カーテンコール

勝利だギューちゃん

第1話

この世に未練はない。

いつかは死ぬが、それを待つ根気はない。


なので、自ら人生に幕を下ろすことにした。

周囲は、俺の死を望んでいる。

その望みを叶えてやろう。


まあ、どの道地獄だろうが・・・

それもいいか・・・


天国はある意味では、一番の地獄とも言う。

仮にいけても、油断をすれば、いつでも転落する場所だ。


て、この話はいい。


自殺の方法を考えた時、服毒にした。

場所は、山奥にある小屋にした。

誰も邪魔は入らない。


そして、ドアを開けた時、俺は驚いた。

クラスメイトの女子がいた。


「・・・くん?」

「ああ」

「どうしてここに?」

隠していてもしょうがないので、真実を話した。


「人生の幕を下ろしに来た」

「・・・くんも?私もなの」

「・・・さんも?どうして?」

「多分、・・・くんと同じと思う」

「そっか」

人生の幕はいつかは下りる。

しかし、舞台と違いカーテンコールも、アンコールもない。


一度下りれば、もう上がらないのだ。


「・・・くん、私たちは、もうすぐ死ぬよね」

「ああ」

「なら最後に、ふたりでしない?」

もしかして、危ないことか?

いや、その欲があるのなら、死は選ばないな。


「何をするの?」

「私たちが生きた証を残すの」

「何を?」

「ふたりで漫画を描きましょ」

「漫画?」

そういえば、漫画家を目指した事もあったな。


あきらめたけど・・・


「お話も、絵も、ふたりで描くの」

「ふたりで?」

「うん、道具は持ってきてる。それに・・・」

「それに?」

「最初で最後なんだから、読者の事は考えなくていいわ」

「そうだね」

こうして二人で、漫画を描く事にした。


ストーリーも絵も、二人で考えた。

お互いに案を出し合い、いいと思う物を選んだ。


キャラも何人か考え、それぞれにふさわしい役を与えた。


漫画を描くのは久しぶりだ。

確かに辛い作業だ。

報われる事は少ない。


でも、逆にその楽しさを思い出した。


短編だったので、一週間で仕上がった。

食材は山小屋に置いてあった。


「・・・くん、出来たね」

「そうだね」

完成した作品を見て、ふたりでハイタッチをした。


最初で最後の共同作業だ。


「・・・くん」

「えっ」

「あなたはまだ、死んではいけない」

「どうして?」

「私と違い、あなたはまだ、必要とされている」

「そんなはずは?」

そう、そんなはずはなかった。


「気がつかなかった?この作品は殆ど、あなたが1人で仕上げた。

私は、アシスタントみたいなもの・・・」

「えっ?」

「あなたの漫画を読みたがっている人は、たくさんいる。それに・・・」

「それに?」

「作業をしている時のあなたの顔は、とても輝いていた。惚れたよ。」

「えっ?」

そんなはずはないのだ。


「まだ死にたい?」

「・・・いや・・・」

「私も死にたくなくなった」

「じゃあ、ふたりで」

「ううん、あなたは先に行って。私は後始末をしていくから」

「ならふたりで・・・」

「ううん。早くふもとに下りないと、皆が心配する。私もすぐに行くから・・・」

彼女の言葉に甘えて、先に下りる事にした。


下りた時に、激怒されるかと思ったが、みんな泣いてくれた。

抱きしめてくれる子もいた。

死ななくてよかったと思った。


「そうそう。山小屋で、・・・さんに会ったよ」

「えっ」

皆、驚いていた。


「ウソでしょ?」

「ホントだよ。だってこの漫画はふたりで描いたもの」

原稿を見せた。


「そんなはずないよ。だって・・・さんは・・・」

「・・・さんは?」

「あなたがいなくなった日に、事故で亡くなったもの」


実在の世界には、カーテンコールはない。

あの山小屋での、彼女は神様が与えたカーテンコールだったのか?


そう、思わずにはいられなかった。

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カーテンコール 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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