するように言われたのだよ、RPGのボスのようにね」


 彼は笑いながら答える。


「私は私の街の特色である闘技大会、これを試練として選んだ。 つまりはそうゆうことなのだよ。」


 彼の答えに対しかめちょんは紫色になりながら動揺をみせる。


「……で、でも私達がいつここにつくかわからなかった訳ですし」


「君達の動向は君の会社の方から連絡を受けているよ、君が毎日日報を送っているのだろう?」


 そういってにこやかに答える白い虎に対し彼の瞳を映したようにかめちょんは青く変色して大人しくなった。


「……そんなの聞いてなかったですよジロウさん。 ……私除け者にされてるんですかね」


 言うまでもなく露骨に落ち込んでいる。


「……落ち込むなよかめちょん。」


「……ジロウさん」


「お前はそのくらい静かな方がいいけどな。」


「どうゆう意味ですか!?」


「かめちょんげんきになったー!!」


 また彼女の体は赤くなる。

 みてるこっちが疲れそうだ。


「とにかく試練と言うからには大会で優勝しろってことだよな?」

「さっしがいいじゃないかジロウ、その通りだ。 再びお前の強さを私に見せてくれ!」


 嬉しそうに笑う彼をみてふと疑問がうかぶ。


「……え、俺?」


「そうだ! こんなお嬢さん達に戦わせる訳にはいかんだろう?」

「なるほど! ジロウさんの本気が見れるんですね! 楽しみになってきました!」

「わんわんがんばってー!!」


 黄色いカメレオンとフードの少女、笑うホワイトタイガーに囲まれて俺は拒否権のない戦いへと誘われるのであった。

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