第49話魔法使いBravery その18

「さて、まずは情報が欲しいところなのだけど」


「情報、ね。 あの一撃を食らえば即負けだということくらいかしら?」


「そんな見りゃわかることはいいんだけど」


俺たちはミリエルに俺とアイヒスが乗った状態で路地裏を高速で移動していた。乗っていると言っても、多分ミリエルの魔法か何かの力でミリエルの上に浮いた状態でいたというのが正しい状態なのだが。まぁミリエルが二人を運んでいることに変わりはないだろう。


「正直冷やっとしたわ。あと少し遅れていたら確実に死んでいたわね」


「開始早々博打とか本当勘弁してです師匠!もういくら命あっても足りないです!!」


「いやまぁ博打を打ったつもりはなかったんだけどね。俺の中では割と想定内だったというか、さっきアイヒスがを見せてくれたおかげで最初の一手は確実にこちら側が貰ったと確信できたわけだし」


「あの惨状を見るとこれっぽっちも計画通りなんて信じられないです」


「あ、あははは・・・・なんか昨日よりも張り切っていらっしゃってたみたいだね」


「・・・・・」


「流石の私も未治に物申したくなるわ」


俺たちを運んでいる下の方からもため息が聞こえてくる。これについてはしょうがないのだ。なんだか知らないけどあのドラゴン、昨日は手加減してたのか今日はパワーが桁違いだったのだ。正直内心ではちょっと焦っていたものの、なんとか考えていた初動の策にはあまり支障がないどころかむしろお釣りがくる成果を上げることができた。


ドラゴンといえど所詮は生物に過ぎない。たまに無限の力を身につけたドラゴンが物語で登場することもあるのだが、そんな個体が存在すれば、このゲーム自体が破綻してしまうのは明白だ。この世界はあくまでもゲームなのだ。だから必ず公平な仕様というか、極端に行ってしまえばどんな異世界生物でも工夫次第で倒せるような、この世界はきっとそうなっている。


だからこそ、必ずあのドラゴンにも疲労、または燃料切れみたいなものが訪れることは容易に想像することができる。故にこの戦いは消耗戦に持ち込む、その方向性は自分の中ですでに決まっていた。向こうの方が平均の火力が高いなら当然取るべき道であると思ったからだ。


ーーあの時、ミリエルは天使の時代ヴァルキュナス・エラ


たしかに発動はした。大気中に漂っているという魔力の元、『魔力子』と呼ばれる物質を一点に集め、膨大な魔力を起こしたことまでは行っていたのである。


しかしそのあと、技の発動するための『誓約リミッター解除』を行なってはいなかった。そして幸運にも相手はそれに気づくこともなく、溢れる炎を解き放ったのだった。


しかしこのままではただ単にその一撃を食らってゲームオーバーしてしまう。故に戦線離脱のための策を立てることが必要だった。そこで登場するのはアイヒスの魔法だ。


アイヒスはあのあと俺の家でたくさんの種類の魔法を一挙に見せてくれた。


炎、水、氷、土、雷、風、光、闇・・・・


威力は家の中で確認はできなかったものの、色々使える器用貧乏さんのミリエルよりも実に多彩な属性をアイヒスは操ることができるというのだ。よくあるラノベでは魔法使いにはそれぞれ一つの属性とか、あっても二つ三つくらいでめっちゃおだてられるとかいう設定をよく見かけるものだが(なお、チーターは除く)、アイヒスはほとんど使える属性に制限はないらしい。ちなみに"魔法人"の中でもこんなに属性を持つのは知る限りアイヒスだけなのだとか。ミリエルよろしくこいつも結構破格なやつだな・・・・


さらにアイヒスはこれらの属性魔法の形式を変える技術に長けているのだ。昨日見た炎の鳥や、氷魔法の応用で作った氷像。さらには水と炎の混合で霧を生み出し、さらに土による着色で黒い煙を作ったりなど。ちなみにミリエルにはこんなに細かく魔力を制御することはできないとのこと。ミリエルの魔法は威力はあるものの、精度に関しては若干苦手なのだとミリエルは言っていた。これはミリエルだけでなく"天使"全体も言えることらしい。


"魔法人"が唯一他種族よりも劣らない部分であり、魔法を司る種族である理由こそ、この魔法精度の高さなのである。


そしてそんな"魔法人"の中のトップであるアイヒスに頼んだこと。それは、ミリエルの魔法のであった。


あのドラゴンに消耗してもらうにはどうしても最後までミリエルが天使の時代ヴァルキュナス・エラを撃つと思わせなければならなかった。具体的にいうと発動して撃ち出し、力が衝突する直前までだ。だが撃ち出してしまっては本末転倒になってしまう。そこで、相手には撃ち出されたとための策を考えればいい、というわけなのである。そしてその策のキーこそがアイヒスの魔法なのだ。


アイヒスには事前に天使の時代ヴァルキュナス・エラを間近で見てもらった。疾風の元へ行く前に別のひらけた場所でミリエルに使わせたのである。別に見せなくともそれっぽいやつを思い浮かべてもらえればそれで良かったのだが、ミリエル自身が少し出すくらいならそんな消耗にならないし、目的地に着くまでには回復していると言うのでやってもらうことにしたのだ。あのカニと戦った時に比べて俺と契約したミリエルは本来の力を多少取り戻しパワーアップしているのでこれくらいなら大丈夫なのだという。


そして、技を見たアイヒスは、実際の光景を思い浮かべながらその画を映し出す魔法『詠唱:投影コーピ』を発動し、見事にミリエルの技を姿だけ写し取ることに成功したのだった。この時アイヒスは嬉々としてこの魔法の解説をしていたのだが知識がなさすぎて右から左へ受け流し続けていた。ごめん、アイヒス。今のうちに謝っとくから今度基礎の基礎の基礎の基礎の基礎ぐらいから教えてください。


何はともあれ、これで最初にとる行動のためのピースは揃った。開幕ミリエルが技を発動し、撃つ直前までそのまま行う。そしていよいよ撃つというところで俺が合図し、アイヒスは件の魔法を発動した。ミリエルは技の名前だけを叫び両手を突き出しているだけで、そこからアイヒスの魔法で生まれたおびただしい閃光が見事にミリエルが撃ったかのように投影され、フレアに向かって伸びていった。ひとまず作戦の前半はこれで完了したというわけだ。


次に離脱なのだが、これもアイヒスの魔法とミリエルの機動力がうまくハマる形となる。閃光が辺りを包んだタイミングでミリエルは勢いよくそこから離れ、俺とアイヒスを魔法で回収しつつ、高速で路地の道を駆け抜けた。直後激しい熱がものすごい勢いで迫ってきたのだが、これをアイヒスは氷の壁を形成する魔法『詠唱:氷壁イセ・ワルレ』を何枚も張ることによって完全に防げないにしてもそれほど大事に至らないほどに抑えることができた。おかげで俺は軽い火傷だけで済んだし、ミリエルとアイヒスに至っては傷一つもなかった。おそらくもう異世界生物特有の自己回復で癒えたのだろうか。


というわけで最初の動きに関しては俺たちに軍配が上がったといえる結果となったのである。


「で、次の行動なんだけど・・・・」


「お、ようやく思いついた?」


「いや、まだこれといった策はないけど・・・・えーとここだとまずいから・・・・とりあえずはここに向かってほしいな」


俺はミリエルが開いていた探知の魔法『周辺探知サーチ・アロンド』のマップのある地点をタッチしながらミリエルに目的地を知らせる。例えミリエルがマップを見ていなくとも、指し示す場所はミリエルの脳内にあるマップのイメージに直接届く。これは簡単な例えだが、この魔法はカーナビを頭に搭載したようなものなのだという。控えめに言ってめっちゃ便利な魔法だ・・・・察するものもいると思うが実はこれもアイヒスの魔法制御が大きく貢献している。


アイヒスは本来"天使"通しでしか上手く繋がらなかった思念伝達をミリエルの魔法を少しいじり、俺たち三人を対象に実現してみせたのである。もちろん仕組みは分からん!


・・・・まぁともかく、これによって俺達は言葉を介さなくても意思の伝達が可能となったわけだ。今俺がマップにタッチしたのもその地点が俺の意思伝達としてミリエルの脳内に送られている。これで戦闘中の情報伝達は格段に楽になった。いちいち指示するのに大声を上げるわけにもいかないし・・・・俺の喉は守られた。


「ここね・・・・結構高い建物のようね」


と、どうやら目的のビルにたどり着いたようだ。ここなら作戦サプライズの妨げにはならないだろう。とりあえずここの屋上にでも行って指示出しに専念しよう。


「どこも同じだと思うけど・・・・一番上まで運べる?」


「ええ、このまま浮かせたままでいいかしら?」


「え?待って?どういう風に行こうとしてんの?」


階段を高速で登るとかじゃなくて?


「普通に飛んで行くのよ」


・・・・俺は咄嗟にアイヒスを見た。よかった、アイヒスもなんだこいつ?って顔してた。


「聞くまでもないです。ミリエル様も大概頭おかしいです・・・・ああ、こういう時にいうです。『発想が神様すぎる』と。なんかすごいこの言葉に納得したです」


「うん・・・・認めたくないけど使い方がなんとなくわかったよ」


俺たち二人はミリエルの口癖の有用性を確かめ合った。今度本当に使って・・・


「何ブツブツ話してんのよ。まぁいいか。じゃ行くわよ!」


「「え!?ちょっ!!」」


「せーーーーーーーーーーの!!!!」


ズドォォン!!


「「ぎやぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!」」


ミリエルは問答無用で合図とともに背中の羽根を使って勢いよく跳躍し、俺たち二人を浮かせたまま恐ろしい速さで屋上にたどり着いた。


これが俗に言う、逆バンジーというやつか。


もう怖いなんてもんじゃなかった。落ちなくても死にそうだった。というか死んだ。はい死んだ。まぁ生きてるんだけど。


「ゲホッゴホッ・・・・ヤバゲホッなんか叫びすぎてゴホッ・・・・むせるゴホッ」


「う〜頭がくらくらするです〜」


ミリエルに降ろされた俺たちはもう散々だった。俺はなぜか咳が止まらずアイヒスは回転してもないのに目を回している。


「全く大げさね。そんなに負荷をかけてなかったはずでしょ?」


「そう言うこっじゃ、ゲホッ!ねーんだよ!!お前人間のもろさ舐めゴホッんなよ!!こう言うゴホッので普通にショック死するんだからな!!もっと人をゴホッゴホッいたわる気持ちをゲホッ養え!!」


「・・・・未治。言ってることが神様級にかっこ悪いわ。あと咳がうるさい」


「あ〜世界がぐるぐるです〜」


「ほらアイヒスもいい加減しっかりして」


ミリエルは一人でぐるぐるしているアイヒスに駆け寄ってその回転を抱きしめる形で止めた。しかしアイヒスはまだ正気に戻りそうにないな。


「ゴホッ・・・まぁいいや。とりあえず次の行動を指示しよう」


「ええ。アイヒスは一旦落ち着くまで休んでなさい」


「あ〜ひどい気分です〜」


もうなんかアイヒスが昨日から気の毒キャラと化しているのは俺の気のせいでいいのかな?


「まずはさっきも言ったけど相手の攻撃をもう少し見ておきたい。そのために軽いジャブから行こうと思う」


「そうね。策とかじゃなくても私も確かめておきたいこともあるしね」


ミリエルには魔法も含め多彩な攻撃方法が存在する。それらが通じるかどうかも確かめておきたいのだろう。


「ただ正面から行くわけにはいかない。安全に情報を得るためには常に相手の隙をついていくしか無くなるというわけだ」


「つまり相手の死角をとり続ける戦法というわけね!」


「簡単に言えば正解。ミリエルにしては大正解だよ」


「キングスクラブの時に同じことをしたでしょ?だから今回も同じかなと思っただけよ・・・・そしてその賞賛はムカつく」


最近のヒロイン奥義"ジト目"で俺を見るミリエル。もちろん無視。


「というわけで君たちにはこの東京ジャングルに御誂え向きな戦法をとってもらおう」


周辺が崩壊してるとは言え幸いまだビルの数は多く、それにアキバ特有の路地の数の多さもこの戦法が最善策だとする証拠足り得る。


問題


そして相手は巨体。こっちは人間サイズ。巨大な勢力に少数の軍勢が挑むための策といえば?


もう皆はお分かりだろう。


「これぞザ・弱者による強者ごろし!ゲリラ戦法で行こうか!!」


ただふつうのゲリラだと思っちゃいけない。ここからが俺の本気の見せ所ってわけよ!!

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