3.狩りの時間(2)
動物になれるゲーム「ワイルド・シミュレータ」。
俺はその世界で狼になり、イデアとかいう不思議な幼女を背中に乗せながら頭の上のカメレオン、かめちょんから彼女について色々と情報を聞いていた。
このカメレオンは中々横着だが俺はこれからお供するイデアの事をさっぱり理解していない。
イベントのチュートリアルだと思ってゆっくり聞くしかないな。
「なんだよ大切なことって?」
「イデアお嬢様はこれから各地を巡り冒険する必要があるのですが出来るだけ目立たないように行動しないといけません」
「……なんでだよ?」
「……あなたにはお話ししましたがイデアお嬢様は生きた脳を直接コンピューターに接続することで作られた人工知能ともいうべき存在です、私も詳しくは知りませんが」
なんかこいつから言われると説得力ないな……。
でもとにかく詳しく聞かないとな。
「そんな話してたな」
プライベートだからこそぶっ切らぼうに返事をかえす。
かめちょんとは初対面だがこいつにはある意味気を遣わなくていい気がする。
そういう意味では大分楽だ。
「これは現代の倫理観的に禁忌とされているプロジェクトなので公になってしまうと会社が
「それなら目立たないように普通のプレーヤーと同じように動物にすればよかったのに」
「……イデアお嬢様のプログラムは特別で下手に改編するとエラーを起こしてしまいデフォルトの設定が使えないのです」
なんだかよくわかんないけど人工知能って不便なんだな。
「……まぁそうゆうことなら仕方ないけど、目立たないようにってどうするんだよ?」
俺がそれを問うと待ってましたと言わんばかりにかめちょんは語り出す。
「ふっふっふっ、そこは抜かりありませんよジロウさん!」
頭の上にいたカメレオンは俺の目に映るように身を乗り出し語る。
「イデアお嬢様には緊急時用の多くのチートコードと冒険のための貴重なレアアイテムがいくつか用意されているのです!」
……本当に子煩悩なゲームだ。
「イデアお嬢様自身はアイテムの使用が出来ませんが私達が使えば問題ないのです! 試しにやってみますね!」
そういってかめちょんはどこからか装備アイテムのようなオレンジ色のフードを取り出す。
「……それって」
俺はそれをみて驚愕する。
このアイテムの名は「変装ドックフード」。
このフードを被ることでどんな動物でも他のプレーヤーから小さな子犬、チワワの姿に見えるようになる。
レア度5、価格にして20万コインの貴重なアイテムだ。
因みに猫や小鳥などに変装できるフードも存在するがどちらにしても貴重なアイテムで俺も見るのは初めてだった。
フードを被った途端、小さな幼女イデアの姿は可愛らしい子犬になった。
お前の方がよっぽどわんわんじゃないか。
「子供なのか犬なのかまどろっこしいぞ。」
俺が愚痴をこぼすとかめちょんは再びふふんと笑って話す。
「ならついでにコミュニティ登録しておきましょう! 変装ドックフードの効果はコミュニティのメンバーには効かないんです!」
「……わかったよ。 登録すればいいんだろ?」
登録を済ませるとイデアの姿は耳のついたフードを被った幼女の姿に戻る。
「これで安心です! 先を急ぎましょうジロウさん!」
「おー!!」
むしろその言葉に不安が募るが俺達はとりあえず森を抜け出すことが出来た。
森を抜けたところで俺は空腹ゲージの減少に気付く。
そこそこ長い距離を大きな荷物を抱えて歩いていたからいつも以上に消費が激しい。
「かめちょん、ちょっと腹が減ったから狩りにいっていいか?」
「なんですかジロウさん、さっきご飯食べてたじゃないですか? 食いしん坊なんですね。」
「ちげーよ、ゲームの空腹ゲージの話だ!」
「あ、ごめんなさい。 てっきり現実の方かと」
なんなんだこの女は!?
天然なのか?
確かにもらった弁当は美味しかったがいまいち話が噛み合わねぇ。
「……とりあえず二人とも降りててくれ。 今手持ちの食料がないんだ」
「……仕方ないですね。 イデア様降りましょう!」
かめちょんはそういってイデアを見るが一切イデアは降りようとしない。
「いやー!! わんわんといっしょー!!」
よく社長さんはこんな子供に世界を冒険させようとしたもんだ。
「イデア様! お願いです! 降りてください! ジロウさんが困ります!!」
かめちょんは声高に言うがイデアは頑なに降りようとしない。
「わんわんといっしょー!! わんわんといっしょー!!」
遂には泣き出してしまった。
「あわわ、イデア様泣かないでください!! こまります!」
かめちょんも慌てている。
親衛隊が聞いてあきれる。
「……っち、仕方ない。 このまま狩りにいく」
「え、それって……?」
かめちょんが言い終わるよりも先に俺の体は獲物を求めて駆け出す。
「じ、ジロウさん!?」
「……しっかり捕まってろ!」
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