「力」の街

「力」の街

4.「力」の街 パワー・オブ・メタルズ(1)


「大崎? どうした寝不足か?」


 いつもと変わらない営業所での朝、所長が俺の変化に気付き声をかけてくる。

 さすが所長をしてるだけあってめざとい人だ。


「まぁ大丈夫っすよ、大したことないです」


 最近いつもより眠りが浅い。

 それもこれも上新井とかいう女のせいだ。


 あの女がうちに居候するようになって一週間たった。

 イデアとかいう人工頭脳系幼女のおもりは割りと上手くいってると思う。

 あの娘はやんちゃでいろんなところを駆け回るが俺の言うことは割りと聞いてくれる。

 なによりあの娘の世話をしなきゃいけないのは夜のゲームの間だけ、さほど問題にならない。

 俺にとって問題なのは上新井だ。


 あの女は初めて会ったあの日以来、本当にうちに泊まり込んでいるのだ。

 あの後、あいつの務める会社「デミウルゴス」から連絡があって本当に会社ぐるみでの依頼だってことはわかった。

 全く大企業の考えることは訳がわからない。


 初対面のクールな印象とは裏腹に喋り好きで暇があったら話し掛けてくる。

 喜怒哀楽の激しいやつで付き合う俺の気が休まるときがない。

 確かに最初、ちょっと美人だとか思ったがここ数日一緒にいてよくわかった。


 あいつはその容姿をプラスに加点してもあまりあるくらいにめんどくさいやつだ。


 おしゃべりで図々しく相手の都合を鑑みない。

 少なくともプライベートは静かに過ごしたい俺にとって天敵でしかないのだ。

 

 因みにこの事は誰にも言えない。

 イデアのことを世間に公開出来ないからそれに繋がる情報は可能な限り隠さないといけないらしい。

 突然家に上がり込んできて無茶苦茶なやつだがそれが社長から極秘裏に受けた任務らしい。

 会社に対して裁判を起こせば勝てそうな気もする。

 しかしそんなことをする時間も元気もゲームにさいたほうがよっぽどいい。

 俺はそう考えている。


「先輩、本当に大丈夫ですか?」


 声をかけてきたのはよく気が利く後輩の松下だ。

 うちの会社では珍しい営業ウーマンである彼女は男女平等をうたう世の風潮にあてられて取り立てて話題にされることはない。

 どちらかというとそうゆう話をするとセクハラだのなんだのいちゃもんをつけられる時代だからみんな妙な気を使っているのだ。


「大丈夫だ松下、ちょっと遅くまで遊んでただけさ」


 この歳になってゲームしてましたなんて恥ずかしくて言えない。


「そうなんですか、私も遅くまでゲームしてたりするんで程々にしないとですよね」


 ……若いやつらは俺みたいな抵抗がないみたいである意味羨ましい。


 ともかく俺は今日の仕事も足早に済ませ自宅に帰るのであった。

 上新井がいようとも「ワイルド・シミュレータ」の世界は俺にとって居心地がいいんだ。




~~~※※※~~~




「随分遅かったですねジロウさん」


 家に帰るとやはり上新井がいる。


「またシャワーは勝手に借りちゃいました、すみません!」


 彼女は今上がりましたと言わんばかりにタオルで髪を拭いている。

 全く悪びれる様子はない。

 なんなんだこの女は。

 あいつの持ち込んできたちょっといい香りのするシャンプーの香いが妙に鼻につくのだった。


「……あんたはマジでここで暮らす気なのか?」


 改めて風呂上がりの彼女を見直すと化粧もしてないのに整った顔付きで可愛い部類の女であることはわかる。

 だからといって突然一緒に暮らし始めた女に欲情出来るほど俺も単純じゃない。


「それが私の仕事なので!」


 随分楽な仕事だな。


「勿論利用させて頂く以上、炊事洗濯家事掃除、全てにおいてお任せください!」


 上新井はなんだかご機嫌だ。


「いや、そうゆう問題じゃなくてだな」


「あとジロウさんの口座に報酬の方も支払わせていただきますよ! 社長のポケットマネーで!」


「そうゆう問題でもなくてな」


「なにが不服なんですか! こんな美少女と二人、同棲出来るんですよ! 普通喜ぶもんじゃないんですか!?」


「そうゆう問題でもなくてだな」


 彼女は大企業という後ろ盾を背に俺の家に上がり込んできた。

 今の世の中突然人の家で居候なんてするもんじゃない。

 その割にあたかも自分の家の用にくつろぐこの女、上新井はある意味で度胸が据わっている。


 だからこそ怪しい。

 男と女一つ屋根の下で二人きりだというのにわざとらしい程に無防備過ぎる。


 今でこそあっけらかんと振る舞っているがまだまだこいつが何を考えているかわからない


 俺がこれからイデアの世話を続けることはそんなにも大事なことなのか?


 それとも何か他に目的があるのか?




 色々と考えて俺は頭を抱えるが仕事の疲れで反抗する気が起きない。


「……とりあえず今日もゲームしないとなんだろ?」

「はい! よろしくお願いします!」


 しばらく一人で静かには出来そうに無さそうだ。

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