1.嵐の夜に(2)

 雷鳴を頼りに全身の毛を逆立て俺は駆ける。

 降り注ぐ霧状の雨はその一粒一粒に実感があり、この体が自然の中に確かに存在していることを認識させる。

 張り詰めた感覚の中で俺のかんが標的の居場所へと導く。


「カボスの丘」は深い森林に囲まれた荒々しい山間にそびえる丘で岩肌のゴツゴツした感触が地面を蹴る足から伝わる。

 暴風と共にパラパラと差し込む雨粒のおかげで足場のコンディションはよくない。

 おまけに隆起りゅうきした岩石のせいで見渡しも悪い。

 しかしプレイしてきた経験則でわかる、どうやら雷が落ちたのはこの先の崖側のようだ。


 雷鳴を頼りに駆け回っているとどこからかが現れる。

 こいつらは顔馴染みの同業者、つまり俺と同じように大物を狙うプレーヤー達だ。


「またジロウの旦那か、狩り場で会うのは何回振りだ?」


 俺の真上に現れたのは大鷲おおわしの「タカちゃん」。

 いつも空から俺の狩りを邪魔してきやがる。


「今回こそ私に譲って欲しいのだけど!」


 俺の右隣に現れたのはオオツノジカの「ナチュラル」。

 彼女は草食動物の癖に非常に好戦的なハンターだ。




「ファッキンジャップ!!」




 俺の左隣に現れたのはゴリラの「ストロンガー」。

 恐らくアメリカ人だ。



 話すと長くなるから省略するが何だかんだコイツらとは因縁がある。

 負けるわけにはいかない。

 勝負とはそうゆうものだ!




「今日も俺が獲物を頂くぜ!」




 掛け声と共にスタミナゲージを削って更に加速する。

 パワー比べとなると大型動物であるナチュラル、ストロンガーには敵わないが直線勝負のスピードなら俺の方が早い。

 ライバルのタカちゃんも今日は雨と暴風でいつもほど力をだせない様子だ。


 これなら圧勝だ!




 そのまま他の三匹を振り切って目標の姿を補足する。

 岩陰から現れたそいつは本当に全身銀色の体毛をたなびかせる「麒麟きりん」。

 空気が凍るような輝きを放つやつの姿に怯むことなく俺は跳びかかる。


 やつはもう俺のものだ!!


 跳びかかった瞬間、銀の麒麟きりんも怯むことなく俺を見つめてきた。

 その瞳孔は大きく見開き見るものを圧倒する。

 それでいてそれは、今から戦いに望む野生の目ではない。

 何かを品定めするような鋭い眼光。







 そして麒麟きりんはその場でいななく。


 瞬間やつの周囲には大量の落雷が発生する。


 強力な幻獣種とは聞いたが雷を操るだと!?

 どこの狩りゲーだ!!

 こっちは普通の動物なのにゲームバランスおかしいだろ運営!!


 内心愚痴をこぼすものの反射的に動いた体は落雷を直前で避ける。


 するとどうだろう、雨の影響で足場は泥沼状態になっており足をとられる。


「くそ!!」


 勢いよく駆け出したせいか体が止まらない。

 俺の体は標的を横切りそのまま崖の方に投げ出される。


「ははっ、悪く思うなよジロウの旦那!」

「駆け出したあんたがバカなんだからね!」

「ウホー!!」


 あいつらここぞとばかりに好き勝手言いやがって!




「覚えてろよちくしょー!!」




 俺はそのまま崖の下の森に墜落ついらくした。




 落ち行くさなかで再び麒麟きりんと目があった。

 その瞳には逆さまに落ちていく俺が映っていた。

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