3.狩りの時間(1)
「では早速イデアお嬢様に会いに行きましょう!!」
この女は上新井杏子、突然俺の家にあがりこんできて居候することになった。
「早くしますよ大崎さん!!」
なんでも大企業「デミウルゴス」の一人娘、イデアお嬢様の親衛隊らしい。
「ほら、早くヘッドセットをつけてください!!」
最初の印象から一転してきゃぴきゃぴしている。
「……わかったよ」
彼女に言われるままヘッドセットをつける。
「そういえばあんた俺らの近くにいるのか?」
「すぐ近くにいましたよー。 気付かなかったんですね」
……全く気配を感じなかったが。
「まぁ入ってみればわかりますよ! 早く入ってください」
俺はいつもこのゲームをするときヘッドセットをつけてベットで寝転がってやっている。
現在ゲーム用に開発されたデバイスはこの体勢でやるのが主流だ。
そういうわけで上新井は俺のベットの隣に持ち込んだ布団を敷いて寝転がっている。
みたて俺よりも若いが見知らぬ男女が二人布団に転がってゲームをすると言うのもどうなんだろうか……。
「ぼさっとしてないで早く来てください!」
「……はいはい」
俺はゲームを起動する。
ゲームの起動音と共に意識はここではなく仮想世界「ズー大陸」へと移行するのであった。
~~~※※※~~~
目を覚ますと昨日と同じ場所だ。
俺の隣で相変わらずイデアという幼女が寝ている。
俺が起動したのに気付いてかイデアも目を覚ます。
「……おはよー! わんわん!」
「……俺はわんわんじゃない、ジロウだ」
……こいつがただのプレーヤーじゃなくて事故死した女の子だなんて、まだ信じられない。
行動を共にしろって言われたけど何をしたらいいのやら。
「ジロウさん! 起動しましたね!」
上新井の声が聞こえる。
しかし姿はどこにも見えない。
「あんたどこにいるんだ? 姿が見えないぞ」
「あなたの前にいますよ、ジロウさん!」
前を見ても草の茂みしか見えない。
なんなんだろうか、描写バグか?
「もー鈍感ですね! ここですよ!」
そう叫ぶと目の前にあった茂みが突然色を変える。
グニャリと変色したかと思うと緑色の鱗状の肌、ギョロっとした眼球、とぐろを巻くような尻尾、これを併せ持つ怪物、……ではなく爬虫網有鱗目、カメレオンが姿を現す。
「あーかめちょんだ!!」
イデアはかめちょんと呼ばれるカメレオンを指差し喜ぶ。
「お前カメレオンだったのか、擬態出来るだけで姿を消す機能なんてないんじゃなかったか?」
「私は親衛隊ですよ?このぐらいの特権はあってしかるべきです!」
なんて身内贔屓なゲームなんだ。
上新井ことカメレオンのかめちょんは俺の頭に乗っかる。
ゲームだから重さは感じないが相変わらず強引な女だ。
「では出発です!」
「たんけんだー!」
……なんだかお守りをする相手が増えてしまった気がする。
俺は仕方なくため息をついてかめちょんが示す方向に向かって歩き始める。
頭にはかめちょん、背中にはイデアを乗せてだ。
俺はタクシーか何かか?
「おうまさんおうまさん!!」
……お前らゲームなんだから自分で歩けよ。
~~~※※※~~~
「それよりもこれからのことについてお話しさせてください」
俺の思いを余所にかめちょんは話し出す。
「今イデア様はこのゲームの四大都市を巡られております」
……四大都市。
俺も一つは行ったことがある。
灼熱の火山と工業の帝国「パワー・オブ・メタルズ」。
大空にあるとされる天空都市「スカイフロントウェア」。
草食獣のみが住む静かな楽園「グリーン・ホスピタル」。
海底にある水族館のような桃源郷「アクアリウムガーデン」。
これら四つの都市を四大都市という。
これらの都市は運営が用意したものではなくこのゲームのリリース時からプレーヤー達が結束して作ったコミュニティの運営する村だ。
こうした村は数多くあるが中でも軍事力、人気、人口、経済力などのコミュニティランキングの上位を連ねるのが四大都市だ。
「それでなんで都市巡りなんだ?」
俺がそれを聞くとかめちょんは少し寂しそうにいう。
「動物園で多くの動物を見てまわる、これがイデアお嬢様と社長の事故前の最後の約束だったそうです」
「お花がいっぱーい!」
かめちょんの憂いを余所にイデアは楽しそうだ。
……本当に記憶は残ってないみたいだな。
「そこで社長はこのゲームを作りイデアお嬢様に冒険をさせるようあるギミックを仕込みました。」
……ギミック?
「コミュニティの村ランキング上位四つ、つまり四大都市の長にそれぞれ〈たからもの〉をプレゼントしたのです!」
……は?
「イデアお嬢様の旅の目的は四つの〈たからもの〉を集めることでいける〈思い出の場所〉に行くことです」
「……なんだその安っぽい設定は?」
俺は思わずツッコミをいれる。
ここは自然を体験するため作られたゲームじゃないのかよ。
「このゲームの企画部が万人の要望に答えることで参加者が増えるはずというスタンスで開発に望んでいるので仕方ないです。」
妙に楽しそうにかめちょんは語る。
「とにかく私は幼いイデアお嬢様がこの壮大な企画をクリアできるよう選抜された親衛隊ということです!」
相変わらず上から目線である。
「……それで一介のプレーヤーの俺もそれに巻き込まれたと」
「まぁまぁいいじゃないですか!こんな大きなイベント通常プレイじゃ体験できませんよ!」
……俺はそんなのより自由に駆け巡るのが好きだったのになぁ。
俺の憂鬱を余所に上の一匹と一人は楽しそうに鼻唄を歌う。
安請け合いしたけどこの先苦労しそうだ。
「それとですねジロウさん! 一番大切なことがあります!」
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