4.「力」の街 パワー・オブ・メタルズ(2)


「ようやくつきましたね! 一つ目の街パワー・オブ・メタルズ!」

「ついたぞー!!」


 「ワイルド・シミュレータ」にログインした俺達はイデアと共に彼女と出会った「カボスの丘」から西方に進んだ先にある街「パワー・オブ・メタルズ」に来ていた。



 因みにこのゲームにワープという概念はない。

 移動は全て自力で行う必要がある。

 そうは言ってもクジラの背中に出来た船やペリカンの口の中に乗って移動できる交通網もありはする。

 しかしイデアを連れて人目につく交通網を使用は控えた方がいいだろうってことで俺達の旅は殆ど自力での移動だ。

 正確に言うなら殆ど俺の移動だ。


「たまにはお前も自力で移動したらどうだ?」


 俺は頭の上の上新井ことかめちょんに問いかける。


「ジロウさんに乗ってる方が私は移動しなくて済むので楽なんですよ!」


「そうゆう問題じゃなくてだな」


 ……いかんいかん、このままでは現実と一緒だ。


「お前らを乗せてる分俺の体力が削られるんだよ。」


 それを聞いたかめちょんは体を赤くする。


「もージロウさん! 私は軽いんで対して負担になってないはずです!」


 こいつは感情に合わせて色を変える。

 本来のカメレオンはこんなに鮮やかに色を変えないんだが中身が上新井である以上どうこう言っても仕方ない。


「そもそもレディに向かって体重の話をしちゃダメなんですよ!」

「……はいはい、俺が悪かったです」

「あんまり反省してませんねジロウさん!」


 相変わらずかめちょんは真っ赤だ。


「けんかはめー!」


 イデアが俺の背中を揺さぶってくる。

 どうにも今回はかめちょんの味方のようだ。


「……わかったよ、悪かった」


 俺は仕方なく、声のトーンを落とし話す。


「わかればよろしいのです!」


 これを聞いたかめちょんは機嫌を取り戻したのか黄色になり少し偉そうだ。


「なかなおりー!!」


 俺達の様子を察してかイデアが喜んで叫ぶ。

 話の内容を理解しているのかいないのかよくわからないが子供にはそんなことかまわないようだ。


 俺達は街の入り口のゲートをくぐり中に入る。

 ここは「パワー・オブ・メタルズ」

 常に燃え盛る火山「ターメリックマウンテン」の麓にある都市だ。

 ここは俺が唯一一度訪れたことがある四大都市だ。

 来たことがある分それなりにどういう場所か知っている。


 この街について語るならズバリ強い街だ。

 このゲームのコミュニティランキングで常に軍事力一位の街だ。

 あくまでコミュニティ単位での最強ってことだ。

 このゲーム内で強者として知られるプレーヤーはランキングとは別にプレーヤー間で「二つ名」がつけられ恐れられる。

 どんなに戦闘能力が高くても飢えて死ぬことも多いシビアなゲームだから個別でのランキングってものに意味がないんだ。


 軍事力のランキングは別にタイマンをはって最強の生物がいれば一位になれるってわけではない。

 定期的にコミュニティ同士の縄張り争いとしてチーム戦が開催され生き残りをかけたサバイバルゲームが行われているのだ。

 とにかくこのコミュニティ、パワー・オブ・メタルズの連中はそのサバイバルゲームで常に最後まで生き残る。


 その強さの秘訣は徹底した分業によるチームの強化だ。

 パワー・オブ・メタルズは大きく二つの構成員にわかれる。

 戦闘をメインに行う「戦士」とその支援をする「開発者」だ。

 「戦士」達は戦闘能力の高い肉食獣や幻獣を主に構成され常に戦闘訓練を行っている。

 狩りにもよく出ていてこの街の外のNPC動物は出現と同時に狩り採られていると言っても過言ではない。

 勿論プレーヤーであっても襲われる可能性がある。

 俺達もここに来るまで三組ほどチームの連中に襲われた。

 まぁそいつらは俺が一人で退けたが。

 ともかく近付くだけでも危険なこの街だが訪れる者は中々に多い。

 それの理由は「開発者」達にある。


 戦士達のバックアップをメインとする開発者達はこのゲームでは珍しい武器の製造を行う。

 何故珍しいかと言うとそもそも作成の難易度が高いからだ。

 このゲームでは武器を作るために鉱石を採掘しそれを加工する必要がある。

 鉱石は力のある動物でなければ採取に時間がかかり、加工も動物ごとの器用さに応じて作成に時間を要する。

 それをこの街ではパワーが高い象やサイなどの動物が山で鉱石を採掘し手先の器用な霊長類達が武器を加工すると言うシステムを作り上げられているのだ。

 彼らはこの街の戦士達に身の安全を保証してもらえる分他者からの妨害を気にせず開発に没頭出来る。

 軍資金獲得のために市場にて販売も行っており、ここで作られた性能の高い武器を購入するために多くのプレーヤーが危険を省みずここを訪れるのだ。

 さらに武器だけでなく懸賞金をかけた闘技大会などの催しも自主的に行っており力自慢達が集まる街でもある。


 本来自然を楽しめるこのゲームではあるがこの手付かずの自然の中で現実世界の様な開発と闘争に飢えたやつらが集まる、それがこの街「パワー・オブ・メタルズ」なのだ。

 しかし俺達の目的は武器でも戦いでもない。

 このコミュニティの長にあって「たからもの」を貰うことだ。


 長の住む家は街の奥にそびえ立つ石材で作られた和風の城、俺達はそこを目指し人混みで賑わう市場を歩き向かうのであった。

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