第1話

あれから数日、彼女は自殺をしようとしていた。

物干し竿にロープを通して、あとは台を蹴るだけ。

「ゴンゴンゴン」

すさまじい音が窓から響いてきていた。

カーテンを開けてみると、そこには先日吸血鬼を名乗った少年が立っていた。

「何か御用ですか?」

「いや、この間飲んだお前の血が切れてからどうにも調子がおかしくてな…もう一度吸血をさせてくれ。」

「いいですよ、どうせ死ぬ直前ですし。」

「いや、それは困る。もしこれがお前の血が原因だったとしたら、俺はどうしようもなくなる。」

「そんなこと言われても私には関係ないですよ。」

少女はそもそも生に頓着しない…言ってしまえば自殺志願者である。

この世への執着がないのだ。

「なんなら、私の血を吸いつくしてもいいんですよ?」

「いや、それはそれで困るんだ。よし、そうだ、何か対価を支払おう。それで生きてはくれぬだろうか。」

「じゃあ、うちの家事全部やってください。湯水はなるべく節約しながらで。」

「よかろう、この俺様にできぬことなどないだろう。契約成立だ。」

「容赦なく家事に口を出しますからね。」

「ではまず今日の分の吸血をさせてもらおう。どうも、お前の血を吸っている間は気持ち悪いぐらいに元気なのだが、それが終わると途端に何もかもわからなくなったりしてな。」

少年は少女から吸血をした。

「おや?今日は味が違うぞ?最悪なことには変わりないが。」

「処方が変わったからじゃないからですかね。」

「処方とは何だ。」

「私、病気なんです。だからいっぱい薬を飲んでるんです。まだ治療開始してから日が浅いから少ないけど、これからどんどん増えていくそうですよ。」

「それは血に関係あったりするのか?」

「血中濃度がどうとか言ってたので、多分関係あるんじゃないですかね。」

「それは多くの人間がやっていることか?」

「少数派だと思いますよ。迫害されてるし。」

「そうか、それはすまぬことを聞いてしまった。

「まぁでも、最悪死ねばいいし。」

「先ほど生存の契約をしたところだが?」

「ああそうだった、忘れてた。そうですね、飽きるまでは付き合いますよ。」


そうして深夜の来訪は、少女が睡眠薬を飲むことにより幕を閉じた。

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